プラント本国ディセンベル市に所在地を定めるZAFTの総本部は、他にも数多くの関連施設を抱える新興の都市である。
人の出入りも活発なこの防衛の拠点地は、来たるべき地球連合軍との最終決戦を前に奇妙な高揚感に溢れていた。
カーペンタリア基地を出発したクルーゼの一行は入港マニュアルに沿った検疫と身体チェックを済ませた後、各々が所定の官舎へと向かった。
捕虜であるミリアリアの官舎入所を申請していたディアッカもクルーゼを通じて許可を得ると、そのまま官舎内の自室に入った。

「どうだ。プラントに来るのは初めてだろう?人工の大地とはいえ綺麗だとは思わないか?」

長く閉め切りになっていた自室の窓を開けながらディアッカはミリアリアにそう尋ねた。

「はい。空がとても綺麗なのには驚きました。とても人工のものだとは思えないです」

素直なミリアリアの受け答えに満足したディアッカは軽く頷くと、備え付けの薬品庫から点滴の機材一式を取り出しフックに掛けた。
高名な医学者を父に持つディアッカは、彼自身医学生だったこともあって、この官舎では特に薬品使用の許可も得ていた。

「まだ本調子ではないのに無理をさせたな。オレも今日はここにいるからおまえも少し休むといい・・・」

「・・・・・・」

「着替えが済んだら点滴をうってやるよ。眠れば少しは楽になるさ」

「あなたは・・・どうするのですか?」

「そうだなあ・・・ま、ゆっくり考えるとしましょうか」

クククと方頬で笑うディアッカから目線を外し、ミリアリアは物陰で着替えると言われるがままディアッカの前に立った。

「あのさあ・・・せっかくベッドがあるんだからさ?横になってもらった方がオレも助かるんだけれど!」

溜息混じりのディアッカの呟きにミリアリアは頬を赤らめると、部屋の隅にあるベッドに静かに横になった。
上掛けを胸まで覆い被せ、左の腕をディアッカにあずける。

「ああ、もっと力を抜いて」

アルコールを浸した脱脂綿がミリアリアの腕をなぞる。一瞬の痛みが過ぎた後、薬液が血管を通じて混入する。

「何か食べたいものはない・・・?」

「はい。私は大丈夫ですから・・・あなたこそもう休んで下さい。プラントに来てまで捕虜のお守りなんかする必要はないのでしょう?」

「・・・お守りねえ・・・」

ディアッカは前髪を鬱陶しそうに掻き揚げた後、その手でミリアリアの額に触れた。

「まあ、おまえの身に何かあったらみんなオレの責任になってしまうんだからお守りくらいはきちんとしましょ?」

ひんやりとしたディアッカの手のひらに熱を移しながら、ミリアリアの瞼はゆっくりと閉じられていく・・・。








クルーゼ (2)







ミリアリアの寝息がいつしか規則正しいものに変わったことを確かめると、ディアッカは熱いシャワーを浴びに浴室に向かった。

(これから・・・どうなるんだろうか・・・)

全身に熱いシャワーを浴びながらディアッカの思考はそこで止まる。
戦局はどんどん最終局面へと移っている。近くディアッカ自身にも出撃の命令が下るだろう。
ついムキになってミリアリアをプラントにまで連れてきてしまったディアッカだが、冷静になって考えてみればいつまでも彼女を手元に留めておけるはずもない。所詮彼女はナチュラルの捕虜で、ディアッカはその監視役に過ぎないのだ。
自分が出撃した後、捕虜である彼女は一体どうなる?
最初に予定されていた通り、捕虜の収容所に放り込まれて暗黙の了解の下、不特定多数の男の慰み者にされてしまうのであろうか。
いや、クルーゼはそれを良しとしなかったからこそミリアリアをディアッカに預けたのではなかったか・・・。
考えれば考えるほど、思考の糸は複雑に絡みついてディアッカに自由を与えようとはしない。

(まあ、すぐには決まらないさ・・・)

シャワーコックを戻し、ディアッカはバスローブを羽織ると、濡れた髪を拭き上げながら眠っているミリアリアの傍らに座った。
ひとつ目の薬液パックが空になりそうなことに気がつき、新たなパックに管を移す。
睡眠薬が効いているうちは彼女も目覚めはしないだろう。女というよりもまだ少女の面影を色濃く残すミリアリアはやはり可憐で愛らしい。
頬の赤みも薄れてきている。熱もどうやら下がったようだ。

しばらくミリアリアの寝顔を眺めていたディアッカにふとある考えがよぎった。

(こいつ・・・オレの子供を身篭らないかなあ・・・)

もし、ミリアリアが本当にディアッカの子供を身篭ったとしたら・・・。
コーディネイターを擁護する国家、オーブに国籍を持つミリアリアとなら婚姻さえも可能であろうか?
と、そこまで考えてからディアッカは慌ててそれを打ち消した。
ナチュラルの女と結婚なんぞ・・・周囲が認めるはずがないのだ。
ここ数年でディアッカも婚姻統制で決められた女性と婚約する。そこにミリアリアが入る余地は皆無。
そしてディアッカは愕然とする。
今、こうして束の間の自由を手にしている自分。自由な時間はあと僅かしか残されていないという事実。

(こいつに自由はないけれど・・・どうやらオレにも同じことが言えそうだな・・)

ディアッカは突然何を思ったのか、ミリアリアの腕から点滴の針とチューブを強引に抜いた。
抜いた針を始末して点滴用の機材を手早く片付けるとディアッカはクククと引き攣れた笑いを口の端に浮かべる。

(だったら楽しんだ奴の勝ちだろうって・・・!)

眠り続けるミリアリアの身体に自らを乗せると、ディアッカは彼女の身体を弄り始めた。
意識の無い女を抱くなど・・・最低の男がする行為だとは解かっている。
だが、それでもディアッカには止められない。
この女はオレのものだ。この先何が起きようともずっとずっとオレのものだ・・・!







**********







───同時刻。

ラウ・ル・クルーゼは新評議会議長となったパトリック・ザラより直々の命令を受けていた。

『ラクス・クライン一派が新造艦エターナルを奪取して逃亡した!
これはプラント本国への大逆罪である!速やかにエターナルを追撃し、ラクス派の残党を処分、抹殺せよ!』






───かくして賽は投げられた。






停滞したままの戦局が一気に加速されてゆく。

(何が起ころうが・・・人類の未来など私にとってはただのオモチャさ・・・)


そして・・・クルーゼはひとりほくそ笑む。



人類の終焉はすぐそこまで来ているのだと・・・。













      (2006.9.5) 空

   ※  みんな黒いですね(笑)
       クルーゼ(3)まで書き上げたら話は2つに分かれます。
       ハッピーエンドとバッド・エンド。あなたはどちらがお好きですか・・・?


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