ブルー・ブラッド
士官居住区の自室の前でディアッカはミリアリアとぶつかった。
どちらも急いでいたので、その衝撃は結構強く、コーディネイターのディアッカはともあれミリアリアはかなりのダメージを受けた。
「大丈夫か?ミリアリア!ケガはないか?」
一応フェミニストのディアッカはそう言ってミリアリアを抱き起こした。見ればニーソックスが破れて血が滲んでいる。
「ちょっとこっちにおいで」
医者のタマゴでもあるディアッカはミリアリアを自室に連れ込むと、ニーソックスを引き裂いた。
「何するの!ちょっとやめて!これ位大丈夫だからほっといて!!」
ミリアリアは真っ赤になってディアッカを突き飛ばした。
「おまえ・・・それはひどいんじゃない?オレはただ傷の手当てをしてるだけだろう?」
「だからほっといてって言ってんのよ!また噂になっちゃうじゃない!」
ミリアリアは涙声だ。
「オレは別にいいって言っただろ?あんな噂今更じゃないか!」
「あたしはもう嫌なのよ!コーディネイターのあんたに弄ばれてるなんて言われるのも!あんたを見るのも・・・もう嫌なのよ!だからもう傍に来ないでよ!」
おかしい。いくらなんでもミリアリアはこんな酷い拒否をした事はない。
裏に何かあると思ったディアッカはそっとミリアリアに問いかけた。
「ミリアリア・・・なんでそんなにオレを嫌がるの?また何か言われたの?」
こんな時のディアッカの声はとても優しい。
ラベンダーの紫の瞳も穏やかだ。だが、それ故にミリアリアは悲しくなってしまうのだ。
───先日、エターナルに用事があって、ミリアリアは艦長と2人で出向いたのだが・・・。
ここでも、ミリアリアはディアッカと噂になっていた。
しかも・・・周りは皆、美しいコーディネイターばかり。ヒソヒソと声がする。
「え〜あんなのがディアッカの彼女なのかよ。あいつも趣味悪くなったよな・・・」
「AAにはあんなのしかいないから仕方ないさ。それに、助けて貰ったんじゃ恩だってあるだろうしな」
そして・・・その中の1人がミリアリアに写真を突きつけた。
明らかに嫉妬の混じったきつい眼で・・・。
「その方ディアッカの婚約者ですのよ。綺麗でしょう?貴女と違って・・・!」
と、声高くミリアリアを罵倒した。
本当に美しかった。彼と同じ金髪で瞳はエメラルド。華やかでそれでいて華奢で・・・。
実は、ミリアリアは彼女の事を知っていた。AAがオーブに滞在していた時、ディアッカのIDを解析中に知った事実だ。
その時に見たデータとこの写真は同じ顔をしていた。
ミリアリアは黙ってディアッカにその時に渡された写真を見せた。だが、彼の反応は鈍かった。
それもその筈・・・ディアッカは忘れていたのだ。自分の婚約者の事なんて。親同士の決めたことだし、
第一、もう何年も会っていなかったのだから無理もない。だから・・・。
「誰?この女・・・」そう答えてしまっていた。
それをミリアリアは誤解した。ディアッカがとぼけていると思ったのだ。
ディアッカの頬が鳴った。
「あんたなんて大嫌いよっ!もう・・・顔も見たくないわ!!」
「ミリアリア・・・!」
「もうたくさんよ!あたしに構わないで!」
「コーディネイターにあたしの気持ちなんて解らないわ!」
「そうかよ・・・そこまで言うならオレはもうおまえに近寄らないさ・・・
ああ・・・オレにだってナチュラルのオンナの考えていることなんて・・・理解できねえよ!」
「ほらよ!ここのパスワードだよ!出て行くときロックして行ってくれよな」
冷たく言葉を吐き出してディアッカは自室を後にした。
ナチュラルの女もコーディネイターの男も誇り高き者。まさに『高貴な血』の証。
お互いを思いやる余り・・・お互いに傷つけあうのだ。
そして・・・きっと今は解り合えない迷路の中に迷い込んでいるだろう2人───。