ひとりでいるのはとても寂しいから・・・。


  





YOU ARE MY SECRET     SIDE  『 M 』











業務についたミリアリアは、
ディアッカがクサナギに出向いていてAAを留守にしている事を知った。
「明日には戻ってくるけれど、彼がいないと静かだな・・・」とサイが笑っていた。

「お嬢ちゃんディアッカがいないと寂しいよなあ」
なんて行く先々でミリアリアはディアッカが傍にいないことをからかわれる始末。
自分はいつもそんなにディアッカと一緒にいたのかと思う。

(そんな筈ないじゃない・・・)

ミリアリアはそう思う。きっと他のひとの思い過ごしだ。

けれどディアッカのいないAAはなんて静かで、広く感じるのだろう。
まるで真夜中の展望室の様だ。
彼の存在がいかにAAに溶け込んでいるかが解る。






業務の終わりに艦長に。
「ディアッカ君の服や作業着がリネンルームに置きっ放しになっているの。
申し訳ないのだけれど、彼の部屋まで届けておいてくれないかしら?」と頼まれた。

ミリアリアは躊躇したが、今は彼もここにはいない・・・。
それにディアッカの部屋のパスワードは知っている。

艦長に頼まれた服を持ってミリアリアはディアッカの部屋に向かった。







ロックを解除して部屋に入ると、「オランジェ」の香りがした。

灯りは点けずに、ベッド脇のスタンドだけスイッチを入れる。

(PCを直してもらった時みたい・・・)

ミリアリアは部屋中を見渡した。
ガランとした部屋はあまりにも静かで深々と冷えていて、思わず肌寒さを感じてしまった程だ。
あの日がまるで嘘の様だと思えて来る。
主のいない寂しい空間・・・。




ディアッカは狡猾で皮肉屋で生意気で意地悪で・・・。
けれども・・・何かあった時に見せる心配顔と、包み込んでくれた胸はとても広くて優しくて・・・。
気がつけばいつも縋ってばかりいた。
いつも慰めてくれていた。

ミリアリアはディアッカが傍にいない事がこんなにも寂しい事だなんて夢にも思っていなかった。







『コーディネイターにあたしの気持ちなんか解らないわ!』








その優しい人をあんなひどい言葉で拒絶したのは自分。




寂しい・・・。




涙が溢れてもう何も見えない。








───今更なのにわかってしまったことがある。
     きっとこれは恋ではない。
     それでも自分は・・・ディアッカのことが好きなのだ。







記憶は鮮やかに甦る。

「ミリアリア」・・・と耳元で囁く優しい声・・・。

ほのかに香る「オランジェ」の香り・・・。

影を作る程長い睫とラベンダーの青紫・・・。


ミリアリアはディアッカの枕を抱き締める。
その上に「オランジェ」を振りかけて強く強く力を込めて。
いつも自分を包み込んでくれた胸を真似て・・・。


彼を愛してる筈はない。心はトールのものだ。


それでもディアッカは誰よりもやさしかった。


ひとりで泣く夜は・・・いつしか「オランジェ」の香りに抱かれて・・・
やがてそれはとても温かい夢となった・・・・・・。





















───翌日。

部屋の主が帰艦する。

誰かがロックを解除した記録が残っている。




ロックを解除出来るのは、自分とそれにもうひとり・・・。



部屋の中は既に誰の姿も無い・・・。
ベッドの上に洗い晒した洗濯物が置かれていた。


片隅に落ちているのは沈丁花の香りがするハンカチが一枚。


歪んだ枕を手にすると・・・カバーに染み付いた「オランジェ」に更に深く滲みこんだ涙の跡。





ディアッカはその枕を抱き締める。

昨夜、彼女がそうしたように。

思わず口にした名前は・・・「ミリアリア」・・・。









───好き・・・という言葉を呟き、彼は長い睫を伏せた・・・。



                                                  











2004.11.28) (2005.6.14 改稿) 空

※  人前で「好き」という決定打は口にしない狡猾さが黒光している男ですねー。
    でも・・・一番黒いのは多分キラだと・・・。

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