何かが俺をそそのかす





───いつの頃からだろう・・・。

俺は何かに追われている様な・・・そんな気がしてならない。
別にザフトの追っ手がかかっているとか、誰かに陥れられているとかいう訳ではない。
AAでも話せる仲間ができたし、エターナルにはコーディネイターの同胞もいる。
戦時中ということを除けば、不安なことなど何も無い筈・・・なのに追われる感覚は日増しに強くなってゆくのだ。












「ミリィ、おはよう・・・身体の調子はどう?」

「おはよう〜サイ!もう大丈夫心配かけてゴメンね」

「お嬢ちゃん・・・ああ顔色だいぶ良くなって来たね」

「ありがとうございます!フラガさん」



───彼女・・・ミリアリアは誰にでも優しい。気さくに声をかけては周囲をなごませてくれる

なのに俺が「おっはよ〜ミリアリア〜!今日も可愛いじゃん?」 
なんて言うものなら・・・。

「おはようディアッカ。でも用が無ければ呼ばないでくれる?」
・・・ホントえらい差別だ。

まったくプラントではオンナに不自由なんてしなかった俺だが、相手が彼女だと勝手が違う。

俺も、こんな冷たいオンナなんかほっといてクサナギの3人娘にでもちょっかい出せば楽しいのに
罵られながらでも、彼女の方がいいんだから、まったくあきれたもんだと思う。

独房に拘束されていた間、彼女はずっと俺の面倒を見てくれていた。
最愛の恋人を殺した奴の仲間である、コーディネイターの俺のことをいつも気にかけてくれていた。
独房に来ればいつも小言ばかり言うけれど・・・戻り際には「また来るから・・・」と呟いた。
言葉にしたことはなかったが、俺の心配ばかりしていた。

・・・そうさ俺は知っていたんだ。

つっけんどんではあるが、捕虜として、扱いを棚上げされていた俺の行く末を誰よりも案じてくれていたことを・・・。

なのに、捕虜から解放され、自由の身になった途端、彼女の態度は急変した。

ザフトに戻らずAAに残った俺が頼るのは彼女だけなのに。

いろいろ楽しい話だって、食事だって、休憩だってこれからは一緒なのだと思っていたのに・・・。



───それに・・・俺は心配なんだ。



今の彼女の健康面や精神状態がどうなっているのかを・・・一番よく解っているのは多分この俺だから。



一応基礎医学を学んでいたので、彼女を診察し、薬だって処方したこともある。
本来なら入院していてもおかしくないのだ。
だから、俺は彼女を見かけると、つい・・・
「大丈夫か?熱はないか?」とか、「おい!ちゃんとメシ食ってんのかよ!」と、口にしてしまうのだ。

今日も今日で「オマエ・・・ちゃんと睡眠とっているのかよ・・・」と聞いてしまった。

彼女はそれを聞くや否や・・・「平気よ!もうあっち行って!」と、にべも無い返事をつき返してくる。

あまりにも冷たいその言葉に俺は両腕と壁の間に彼女を閉じ込めていた。
















「・・・何するのよ!」

「それはこっちの言いたいセリフだ!なんでそこまで俺を避けるんだよ!」

「避けてなんかいないわよ!大丈夫だって言ってるじゃない!」

「大丈夫だなんて嘘だろっ!俺がオマエの心配しちゃいけないのかよ!」

「だから・・・!平気だって言ってるでしょう!もうほっといて!」

「ふざけるな!



───俺の怒鳴り声に、彼女は身体をビクつかせ・・・・その瞳には涙が滲んでいた。




「アンタはどうしてザフトに戻らなかったのよ!」

「オマエ今頃何言い出すんだよ・・・」 

「なんでザフトに戻らなかったのて聞いてるの!家族や仲間や大切なひとが待っているんでしょう?
それに・・・アンタ陰で何て言われてるのか知ってる筈よ!」

それは俺が彼女に興味を持って付き纏っているってアレだよな。

「ま、耳にはしてるケド?だけどソレが何だっつーの?」

「・・・だったら・・・もういいから!私の心配なんてしなくていいから!」

───もう・・・アンタは自由なんだから・・・!───







・・・とっさに俺は──泣き叫ぶ彼女の腕を引き寄せて・・・
             ・・・その身体を強く抱き締めていた。





───ミリアリア・・・・・・。


AAに戻って来たのは俺が決めたことだ。こうしてここにいることも俺の意志だ。
誰が何と言おうと・・・すべて俺が自分で出した答えなんだ。
自由になって自分で出した答えなんだ。
そのことにおまえが責任を感じる必要なんか、これっぽちもないだろう?

キラだってアスランの所へ行くチャンスがあったのに。
でもそれよりもAAでおまえ達を護る道を選んだんだ。
それはすべてキラの決めたことだ。

トールだってそうだろう?
戦闘機に乗ってキラ助けようとしたのはトールの意志だ。

おまえの責任ではないだろう?

だから・・・こんなぼろぼろになってまで自分を責めるんじゃない。

おまえがトールに・・・キラに・・・そして仲間達に示してくれた愛情は本当に温かいものだったから。
おまえが、どれ程彼らの心をなごませてくれていたのか
トールも・・・キラも・・・解っていたからこそ、大切にしていたからこそ命を懸けても『護る』ことを選んだのだ。

そして・・・俺もここにおまえがいたから・・・。
       誰よりも俺を案じてくれたおまえを護りたかったから・・・。
       『恩』や『義務』や『興味』ではなく・・・本当に・・・『護りたかった』から・・・。
       本当に俺が戻りたかったのは『おまえ』のもとなのだから。







───そして、突然俺は理解した。







     何かに追われている様な感覚。
     
     俺を追っていたもの。
     はやく気付け・・・・!と俺自身を追い立てていたもの。
     それは自分でもわからなかったもの。
     
     こうして彼女を胸に抱いてわき起こる感情。
     このまま・・・離したくない!護りたい!

     そして───

     何かが俺をそそのかす


     彼女が欲しくないのかと
     彼女が欲しくないのかと
     彼女が欲しくないのかと・・・・・・・繰り返し木霊してはそそのかす・・・。
     
     もう・・・ごまかすことなどできない想い。

     これこそが恋なのだ。

     彼女を想う俺の恋心なのだ。




     追い立てられた俺の感情。
     

     
     今まで誰にも感じることのなかった俺の感情。






            それはきっと恋心───。











  (2004・11・20)   空

  ※ 「誰かが私を見ている」 と対になっています。

     思うようにならないのが恋心・・・時には自分自身をも裏切りますね。


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