Silent Jealousy
あれからオレ達はずい分仲良くなった。
独房から釈放されたばかりの頃は、ささいなことでケンカもしたし、
酷い言葉を投げつけては泣かせたりもした。
それが今では食事も一緒だし、格納庫へも足繁く通ってくれる。
オレの部屋へも遊びに来て、そのまま眠ってしまうこともある。
信用してくれているのは嬉しいが、オレはそんな紳士じゃない。
眠ったオマエをベッドに運び。
その額に・・・頬に・・・首筋に・・・そして唇に・・・・。
どれ程キスをおとしたか・・・・・オマエの知らないその秘密がとても苦しい。
綺麗なオンナなんて、飽きが来るほど抱いた。何の後くされも残さずに。
オマエのこともさっさと抱いていたならば、こんな想いをしないでも済んだだろうか。
オマエに抱くこの感情も単なる気まぐれに過ぎないのだと思えただろうか。
死んだ男を忘れられないオマエはひとりどこかで泣いている。
他のクルーに悟られないように声を殺して・・・息を潜めて・・・。
その声はきっと、コーディネイターのオレの耳にしか届かない。
だからわかってしまう・・・・ここに居ると。
「こんな所で何しているのミリアリア・・・」
「なによ・・・またアンタなの・・・・」
どうしてアンタには解ってしまうのかしらね・・・・とオマエはひとり呟く。
「また泣いてんのかよ」
「アンタには関係ないでしょう?」
「ま、確かにね。トールなんてオレは会った事もないし?」
「ひどいこと言うのね・・・・」
と、力のない声をあげるオマエ。
「もう・・・あっちへ行ってくれない?アタシはひとりになりたいの!」
「ヤダね・・・!オマエこそどっか行けば〜?」
そう言って、意地悪く口元を歪めるのはオレ。
「そうさせてもらうわ・・・!」
オマエは床を蹴り上げると、無重力に身体を乗せる。
その腕を掴み、オレの胸に引き寄せると、非力なオマエはいとも簡単に拘束される。
「・・・・・・・・放してよ!」
腕から逃れようとすればする程、オレは無慈悲にも力を籠める。
「アタシだけが辛いんじゃないわ!カガリも・・・ラクスさんもお父さんを亡くしたのよ!
親友同士で殺し合いの戦いをしたキラにアスランさんも。
何も言わないけどサイだって・・・・みんなみんな辛いことを耐えているのよ」
アタシだけが泣くわけにはいかないの・・・。
「ねえ・・・ディアッカ。 アンタだってそうでしょう?」
「ミリアリア・・・・・」
「アンタだって捕虜になって・・・今はひとりでこの艦にいるじゃない!」
・・・・・・アンタだって辛い筈じゃないの・・・・・
「何・・・またオレのこと心配しているわけ?」
「どうして・・・釈放された時・・・ザフトに戻らなかったのよ!」
・・・そうすればアンタは故郷に戻って大切なひと達に再会できたのに・・・・・
・・・二度とトールに会えないアタシと違って・・・。
ミリアリア・・・オマエはもの凄く残酷だ。
オレの戻りたい場所を勝手にザフトだと決め付けて、戻ろうとしないオレを責めるのだ。
オマエの中にあるのは、もう二度と戻る事の無い「トール」との思い出。
奴が死んだ瞬間から、思い出はすべて美しいものにとって代わる。
本当は奴の事だけしか見えていないミリアリア。
どんなに明るく振舞っていても、ひとりになると想いは奴のもとへと還っていく。
誰もが悲しいのだからと、自分で自分を慰めて、昼とも夜とも区別の付かない時間を過ごす。
ある意味幸福なその時間を壊しに来るオレはオマエにとって悪魔の様に映るかも知れない。
だけど・・・ミリアリア。
オマエはここで生きている存在。
奴の居る彼岸の思い出に還すことなどオレがさせない。
こうしてオマエを強く強く抱き締める。息が出来なくなるまで押さえつけ・・・抱き締めるのだ。
オレの腕の中で、オマエがどれ程もがき続けようが、放してくれと懇願し、泣き叫ぼうが拘束から逃してなどやらない。
だが、かろうじて残る理性がオレの行動をここまでに押しとどめる。
本当はあんな奴との思い出なんてすべてブチ壊してオレだけのものにしてしまいたい!隙あらば牙をむく獰猛な自分がいる。
そして、誰も知らない所にオマエを閉じ込めて朝も昼も夜も「愛している」と囁いて・・・からみ付いて離さない。
不埒なオレの淫猥な望み。
やがて、泣き疲れたオマエはオレの腕の中で力を失う。
動かなくなったオマエをオレはやっと解放することができる。
閉じられた瞼に溜まった涙を掬い上げ、口付けをする。
・・・ミリアリア・・・。
オマエはオレのものだ。
誰にも渡しはしない。何処へも行かせない。傍にいるのはオレだけでいい。
───カタン
・・・・・・不意に誰かの気配を感じた。
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