ミリアリアは時々・・・強い視線を感じることがある。
それは前からだったり、横からだったり、後や上からだったりするのだけれどそこには誰もいないのだ。
気のせいかとも思ったし、疲労で神経過敏になっているからなのかとも考えた。
サイやディアッカや、ムウさんにも相談したのだけれど気のせいだよ・・・と一笑に付されてしまった。
けれどもその視線は日増しに強くなって来ているようで、とても怖い。
AAのクルーから怨みをかったとも思えないし、第一、そんな憶えもない。
それに・・・その距離がだんだん狭まって来ている気がしてならないのだ。
ある時、その視線を感じるのは、かなり限定された時間であるのに気が付いた。
ブリッジにいる時や、食事をしている時には感じない。
サイやディアッカが傍にいる時も感じない。
感じるのは・・・シフトを交代する時や、ひとりでAAの中を移動している時。
ひとりにならなければ視線を感じることはなかった。
誰かが私を見ている
「それにしてもさぁ・・・オマエ誰かに懸想されてんじゃね〜の?」
「そんなの有り得ないわよ・・・だったらもっと前から気付いていると思うけど?」
ホントに何を言い出すのか・・・ディアッカは。ミリアリアはちょっと赤くなった。
「オトコに懸想されるとコワいぜ〜!オレの知ってる奴にそ〜いうのがいてさぁ・・・スキなオンナが出来て
あんまりにもつれなくされちまって・・・ストーカーになっちまったんだぜ?そいつ」
「・・・・・・・なんでそんなことになっちゃうの?だってそのひとの事好きなんてしょう?」
ディアッカは困った様な表情で───
「さあね・・・それはそいつでないとわかんね〜よなぁ―─・・・」 と長い睫毛は影を作る。
「でも私に対してそこまでの想いを抱く人なんてAAにはいないわよ。」
「そうかぁ〜? オマエが気付いてないだけかも知れね〜ぞ〜」
そう言ってディアッカは口元だけでニヤリと笑った。
「あ・・・そういえばひとつ心当たりがあるわよ!」 と、ミリアリアはちょっと意地悪くディアッカを見上げて
「投降して来た捕慮のくせに態度はデカいわ馴れ馴れしいわ・・・も〜私のことひっかきまわして散々!」
「釈放されたらされたで今度は纏わり付いて離れなくて・・・周囲にからかわれても〜最悪〜!」
こんな奴ならひとりいるわよ〜・・・と、言ってやった。
「ミリアリアさん。それってもしかしてオレのコトですか・・・」 と苦笑いするディアッカに
「アンタ以外の誰がいるっていうのよ・・・自覚持ちなさいよ〜」 と言葉を返すミリアリア。
しばらくディアッカは黙っていたが、やがて何か思い出したかのように
「そろそろシフトの交代だろ・・・ほら、ブリッジまで送っていってやるから」
そう言って手を差し伸べ、うっとりするような笑顔をミリアリアに向けた。
───誰かが私を見ている。
視線を感じる・・・。
業務を終えて自室に向かう。
業務交代の時間は短い。
ようやく持てる自由な時間はとても貴重で、食事を済ませると蜘蛛の子を蹴散らすかの様に誰もが自室へと戻って行く。
ミリアリアは自室が好きではない。
今はもういない大切な恋人の思い出が、部屋のあちこちに残っていて涙が出てきてしまうから。
防音効果も無く、ロックも掛からない人通りも多い一般兵舎の自室では泣く事すら息を潜めなければならない。
ミリアリアの足は自然と展望室へ向かう。
昼も夜も無い星の海は一番落ち着くお気に入りの場所。
いつでも薄暗い空間は、ミリアリアをひっそりと隠してくれる。
視線を感じる・・・。
ひとりになると・・・誰かに見つめられている自分を感じる。
怖いけれど、何故か嫌な視線ではない。
強いけれど・・・見守ってくれている様な暖かさでミリアリアを包む。
───カシャ・・・ン
不意に小さな物音がした。
「誰かそこにいるの・・・?」
返事は無い。代わりに響くのは足早に立ち去る靴の音・・・。
音のしたほうへ駆け寄るが・・・既に誰の姿も無い。
ただそこに残るのは───オレンジの香り・・・。
ミリアリアの脳裏に浮かんだのは・・・・。
───まさかね・・・。
(2005.・5・8 大幅に改稿) 空
※ こちらのバージョンは改稿版です。
ちょっとソフトにしてみました。 元のバージョンはこちらからどうぞ!(18禁かなあ・・・)
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