YOU ARE MY SECRET
───だけどなんでミリアリアがオレの部屋で枕を抱えて寝てるんだ?
ディアッカにはまだこの状況がよくわからない。
数日前、ディアッカが激情のままに突き放した筈のミリアリアが、まさか自分から会いに来るとは思えない。
けれどロックパスはミリアリアにしか教えていないから、彼女が自らここへ来たのは間違いない。
よくよく部屋を見渡すと、籠に入った洗濯物とシーツの類が置かれているのに気がついた。
(ああ・・・そういうことね・・・)
きっと艦長か誰かがミリアリアにここへ届けて欲しいと頼んだのだろう。
主の留守中ならばと、彼女も断らなかったという訳だ。
それにしても何故枕なんか抱き締めているんだか。
どうやら泣き疲れて眠ってしまったらしいが・・・。
(さて・・・どうしたものか・・・)
このままにしておいたほうがいいのか、起こしてやるべきなのか・・・たっぷり5分は考えた込んだ末、
空調設備の電源がOFFになっていることを思い出して、ディアッカはあわててミリアリアを起こしにかかった。
「ミリアリア。こんな所で寝てるんじゃないよ・・・ほら起きて」
頬をペチペチと軽く叩く。
「ん・・・」
ミリアリアはゆっくりと目を覚ますと・・・
「・・・え!」
至近距離の紫の瞳と眼が合った。
(なんでディアッカがここにいるの!? 帰って来るの明日じゃなかったの!?)
ディアッカが戻って来るのは明日の筈だ。
ミリアリアの疑問に答えるかのように、
「作業が早く終ってさっき戻って来たんだけど・・・ビックリしたわ!ロックは解除されてるしオマエはいるし・・・」
ディアッカは苦笑いをする。
「ごめんなさい!すぐ出て行くから」
ミリアリアは急いで立ち上がると、枕をかかえたままドアへと向かったが・・・(うそ!) ドアが開かない!
「ごめんミリアリア・・・そのロックパスはオレの特製でちょっと悪戯してあるの」
その様子を見て、申し訳なさそうにディアッカが言った。
「その前に・・・オマエいつからオレの部屋にいた?」
「え・・・今さっき来たばかりよ!」
ミリアリアはうろたえる。
「本当・・・?」
口の端を上げてディアッカがニヤリと笑う。
「本当よ!嘘なんてついてないわよ・・・!」
「───嘘だね・・・!」
ディアッカがゆっくりとミリアリアに近づいてくる
「言ったでしょ?ここのロックパスはオレの特製だって。この部屋のパスワードは2つあって、ひとつはオレが日常で使ってるやつ。もうひとつはオマエに教えたパスワード・・・。これは時限解除式なんだよね・・・」
「時限解除式・・・?」
聞きなれない言葉だ。
「オマエに教えたパスワードでロックを開閉すると中に入った途端タイマーが作動して・・・」
「・・・・・・作動して・・・どうなるの?」
ミリアリアはどんどん不安を募らせる。
「6時間は開かなくなるんだわこれが・・・」
ディアッカは口元を綻ばせ、クククと笑った。
「6時間・・・開かないの?」
「そ、なのにオレが来たときにはもう開いていたから、オマエ6時間はここにいたってコトになるよね!」
「そんな・・・6時間も経ってるの?」
「そうさ。なにしてたの6時間もさぁ・・・」
ディアッカはの歩みは更にミリアリアを追い詰める。
言える訳がない。枕にトワレを振掛けて抱き締めて泣いてそのまま眠っちゃいました・・・なんて・・・!
「ディアッカお願いここ開けて!」
真っ赤な顔をしたミリアリアがディアッカに懇願するも、ディアッカは面白そうに笑うだけだ。
「だめ。教えてくれるまで解除しない!さっきこのパスワード入力し直したから6時間はこのままだよ」
これ以上はないくらい狡猾な笑みを浮かべながら、ディアッカはミリアリアの頬を両手で挟んだ。
ミリアリアは何も言えない。ただ身体を強張らせるばかり。
「じゃあ・・・オレの質問に答えてくれる?」
「オマエは・・・オレが嫌い?コーディネイターの男は嫌?」
ミリアリアからの返事はない。
そんなミリアリアの様子にディアッカが大きく溜息を吐いた。
唇を噛み締めてミリアリアは俯こうとするが、頬にあるディアッカの両手がそれを阻む。
「ひとつ聞く。その枕・・・『オランジェ』を振掛けてあるね。それってもしかして・・・オレの・・・」
ミリアリアの閉じられた眼から涙が滲んでいる。
「オレの身代わり・・・?」
耳元で囁かれる声にミリアリアはもう嘘はつけなかった。
ミリアリアは答えない。けれど・・・頬を伝う涙の筋が増えていくのは返事をしたも同然だ。
「YES・・・と受け取るよ・・・ミリアリア」
ディアッカの促しにミリアリアは無言で答えた。
「じゃ、もうそんな枕いらないね。」
ディアッカはミリアリアから素早く枕を引き離すとベッドに向けて放り投げた。
「抱きつくのは今日からこっちにしてよね」
ディアッカはそう言い終える前に、ミリアリアを深く強く・・・自分の胸に抱き込んでいた。
そのままディアッカは話を続ける。
おまえに酷いことをしたと思うけれどオレは謝るつもりはないよ。
いつどうなるか分からない戦況だから、もう自分をごまかすのはやめた。
だからトールにも遠慮はしない。
オレは・・・おまえが好きだから・・・もう誰にも渡さない。
おまえがトールを忘れることができないなら・・・
その心ごとおまえをもらうことにするよ。
だからミリアリア・・・オレの傍にいて。
だってしょうがないじゃん?そんなおまえが好きなんだから。
だめ!ディアッカ・・・
だって・・・ディアッカには恋かもしれないけれど・・・私は違う。
あんたのこと好きだけど・・・でもきっと恋じゃないわ。
私を大切にしてくれているとわかっているけれど・・・。
もうあんたのこと辛い目に合わせたくないわ。
こんな中途半端な心のままで・・・
そんな都合のいいこと出来る訳ないじゃない・・・。
私はあんたのことは恋人としては見られない。
だから・・・私のことをそんな風に言わないで。
ああ・・・やっぱりそう言うよなぁ・・・。
おまえの心のコアはトールの奴が占めていて、
きっと出て行ってくれないだろうから、
オレはもうひとつコアを作ることにしたんだわ。
でね・・・そのコアを大きく育ててオレだけで占めるのさ・・・。
いい考えだと思わない?
おまえの心のコア2号・・・オレと一緒に作って育ててくれる?
育つのずっと待ってるからさぁ・・・。
そうしたらオレのことだけ見て・・・オレのこと愛して。
わかったらYESって言ってよね?ミリアリア。
あ・・・YESって言ってくれないと
どんな手段使ってもYESと言わせるから覚悟しろよ・・・!
あんた・・・それ脅迫じゃない!
なんとでも。じゃ決まりだね!
ディアッカ!
じゃなくてYESだろ?
・・・・・・・・・・・・
YESだって。OK?
「・・・・・・」
「聞こえな〜い!もっと大きな声でお願い〜!」
「あたしが返事なんかしなくたってどうせあんたは放してくれないんでしょっ?!」
「当然じゃん?それじゃ合意ということで今からコアを育てる準備始めようぜ〜!」
「コアを育てる準備って・・・?」
それはね・・・といきなり『お姫様抱っこ』をされ、ディアッカの顔がミリアリアの至近に迫る。
淡い紫の瞳が煌き、金色の前髪が額にかかる。
そっと唇にひとつキスを落とされ、耳元で囁かれるしっとりとした声が紡いだ言葉は・・・
「合意に基づいた既成事実・・・今度は手加減無しの、ぶっ通しの6時間だぜ!!!」
ディアッカの言葉の意味を正確に悟ってミリアリアの顔は苺の様に真っ赤になる。
「な・・・!あんたいくらなんでも結論出すの早すぎよっ!もう!降ろしてよ!」
ジタバタするミリアリアをよそに、澄ました顔でディアッカはニンマリと笑って。
「先手必勝!善は急げ!思い立ったが吉日!」
「あんたもうサイテー!」
けれど、そう言うミリアリアの声には力がない。
「明日はシフト休みなんだろ?オレも休みだから6時間なんていわずに1日中でもOKだぜ?」
「・・・・・・」
「まあ、夜はまだ長いから、ゆっくり愛の語らいシマショウね・・・」
ミリアリアの狼狽なんてなんのその。ディアッカはそのままベッドへと歩き出す。
───そしてベッドにミリアリアをそっと降ろすと部屋の灯りを消した・・・。
(2004・11.28) 空。
※グランドロマンの元の話なんです・・・これ。
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