「誰?・・・」
「僕だよ・・・ディアッカ」
そう言って現れたのはキラ。
なるほど。軍人のディアッカに気配を悟られないで近づけるのはAAではキラとムウ位のものだ。
「オマエいつからそこにいた?」
君がミリィを抱き締めたあたりから・・・と笑いながらキラは呟く。
いい趣味してんじゃん?今日はエターナルにいる日じゃなかったっけか?オマエは。
ムウさんの用事が長引いてこっちにいることにしたんだとはキラの説明。
「ミリィは相変わらず無理ばかりしてるんだね・・・」
オレに抱かれて眠るミリアリアに視線を落としてキラは呟く。
「ああコイツは自分が泣くと周りに心配かけるからっていつもひとりで泣いているよ」
オレが独房にいた頃は、なんだかんだと世話をやいて気を紛らわせていたのだろう。
いつかここから釈放されたら2度と会うこともないオレには、言いたいことも言えたのだろう。
けれど・・・オレはAAに、ミリアリアのもとに戻って来てしまった。
彼女にしてみればそれは予想外のことで、あんなこと言うんじゃなかったと後悔する時もある筈だ。
AAでは、オレが彼女を忘れられなくて戻って来たという噂が流れている。
以前ならともかく、今ではホントのことだから否定する気もないが、彼女はその噂をとても嫌う.。
オレに対するあからさまな拒絶の言葉は、噂でオレをこれ以上傷つけないようにとの、
彼女の思いやりだと今ならわかる。
「ディアッカ?」
キラは黙りこくってしまったオレの顔を覗き込み、首を傾げる。
「ミリィ・・・起きそうもないね。いつもそうなの?」
「・・・・・・」
「君の腕の中ではいつもそうやって眠ってしまうの?ミリィ」
ヒトが良さそうな物腰のキラだが、こんな時、オレはヒヤリとさせられる。
「こうでもしないと泣けないし深く眠れないのさ・・・コイツは・・・。」
「ふうん・・・」
キラはオレの傍らに腰を下ろして彼女の頬にそっと触れた。
・・・ピクリと彼女が反応する。
「なるほどね・・・僕が触れると無意識のうちに警戒するんだね」
クスリとキラは微笑んだ。
「今度は君が触れてみて・・・」
「何言い出すんだオマエ・・・」
「いいから・・・ほら」 キラは有無を言わせない勢いだ。
オレはそっと触れてみる。・・・彼女は何も反応しない。
「・・・ミリィは本当に・・・君の事信頼しているんだね。
身体がちゃんと覚えているんだもの・・・いつもこうして包んでくれているってね」
「ディアッカ・・・君って本当は何でも出来るでしょう?飄々としてるけど・・・
能力を適当にセーブしてるよね。ザフトのアカデミーでは、アスランには敵わなかったって言うけれど。
本気になったらいい勝負じゃない?そんな何に対しても執着を持たない君だけど、ミリィだけは別なんだ」
「オマエさぁ・・・オレに何が言いたいわけ?」
キラの真意が解らなくて問い詰めると・・・
「君が本当にミリアリアの事を大切にしているってこと」
「・・・・・・・・・・・」 だから何が言いたいんだキラ。
「ミリィは君に惹かれ始めてるね。絶対認めないとは思うんだけど。
そして君は自分で思っているよりもずっとミリィのことが好き」
「で───だから何なんだよ!」
「多分君は今まで本気で誰かを好きになったことなんて無かったでしょう?
アスランが驚いていたよ・・・あんなディアッカ見たことないって」
「あんなディアッカって・・・どんなディアッカなんだよ!そんなベタ惚れに見える?
そこまでコイツに夢中になってるって?このオレが?」
そうじゃないよディアッカ・・・と苦笑いをするキラは
「君が見ているのは・・・ミリィの傍にいる人達だよ。ミリィよりもそっちが気になってるの・・・自覚ない?」
「コイツの傍にいる奴・・・ねえ」
平静を装った言葉の裏で、正直オレは冷汗が出る程痛いところを突かれたと思った。
キラは気がついている。アスランも、オレが何を見ているのかを・・・。
ミリアリアに話しかける相手。サイやフラガのおっさんにマードックさん・・・キラ・・・。
こいつらに向けられる優しい笑顔・・・オレには決して向けられない笑顔。
オレにも・・・いやオレだけに向けて欲しい笑顔。
───オレはこいつらに嫉妬しているのだ・・・。
こんなに好きなのに彼女は振り向いてはくれない。
オレがどんなに彼女の傍に居たくても、彼女は居させてはくれない。
オレは・・・いつかはここを去るコーディネイターだからと彼女は無意識のうちに境界線を作る。
こっちに来るなとオレを牽制し、壁を作る。
確かに傍目にはオレに対して随分優しくなったし、周りもそう思っているだろう。
けれど・・・笑顔だけはオレに向けてくれない。
アスランはプラントにいた頃のオレをよく知っている筈だ。
何にも執着をもたない、醒めきった冷ややかなオレを。
オンナなんて間違っても本気で相手にしないアソビ慣れたオレを。
他人に目を向けることなどバカバカしく思っていたオレを。
そんなオレがミリアリアに・・・その周囲に嫉妬の眼を向けているのだ。
感情を抑え、冷静さを装っていても・・・アスランには気付かれたという訳だ。
「バカバカしい!気のせいだっつ〜の!」
アスランやキラがいくらそう言ってもそれを───認める言動はオレにはできない。
キラはそんなオレをどう思ったのかわからないが、
「じゃ、もう僕も行くから・・・おやすみディアッカ」
そう言って静かに立ち上がる。
「ああ、またな・・・」それに軽く応えたとき───
「ところで・・・君の自制心っていったいどこまでもつだろうね・・・」
オレは・・・そんなキラの言葉に今度こそ背筋が寒くなった。