オーブ近海を潜伏中のAAに奇妙な通信文が届いた。すなわち。

“麗しのガブリエル様・・・。
 お怪我の具合はいかがですが?
 急なご出立とはいえ、災難でした。
 さて、以前ご注文いただいておりましたブロンズのアポロン像が完成致しましたので、
 お届けにあがりたいと思います。
 以前お話したとおり、お嬢さんに直接逢ってお渡したいので、
 どうぞ蒼く輝く海までお越しくださるようお伝え願います。時間指定は6時となっております。
 なお代金引換にて迅速な受け渡しが出来ますようご協力ください。
 白銀のアルテミスの件はまた後日お伺いした時にでもご相談いただければと思います・・・"

 ・・・と、まあこんな文面・・・・・・。








リトライ!








驚いたのはAAのクルーの面々。

「艦長これってもしかすると・・・?」

チャンドラがコードブックを片手にマリューを仰ぎ見る。

「ええ・・・これはAAのクルーでも一部の者しか知らない特殊暗号文ですものねえ・・・」と、マリュー。

「この特殊暗号を組んで送れるのは、俺達の他にあと誰がいるんだ?」

そんなチャンドラの声にノイマンが答える。

「そういえば・・・あとふたりいたね?この空の向こうにさ」と、指さすは航路パネルのL5宙域。120基ものコロニーから成る『プラント』の在りかだ。

『ブロンズのアポロン・・・白銀のアルテミス・・・』

ノイマンはそこまで口にすると、くぐもった声で笑い出した。

マリューの顔もチャンドラの顔も笑っている。

「ねえ・・・ミリィこれってやっぱり・・・」
・・・と言いかけてミリアリアに思い切り睨みつけられたのはキラ。

「・・・今、あたしに話しかけないでよね・・・」

「だってミリィもう暫く逢ってないんでしょう?」
キラは上目遣いでミリアリアを見る。

「キラ・・・あたし今なんて言ったっけ?」
ミリアリアは更にきつくキラにあたる。

「ミリィ?素直にならないと本当にお嫁さんの貰い手がなくなっちゃうよ?いくらミリィには寛大な彼だっていつまでも待ってはくれないよ?」

にこにこ笑って棘のある言葉を口にするキラは実に楽しそうだ。

これにはさすがのミリアリアもプッツリと・・・キレた。

「あたしのやることにあ〜だこ〜だウルサイオトコはもう振っちゃったのよっ!あんなヤツはもう赤の他人よっ!」

「あんなヤツって誰のこと?」
と、どこまでもキラはひとが悪い・・・。

「『ブロンズのアポロン』なんて大ボケかますサイテーオトコは・・・ディアッカのバカしかいないわよって・・・あたしに何を言わせるのよキラっ!」

「・・・今のはミリィが勝手に言ったんでしょう?僕は知らないよ?」

キラはしれっとした顔でミリアリアに言葉を返した。

「通信暗号文解読します!」チャンドラの声がブリッジに響く。



         ****よう!ディアッカだけれどAAのクルーは皆元気?
               オノゴロの地下深くに潜伏してるってホントなの?
               ま、あのあたりの海は複雑な入り江だし、『灯台元暗し』てこのことだよな?
               オレは明日から3日間休みなんだけど、ちょっと逢えない?
               海岸まではオレも行けるから、できたらミリアリアが迎えに来てよ。?
               そんなに時間がないから無駄なことは極力避けたいんだよなあ〜!
               と、いうわけで、ヨロシクな!明日の夜6時に海岸で待っているよ。
               あ、このことはイザークの奴には内緒だからな・・・。 **********



───以上です・・・。

「エルスマンだなんて懐かしいな。でもAAに何の用があるのか・な〜?」
チャンドラが首を傾げてミリアリアを眺める。なんともワザとらしい仕草である。

「ザフトの軍事作戦も厳しくなるって話だからな・・・」
ノイマンは頬杖をついて温かく笑う。

「そうよねえ・・・ディアッカ君にとっては『忘れじの君』ですものねえ・・・」
マリューは大きく溜息を吐く。

「つまり戦いが激しくなる前にミリィに逢っておきたいんでしょうね、ディアッカは・・・」
キラもマリュー同様大きく溜息を吐いてミリアリアに返事を促した。

「明日は送ってあげるから、ちゃんとディアッカと話をしてくるんだよミリィ?」

「ちょっとキラ!誰がアイツに逢うって言ったのよっ!冗談じゃないわ!」

「あ・・・でも、もう『了解』って送っちゃった・・・」
さも済まなそうに・・・でも楽しそうにチャンドラが言った・・・。






**********






約束の時間はとうに過ぎている。ミリアリアは観光スポットである灯台に来ていた。

(何やってるのよ・・・あのバカは・・・!)

オノゴロ島はオーブの軍事拠点で人の出入りも激しい。
当然不審者に対するチェックも相当厳しいのだが、逆にパスさえすればあとは楽なものだ。

あのディアッカのことだからチェックなど難なくパスしてくるだろうとは思うのだが、それでも万が一を想定する自分がおかしくなってしまう。
そういえば前の大戦時もAAの中でミリアリアはなんだかんだとディアッカの世話を焼き、心配ばかりしていた。

(結局気がつけばアイツに振り回されてばかりなのよねえ・・・)

ディアッカに、いいようにからかわれていた毎日を思い出してミリアリアはちからなく笑った。

日没の時刻を過ぎ辺りが薄暗くなってくると、それまで賑やかだった海辺もひと気がまばらになる。海辺を歩くのはベタベタとくっつくエロ過剰の(バ)カップルだけだ。
忌々しげに眼をやっていると、背後から肩をつかまれ、ミリアリアは咄嗟に振り返って声荒くまくし立てた

「遅かったじゃない・・・何して・・・」

途中で声が止まった。
そこにいたのはディアッカとは似ても似つかぬ下卑た男の2人組だったことにミリアリアはたじろいだ・・・。

真っ赤なアロハシャツに短パン。品のない真っ黒なサングラス。もうこんなに暗くなっているのにサングラスとはマヌケな姿の2人組。

「やっぱりおねえちゃんひとりだったね〜!可愛いいから眼ェつけてたんだよね?どうよ?オレらとドライブに行かねぇ?」

「もう連れが来るんです!放してください!」

「うそばっかり!かれこれ30分以上もそこにいるじゃんよ?スッポかされちゃったんじゃないの〜?」
ニヤけた顔をミリアリアに近づけて更に顎をしゃくりあげる。
吐かれた息は強いアルコールの臭いがしてミリアリアは思わず顔をそむけた。

「な〜にスカしてんだよぉ!男を待っていたんだろ?だったら俺らでもいいじゃんよ?」
男たちはミリアリアの腕を掴むと強引に引き寄せその肩を抱いた。

「お近づきにキスさせてよ〜!ねっねっ」



───はいはいおにいさんたちそこまでにしといてね・・・。



およそダラけた無気力な声に男たちが振り返る。
見ると陽に焼けた褐色の肌に黒い髪をオールバックにしたこれも紅いアロハを着てサングラスをかけているチンピラ風情の男が気だるそうに立っていた。

(あ・・・・・・)

その姿を見るや、ミリアリアは大きく天を仰ぐ。肩のちからが一気に抜けた。

「な〜んだぁこいつ?今時ガングロなんてハヤリじゃね〜んだよ!このおねえちゃんは俺らが先に眼ぇつけたんだよ!邪魔すんな!」
言い終えないうちに拳を振り上げてガングロ男に殴りかかるが、次の瞬間その立場は逆転していた。
ガングロ男の放ったボディブローが見事に片方の男の腹に入った。倒れてそのまま気絶する。

「あんたもやる〜?」
ガングロ男は面倒くさそうに残った男に話掛けた。

「バカに・・・するんじゃねえよ〜っ!」
凶暴な眼つきでガングロ男を威嚇するとポケットからナイフをチラつかせる。

ガングロ男は大きく溜息を吐くとサングラスをはずしてポケットにしまい込んだ。
初めてあらわになった素顔は夜目にも端整でなおかつ秀麗な美貌。男を睨みつける瞳は宝石のような紫の色。

「あ〜もう面倒くさいからとっととかかって来てくれない?」

「畜生・・・!」
ガングロ男の挑発にナイフを翳して男が立ち向かって来たが、手刀をもろ後頭部にくらってその場に崩れ落ちた。





「ああ・・・お嬢さんお怪我はございませんか?」

ガングロ男はミリアリアの手を取って小さくキスをすると、そのままその手首を引き寄せた。

「何するのよ!それにその趣味の悪い格好!こいつらと同じじゃないのっ!チンピラ!」

「え〜?オレのほうが何倍もいいオトコでしょう?それに常夏のオーブで背広にズボンってわけにはいかね〜じゃんよ?」

「その黒髪はどうしたのよっ!コスプレにでもハマっている訳!?」

「いいねえコスプレ。おまえバニーガールやる気ない?でも胸が足りないか。色気もないし・・・」

「ディアッカ!」

「・・・やっと名前呼んでくれたな・・・」

「・・・・・・あ」

「せっかくの再会にチンピラだのコスプレだの色気のないセリフはパスよ?解ってる?ミリアリア・・・」

更に引き寄せたミリアリアの両手首にちからを込める。

「それじゃ・・・久方ぶりの再会を祝して・・・」

(な・・・・・)

ミリアリアが声をあげるより早く・・・その唇はディアッカのそれに塞がれていた・・・。

ミリアリアを掴んでいた腕は首筋に・・・もう片方の腕は背中に廻る。
強く抱かれて息が出来ないミリアリアをディアッカの唇が嬲る。
酸素欲しさに僅かに開いた唇の隙間からディアッカの舌が押し入ってくる。
舌と舌の絡み合いは徐々にミリアリアの意識を混濁させてゆく・・・。
膝のちからがカクンと抜けた。ディアッカはその様子に唇を開放する。

「放してよ・・・」
ミリアリアがちからの抜けきった声で言う。

その言葉を受けてディアッカはクククと口元を上げて笑った。

「ん?いいよ放してあげる・・・」

ディアッカは腕を放すと、ミリアリアの肩を、トン・・・と軽く押した・・・。

「・・・え・・・?」

スローモーションの映像を観ているようにミリアリアの身体が後ろ向きに倒れてゆく・・・。後ろは海だ。



********** ザッバーン ・・・・!**********



ミリアリアの身体は寄せては返す波に洗われ、胸から下はずぶ濡れになった・・・。

「お〜う!すっごい格好だねえ・・・ブラからパンツまでもろスケスケじゃん?」

「なに・・・?」
ミリアリアはまだ状況が飲み込めていない。

意識が混濁するほどのディープキスをされたのだ。朦朧とした意識は今だおぼろなままだ。

「一方的にオレを振ったうえ、半年以上連絡を寄こさなかったおしおき・・・」

ディアッカはそう言うとミリアリアを海から引き上げて抱きかかえた。
そのままスタスタと歩いて物陰に止めてあったエレカに乗せると自分も乗り込みエンジンをかけた。






「久々のデートなんだから・・・フルコースでお楽しみってね・・・」






長い睫を伏せて傍らのミリアリアの頬と額にキスをおとすとふたりを乗せたエレカはオノゴロの闇へと消えていった・・・・・・。












 (2005.8.17) 空

 ※たいへんお待たせいたしました。
   リクエストの『種D』の時間枠でのディアミリの再会(ギャグからラブラブへ)AAのクルーも出演。をお届けします・・・って
   どこがギャグなのかしら(汗)だってただひたすらディアッカが黒いだけじゃん!
   お盆中の餓えはここまで空を蝕んでいました。この続編でなんとかギャグにもつれ込みたいと・・・。
   どうぞ続編にほんのちょっと期待してください。ああ・・・でも黒は最高!


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