クサナギからディアッカに技術協力の要請があった。
詳細はクサナギに到着してからだというが、なんでも終わるまでには3日もかかるという話。
あの夜以来、3日経っているがミリアリアとはまだひと言も話していない。
日頃彼女に付き纏っていただけに周囲も変だと感じ始めたようだ。
このままにしておくつもりはないが、少し時間が欲しかった。
そんな事情があったからディアッカは、渡りに船と言わんばかりにクサナギの要請を受けた。
YOU ARE MY SECRET SIDE 『 D 』
「やあ、よく来てくれたディアッカ!」
オーブの姫様、カガリが出迎えてくれた。隣にキラの姿もある。
ナチュラルだがかなりの美人で、キラと2人並んでいるとお互いどことなく似ている。
「元気そうじゃん?アスランとはうまくやってるの?」
ディアッカはちょっと意地悪気に尋ねた。噂は聞いている。なんでもアスランの方がご執心らしい。
「そんなのはただの噂だ!」
顔を紅くしてカガリはそっぽを向いた。照れ隠しなのが一目瞭然だけど。
「3日間・・・AAに帰してやれないけれど、この礼は必ずさせて貰うからな!」
そう言ってカガリは天真爛漫に笑った。
ディアッカは外を見ている。
必死で作業に専念してる内はまだいいが、夜になるとミリアリアのことが頭から離れない。
突き放してしまったら執着心も薄れるかと思ったが、どうにもならない自分を再確認するばかりだ。
本気で恋に堕ちている。
身体も心も両方欲しい。
無理な望みだとわかっている。
トールはミリアリアの至上の存在。
心までは奪えない。
部屋の窓からAAの姿が見える。
今頃・・・彼女はどうしているだろうか。
自分のいないAAは、ひと時でも心休まる場所になっているといい。
AAにいると・・・。
ディアッカはミリアリアのいる所を探してしまう。。
彼女がどんなに巧に場所を移しても泣いている声を拾うから。
コーディネイターの聴力の限界まで意識を研ぎ澄ませて、彼女を探してしまう自分はなんて滑稽なのだろう。
どんなに離れていても気がつけばいつも彼女のことばかり気にしている。
最初は恋なんかじゃなかった筈だ。
恋人を失い、ディアッカを殺そうとした女。
そんな女を普通好きになる訳がない。
なのに・・・ミリアリアは真直ぐにディアッカの心に飛び込んできた。
ナチュラルもコーディネイターも同じ人間なのだと、そんな当たり前のことさえわかっていなかったディアッカを偏見なく扱った。
彼女は自分をどれ程心配し、気遣ってくれただろう。
たとえそれが恋愛感情じゃなかったとしても。
強くて・・・弱いアンバランスなナチュラルの女。
美人ではないが・・・そのくるくる変わる表情はとても可愛くて。
ちょっとからかうとムキになる反応がおかしくて。
傍にいると焦りも苛立ちも嘘の様にかき消してしまう温かな存在感も。
亡き恋人を想うその真摯なまでのひたむきさもみんなみんな愛しくて。
いつしか命を懸けても護りたい程の至上の存在になっていた。
戦争が終ってプラントに帰ったとしてもディアッカはもう以前の生活には戻れない。
何故なら・・・出逢ってしまったから。
こんないつ死ぬかも分からない世界でギリギリのバランスで命を懸けて今日を生きる。
最前線で味わう気の狂いそうな暗い空間を、共に突き進んだ彼女以上の存在などありえない────。
だから・・・どうしても欲しい!離したくない!
たとえその心を占めているのが自分ではないと解っていても・・・。
───PONNN♪
「ディアッカ入っても大丈夫?」
「キラか?ああ、開いてるぜ・・・」
「カガリから差し入れ。オーブ特製のハーブティーとオレンジケーキ。
ディアッカの協力で早く終ったってみんな喜んでいたよ
明日は予定を早めて、夕刻にはAAに帰れるそうだよ」
「3日の予定が1日だったな・・・」
ディアッカは苦笑する。本音はあと1日、こっちにいたかったと思う。
「ところでさ。ディアッカ、ミリィは元気?」
「ん・・・ああ・・・今ちょっとあいつは身体の調子が悪いけど、まあ元気でいるよ」
そんなディアッカの言葉にキラは、
「へえ珍しい事もあるね。君がそんなミリィを残してクサナギに来るなんて・・・」
と、怪訝そうに首を傾げた。
ディアッカは内心ドキリとする。相変わらずキラは鋭い。
「明日は僕もAAに行くから久々にミリィに会えるよ」
「ああ・・・それは喜ぶ。会いに行ってやってくれよ」
ディアッカは心からキラに言った。
「ディアッカもあまり元気ないね・・・どうしたの?ミリィとケンカでもした?」
「なんで?ケンカって・オレ達特別仲がいいってわけでもないんだよな。勝手に周囲が騒いでるだけでさ。
何でか知らないけれどさぁ・・・ちょっとした事でもすぐ噂になるんだぜ?オレはともかくあいつが可哀そうだよな」
溜息混じりにディアッカは呟いた。
「あまりにもさぁ・・・可哀そうなんで、オレもうあいつの傍にはむやみに行かない事にしたよ」
同情するような眼つきでキラはディアッカに語りかけた。
「なるほどね・・・つまり君の落ち込みの原因はそれなんだね」
「だいぶ前から・・・つ〜かオレが捕虜でいた頃から噂になってたらしいんだけどさぁ。まあおまえは知っているだろうが
あいつを半ば強制的に独房に来るように仕向けたのはオレなんだし・・・今は責任感じてるよ」
独房にいた頃は不自由だったが、今よりずっとミリアリアの傍にいられたし、話も出来たとディアッカは思う。
もっとも、あの頃はまだ彼女に恋愛感情など持っていなかったが。
「なあキラ・・・あいつはなんだかんだいっても随分オレの事心配してくれていたよな。なのにかけるのは迷惑ばかりじゃん?
ほんと。オレ、ミリアリアが好きだし護ってやりたいのに傷つけばかりなんだもんな・・・」
ディアッカはそう言ってテーブルの上にうつ伏せた。
「そうだね・・・ディアッカにとってはやり切れないよね。ミリィから離れてみるとやっぱり辛い?」
「おまえストレートに言ってくれるじゃん?避けているのがあまりにもキツイからクサナギに来ちゃったんだっつ〜の!それに、
こっちに来たら更に地獄だよ!キラって名前の毒舌家がニコニコ顔で待ってるし・・・」
「でも・・・モヤモヤしていたのはだんだん治まってきたでしょう?いいかげん君も素直じゃないからね」
こういう言い方をする時のキラはとにかく人が悪い。だいたい次に爆弾発言が待っている。
「それにしても・・・ディアッカ。君相当切羽詰っていたんじゃない?」
「は・・・?」
「ついに白状したね・・・」
「なっ・・・何の事だよ!」
「『ミリアリアが好きだし護ってやりたいのに・・・』って言ったよね?」
(───あ・・・!)
「ディアッカってどんなに適当でウソや冗談言い放題しても、本音の部分は隠し通すじゃない?ミリィの事だって可愛いとかいろいろ言ってたけれど、決定打の『好き』は僕の知る限り一度も言った事が無いよね・・・」
キラのこんなひと言でうろたえるなんて彼らしくないのだが・・・。
狡猾で自信過剰に加え、大胆不敵で不遜な態度を崩さない彼が絶対口にしなかった言葉。
きっと彼の中では言い出すのには重すぎて、つい飲み込んできた『好き』という言葉。
「君がミリィにあえて伝えなかった言葉だよね。本当にミリィが好きだから、いいかげんに口にしたくはないっていう気持ちは
解るけれど・・・どう?僕は『好き』という言葉を告げるところから始めないとミリィには何も伝わらないって思うんだけど・・・」
キラの瞳がディアッカを見据えた。
その瞳を見返してディアッカが微かに頷いた。
本気で誰かを好きになった事のなかった男が、ようやく本気で想いを伝える事を決めたかに見えた。
「サンキュ・・・キラ」
(2)へ》