ミリアリアが医務室のドアを開けて中に入ると、ディアッカは眼を閉じてベッドで横になっていた。

「ディアッカ・・・」

敏感な彼のことだから、名前を呼んでことさら用心してミリアリアはそっと近づく。
見ればディアッカの額は汗ばんでいて、触れるとやはり熱かった。

「・・・誰?」

ミリアリアが触れた手の感触にディアッカはうっすらと眼を開ける。
フラガに媚薬(それも適量の5倍!)を飲まされた彼の瞳には言葉では表現し難いような・・・そんな色気が漂っている。
ただでさえ薄暗い医務室にあってはその寝姿までもが艶かしい。





媚薬と呼ばれるモノ(2)





「どうしたんだ・・・業務は大丈夫なのか・・・?」

ディアッカはやんわりと微笑みながらミリアリアの瞳を見つめる。

「こっちは大丈夫よ。それよりあんた・・・また無理したんじゃないの?コーディネイターだからっていつも人の倍以上の仕事やってるでしょう」

ミリアリアはディアッカの額に浮かぶ汗をそっと拭い、その上に冷たいタオルを乗せた。

そんなミリアリアの看護を受けてディアッカの眼はきょとんと丸くなる。

「どういう風の吹き回しなんだよ。少しは心配してくれてるってこと・・・?」

ミリアリアのほうからディアッカに近づくことはあまり無い。こんな看病など稀なことだ。

「あんたの心配なんかしていないわよ!でも、あんたがいないとみんなが大変なの!仕事も山積みになっちゃうし!」

「・・・っておまえ、さっきオレに『また無理したんじゃないの』って言っただろう?それってなんか矛盾してない?」

クククと口の端をあげて笑うディアッカの仕草は、いつものような辛辣さも影を潜め、妙に柔らかくて、それが逆にミリアリアを不安にした。
こんな弱々しいディアッカの姿を見るのは初めてのことだ。以前体調が悪かったときの方がまだ元気があったとミリアリアは思う。

「大丈夫だよ。2時間も寝れば治るって」

ディアッカは身体を起こして身支度を始めた。
それを見たミリアリアは慌ててディアッカの身体を押さえつける。

「ばかっ!だったらちゃんと寝てなきゃだめじゃないのっ!」

「あれ?オレの心配なんかしていないんじゃなかったっけ?おまえ」

いつものことではあるが、ディアッカはミリアリアに心配されるのが苦手だ。

彼女の制止を振り切り、起き上がったディアッカをミリアリアは身体を張って止めた。

「あんたが私に心配されるのは嫌だって解っているわよっ!でもねえっ!こうでもしないとあんたはまた無茶をするでしょうっ!」

ディアッカの肩を尚も強く押さえつけ、ミリアリアは瞳にいっぱいの涙を滲ませていた。
溢れた涙はポタポタとディアッカの胸元に落ちる。
そして、それはまるで降り始めた雨粒のようにディアッカのアンダーシャツの染みを増やしていく。
自分を押さえつける腕の力よりも肩に強く食い込むミリアリアの指先の震えにディアッカは戸惑いを隠せない。

「もう・・・嫌なのっ!」

「・・・ミリアリア」

俯いたままでミリアリアは叫ぶ。

「・・・もう、あんたとは争いごとなんてしたくないの!無茶ばかりするあんたを見たくないのっ!」

「・・・・・・」

「何よりもお互い傷つけ合ってしまうような・・・あんな思いだけはもうしたくないのよ・・・ディアッカ」



ミリアリアの脳裏に浮かぶのは少し前の出来事だった。
まだ記憶にも生々しい最近の話だが、ミリアリアへの恋愛感情を持て余し気味のディアッカが故意に彼女を避け始めた。
互いに傷つき、傷つけあったあのときの二の舞にはしたくない。
ディアッカは常にミリアリアの心配ばかりしているのに、ミリアリアがディアッカの心配をすると彼は途端に不機嫌になる。
ミリアリアに寄せるディアッカの気持ちを、彼女は彼女なりに解ってはいるつもりでいた。
しかし、実際ディアッカがミリアリアに寄せる深い想いは、彼女の想像を遥かに超えた凄まじいものであった。
捕虜から解放された後、ディアッカがAAに戻ってきたのは、AAのクルーはもちろんそうだが、本当は誰よりもミリアリアを護りたい一心からであった。
やがてその思いこそがミリアリアへの恋心なのだと、ディアッカ自身が気付いたときから彼の苦悩は始まった。
どんなに深く想いを寄せても、この恋が決して成就するはずのないことはディアッカ自身、誰よりもよく解っていた。
ミリアリアを諦めようとして、忘れようとして距離をおいて彼女を避けた。でも・・・出来なかった。
逆に彼女を忘れられない自分を再確認しただけだ。
そして、ミリアリアにとっては自分に寄せるディアッカの想いが、いかに切なく激しいものだったのかを思い知らされる結果になった。
微妙に揺れ動くふたりの関係。
ノイマンの気まぐれで行なわれた『バレルロール』のあのときもディアッカは不意にミリアリアを抱く腕を緩めた。
複雑に絡み合うミリアリアの心。
亡きトールをまだ忘れられない悲しさと、今ミリアリアの傍にいて献身的な愛情をそそいでくれている、そんなディアッカの想いに応えきれない切なさを胸に抱いているミリアリア。
その思いをきっとディアッカは解っている。
どんなにミリアリアをからかっても結局、最後は折れてさりげない優しさを示す彼。
もう、傷つけたくないのに、どうしても頑なな態度をとってしまうミリアリアの心情。
たとえ、ディアッカへの気持ちが恋愛感情ではないとしても・・・いつしか彼はミリアリアにとって、不可欠の存在になってしまっていた。



「解ったよ。大人しく寝てるから心配するなよ・・・」

ディアッカはひとつ溜息をついてそう言った。

「本当ね!」

「ああ、約束するよ。でもさ・・・ここじゃ・・・医務室じゃ嫌だからオレは自分の部屋に戻るよ。それくらいならいいだろう?」

「でも・・・あんた動けるの・・・?」

「通路にさえ出てしまえば無重力帯に乗って簡単に移動出来るよ。だからおまえ・・・オレに肩を貸して」

「・・・解った」

短く答えてミリアリアはディアッカに肩を貸した。

(やべ・・・)

ベッドから身体を起こしてディアッカは自分がアンダー姿でいることに気が付いて慌てる。

「悪い、ズボンだけ穿くからちょっと向こうむいていて」

パチンとウインクを投げて笑うディアッカにミリアリアは真っ赤になって顔を逸らせた。

「もういいよ。じゃ、悪いけれど肩を借りるよ・・・」

ディアッカは自分の体重をミリアリアに預ける。
よろよろとドアを開け、ミリアリアが通路に出るとそこにはフラガやノイマン。それにマードックの姿があった。

「お嬢ちゃん・・・ボウズ大丈夫かい・・・?」

優しい視線を送ってマードックが尋ねた。

「はい・・・まだ熱があるんですけれど、本人が部屋に戻りたがっているんです。あ、マードックさん。こいつを運ぶの手伝ってもらえますか?」

ミリアリアの問いかけにマードックは、うんうんと頷くものの、何故かフラガは顔を赤らめて、かなり慌てた様子で言った。

「あ・・・。ああ。エロガキはオレとマードックで運ぶから、お嬢ちゃんはノイマンと一緒に、先にこいつの部屋に行ってベッドの用意をしてやっていてくれるかい?」

「そうしよう、ハウ。ここは少佐と曹長に任せて俺たちは先に行こう」

ノイマンはミリアリアの肩をポンと叩くと無重力帯に身体を乗せた。


先刻、ミリアリアがディアッカのいる医務室に入った後、フラガたちはその場から去ることが出来なかった。
なにしろとんでもないほど大量の媚薬を飲まされたディアッカが、ミリアリアをどうするのか興味もあったが、それ以上に純粋に心配もしていたのだ。

「ねえ・・・ハウ?エルスマンの奴は君に何も言わなかったのかい?」

ふたりの様子を見る限り、ディアッカがコトに及んだ形跡はなさそうだとノイマンは思う。
だが、あれほどまでに壮絶な色気を振りまくディアッカを見てミリアリアは何も感じなかったのだろうか・・・?

「あいつ本当に具合悪そうで・・・。いつものような軽薄さはないし、ただ私を見て微笑むだけでした」

「・・・ふうん・・・」

なんとも気の無い返事をノイマンはミリアリアに返して笑った。






**********






───翌日。

すっかり元気になったディアッカはミリアリアとふたりで朝食を摂っていた。

「ここ・・・いいかい?」

穏やかな声でふたりの前に現れたのはノイマンだった。後ろにはフラガやマードックもいる。

「ああ、ノイマンさんおはよ!最近一般食堂に来ることが多いみたいだけど、どうしちゃったの?」

「チャンドラと夜勤を分けているからね。ひとりきりの食事は美味しくないし、それにおまえ達と一緒のほうが楽しいよ」

ノイマンは席に着くとますます嬉しそうな顔で笑う。

フラガやマードックもノイマンに倣って席に着いた。

「あ〜!もう昨日は参ったよ・・・!あんな思いはもう二度としたくないね」

頬杖をついてディアッカはフッと息をついた。

「あれ・・・?珍しいなあ。おまえが好物のから揚げ残してるなんてさあ。どうしたんだ?」

フラガは首を傾げながらディアッカに尋ねた。
普段のディアッカは妙に律儀なところがあって、横柄な態度とは裏腹に出された食べ物はきちんと残さず食べるのだ。
だから今日のように食べ物を、それも好物のから揚げを残すなど、本当に珍しいことだ。

「昨日の今日だから・・・まだ食欲がないんだよね。一個だけは食べたんだけどさ?よかったらおっさんこのから揚げ食べない?オレ油っこいものは今日は止めておくよ」

「・・・いいのか?から揚げなんて滅多に出ないぜ?・・・じゃ喜んで・・・っと!」

フラガはディアッカのトレーから嬉しそうにから揚げをつまんで次々と口の中に入れた。
AAのから揚げは本当に美味で、フラガはから揚げが出されると、いつも他人の分まで奪い取って食べるほどだ。
スパイシーな味が口いっぱいに広がる。

「おっと、コーヒーが欲しいねえ〜!」

この後に飲むコーヒーがまた美味いのだ。
フラガは席を立つと、昨日のようにコーヒーを取りに行った。
そして・・・コーヒーサーバーまであと僅かな所で・・・フラガはいきなり崩れ落ちる。

「おっさん・・・大丈夫かっ!」

ディアッカは慌てて席を立つとフラガの元へ駆け寄った。
そしてこっそりと耳打ちする。




「大丈夫・・・な訳ないよなあ〜!な?おっさん」

クククと口元を歪めていつものようにディアッカが口角を上げる。

「おまえ・・・俺にいったい何をしたっ」

足にまったく力の入らないフラガを肩に抱えてディアッカは満足そうな表情を見せた。ただし他からは解らないようにこっそりと。

(なあ、おっさん・・・)

フラガを肩に支えながらディアッカはニヤリと笑い囁くような小声で言う。

(ずいぶんとふざけたマネしてくれたんじゃないの?昨日はさ?)

フラガはギクリとしながらもシラを切り通す。

「別に俺は何もしていないぜ?おまえ何か勘違いしているんじゃないか?」

(ふうん〜!オレの勘違いねえ)

ディアッカに色っぽい流し目を送られると、フラガが更に茹蛸のように真っ赤になってそっぽを向いた。

(忘れたの?オレってこれでもインターンで薬品扱いのプロだってこ・と)

耳元で囁かれるディアッカの言葉に始めてフラガは狼狽の顔色を見せた。

(あ〜んなベラドンナ系のアブナイお薬なんてシロートが扱っちゃ危険だぜ〜?)

「・・・!おまえっ!」

(さあ〜!昨日のお礼に楽しいショーの始まりといこうかおっさん?)

ディアッカは不意に自分に体重を預けるフラガから力を抜いた。フラガの大柄な身体がまともにディアッカへと体重を乗せる格好になった。
そのフラガにディアッカは唇を重ねた。あくまでもフラガのほうから仕掛けてきたように見せかけて。


───なにしろそこは医者の息子であり、優秀なインターンで、しかも薬品取り扱いのプロでもあるディアッカだ。
昨日、もう足元がおぼつかなくなった時点で既に薬を飲まされたことにしっかり気が付いていた。
しかもこの症状は身に憶えがあった。
おそらくは適量以上の量だろう。こんなバカな事をするのはフラガに決まっている。

(・・・さてはおっさん!コーヒーに媚薬を混ぜたなっ〜!)

怒髪天をついたディアッカは悔しがるも、さっさと思考を切り替える。
どうせだったらこの状況を利用して飛びっきりの悪戯をしてやろう。

今朝の朝食時には、既にこっそりとから揚げに媚薬を仕込んでおいた。ここのところフラガとは食事の時間も一緒だったから、ディアッカの計画は順調に進んだ。
飲み物に入れるとバレやすいので、あえてディアッカ自身も大好物なから揚げをターゲットにしたあたりが狡猾と言われる彼の面目躍如であろう。
媚薬は適量を飲ませてこそ初めて威力(・・・というか効き目)を発揮する。なのでフラガ向けには当然規定の分量だけ媚薬を仕込んだ。
早くも欲情の態を露にしたフラガを落とすのは簡単だ。

ディアッカは重ねた唇の隙間から実に巧妙に舌を入れた。そしてフラガの口内を蹂躙する。元々キスの上手いディアッカがソノ気になってフラガに挑むのだ。

思った通りフラガはディアッカの舌技に面白いように反応を返し始めた。
ディアッカの腕を取って抵抗を抑える。もう片方の手でフラガはディアッカの首を上げた。本職の軍人が手加減無しでディアッカの自由を奪う。

「・・・・・・」

ミリアリアをはじめ、そこに居合わせたクルーがみな、ディアッカとフラガのキスシーンに眼が釘付けになった。
なにしろ昨日のディアッカは、まるで女性の持つ艶麗さが乗り移ったかのように艶やかだったのだ。それを介抱したフラガがディアッカに邪な気持ちを持ったとしてもおかしくない。きっと誰もがそう思う筈だ。食堂はもう蜂の巣をたたいた様な大騒ぎになっていた。後から後から見物人がひっきりなくやって来る。

ディアッカとのキスに夢中になっているフラガの眼が、やがてある一点で止まってしまった。

(マリューっ!)

いつの間にかディアッカの後ろには艦長であり、フラガの恋人でもあるマリューの姿があった。
怒りと恥辱に濡れた瞳がフラガを激しく非難する。

「ムウって・・・あなたってそんな趣味があったの!嫌がるディアッカくんにキスだなんて・・・なんて事をしてるのよっ!」

「マリューっ!誤解だっ!誤解なんだっ!待ってくれ〜!」

ようやくディアッカから唇を離したフラガが慌ててマリューの後を追った。しかも無様によろよろとしながら・・・。




「エルスマン!大丈夫かっ!」

食堂にいたクルーがディアッカのもとに駆けつける。

「は〜!もうびっくりした・・・あのおっさんこんな趣味があったのかよ・・・」

呆然と(演技をしている)ディアッカは周囲の顔を見渡しながら言ってのけた。

おろおろとする周囲の中、ただひとりノイマンだけが口元に笑みを浮かべていることにはディアッカだけが気が付いていた。

(フフフ・・・昨日の仕返しか?エルスマン)

ディアッカとノイマンは顔を見合わせて軽く笑った。

(よしよし・・・っと。これでおっさんはホモっ気があるってみんな信じ込んでくれたよな。でも媚薬を飲んだ状態の今ならさ?艦長も一発で落ちるって、おっさん。あとはしっかり頑張ってね・・・ってほ〜んと、オレって優しいよなあ〜)

───と、ひとり思うディアッカであった・・・・・・。






**********






───昨日の夜のことである。

ディアッカを部屋に運んだ後、ミリアリアは健気にもフラガたちに言ったものだ。

「こいつの看病は私がやりますから、少佐たちはもう休んで下さい」

「大丈夫なのかい?お嬢ちゃん」

フラガの心配そうな声をノイマンが遮る。

「・・・大丈夫でしょう。こんなに大勢でついていたらエルスマンも休めませんよ。ここはハウに任せて俺たちも行きましょう」

先ほどのミリアリアの様子を見てノイマンは確信に似たものを持っていた。
あれだけ壮絶で女性の持つような艶麗な色気を発散させているディアッカに対して、どういう訳なのか、ミリアリアは何も感じていないように思えたのだ。

(多分・・・何も起こらないな・・・)

ノイマンたち3人は後をミリアリアに託すとディアッカの部屋を出て行った。




静かになったディアッカの部屋ではミリアリアが心配そうに彼の看病を始めている。

「大丈夫・・・?汗がすごいから下着替えたほうがいいかな?」

「・・・うん。そこのBOXにあるから出してもらってもいいか?」

「ああ・・・これかな?」

「そう。それでいいよ。そこに置いといて」

「手伝うわよ・・・ディアッカ。あ、その前に身体拭いたほうがいいのかな・・・」

「大丈夫だよ。それよりミリアリア。あの机の上にあるビンを2本ともここに持ってきてくれない?」

「これ?紅と蒼のやつ?」

「そう、それとグラスも」

ミリアリアはディアッカに言われるままに机の上からビンを2本、そしてグラスを持ってきた。

「蒼いビンの中身をグラスに半分くらい注いで・・・オレにくれる?」

「なんなの?・・・これ」

「解熱剤だよ」

不思議なものを見るような目つきでミリアリアは蒼いビンの液体をディアッカに注ぐ。
フフフ・・・と微笑んでディアッカはそれを飲み干した。

「おまえはこっちの紅いほうを飲んで。オレの半分くらいの量でいい」

「・・・どうして私も飲むの?これはなんなの・・・?」

「おまえも今日は疲れただろう?栄養剤の一種だよ。変なものじゃないから信用して?」

「・・・・・・」

ディアッカがどんなに油断ならない存在だとしても、彼の医療行為をミリアリアは信じていた。
どんなときもディアッカはミリアリアのために最善の処方を施してくれた。
その彼が飲めというのだから、これはきっと良い薬に違いない。
ディアッカの指示通りに紅い液体を飲み干すとミリアリアの身体はゆっくりと楽になってゆく。

「ディアッカ・・・」

「どう?少しは楽になってきたか?」

「うん・・・なんだかとても気持ちがいい・・・」

「さすがは即効性の睡眠薬だな」

「・・・・・・」

そんなディアッカの声はもう既にミリアリアに届いてはいなかった。安らかな寝息が聞こえてくる。
ミリアリアは既に深く眠ってしまっていた。

そんなミリアリアの寝顔を眺めていたディアッカだったが、ふと気がついてミリアリアのブーツとソックスを脱がせた。
そしてピンクの軍服の襟を緩め、そっとアンダーTだけの姿にした。そのままベッドに運び寝かしつけるとディアッカは浴室へ行き、汗まみれになった身体に熱いシャワーを浴びた。
先ほどまでだるかった身体は熱もすっかり下がっていた。

(やれやれ・・・)

シャワーを止めて身体を拭きあげ、黒のアンダーに着替えると、ディアッカはミリアリアの眠るベッドに自らも身体を横たえた。

(眠っているおまえには手は出せないよ・・・)

フラガたちが出て行った後、実はもうディアッカの身体からは過剰な媚薬の成分は殆ど汗となって体外に排出されてしまっていた。
過剰な媚薬が汗とともに流れ落ちると、今度は適量になった媚薬が彼の身体を襲い始める。

(これは・・・ちょっとマズイかも)

このままミリアリアを自分の傍にはおけない。手を出さない自信などこの状態では、とてもじゃないが無理というもの。

そこでディアッカは自分の持っている豊富な薬品知識を使い、解熱剤を飲んだ。
即効性のあるそれは媚薬の成分の発散を急速に促した。
その傍らでミリアリアには睡眠薬を飲ませる。眠ってしまった彼女には手出しは出来ない。それは自戒にも似たディアッカの行為であった。

(でも・・・これくらいは許してくれるよな・・・)

ディアッカはミリアリアの額に、頬に、そして唇にそっと口づけをした。
そして優しく頭を撫ぜる。

自分の胸に深く深くミリアリアを抱き込むとディアッカもゆっくりと眼を閉じる。

いつか・・・こうやって彼女を抱いて眠りたい。薬なんか必要としない自然な気持ちで・・・。
こんな服なんてすべて脱ぎ捨て、裸の彼女を抱きしめる・・・。
そしてお互いの腕がお互いの身体を包み込むような抱擁を交わし、彼女の中に入り込みたい・・・。

「アイシテイル・・・」と囁いて。
その蒼い瞳に映るのは自分だけでいい。
そうやって・・・ずっとずっと・・・夜が明けるまで抱き合って・・・。

ディアッカをこんなに淫猥な気持ちにさせるのは、いつも、いつの時もミリアリアだけだ。
彼女以外はもう欲しくない。

恋した男の一途な純情。



ディアッカはミリアリアの傍で、『ミリアリアという媚薬』に酔い痴れたままもう離れる事はない。





それはディアッカだけの心の秘め事・・・・・・。





そう。ミリアリアこそ彼にとっての危険な『媚薬』・・・・・・。







      (2006.3.17) 空

   ※   「王道!媚薬ネタ」に挑戦してみました。でもって玉砕して果てました(笑)
        「黒くても甘めなお話」は書いていてやっぱり気持ちのいいものですね。
        え?フラガのその後ですか?ま、なんとかなったんじゃないでしょうか(無・責・任)
        大人ですしね(爆)・・・でもノイマンがどんどん黒くなっていく昨今に一抹の不安がよぎる私です。

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