あれから何年経ったのだろう。
彼女の細い腕を離してオレはZAFTに複隊し、再びMSを駆る身となった。
狭いコクピットの中では、コンソールパネルの電光と星々を隠す僚艦の影が
僅かにオレという人間の居場所を示している。
機体の中でも360度の視界を得られるバーチャルの世界は美しい。
けれど、それはどこまでも突き進みながら・・・
どうしても果てに辿り着くことができないそんなオレの苛立ちを煽り、
いつか諦めとなってオレの感情の天蓋となる。
プラネタリウム
数年前、オレはただこの場を生き抜く為の手段として敵艦に投降し、捕虜となった。
出世の為なら手段を選ばず、友軍の身すら踏み台にして得たものは
この瞬間に足元から音をたてて崩れ落ち、後に残るは裸の王様さながらの自分。
天も地も無い小さな世界にいた己が酷く矮小な者に感じた。
その世界観を根本から壊したのは彼女。
今も忘れられない蒼緑の瞳と栗色の髪。
明らかな殺意と、それに勝る慈愛との狭間で彼女はどれ程苦悩したのだろうか。
悲しみの底にあって尚健気だった心と、その強さにオレは知らず知らず惹かれていた。
これが恋心だと気付いたのはいつだったのか、最早それすらも解らない。
戦後、彼女に告白し、恋仲となり、想いを遂げ、
短い・・・それでも幸福な時間をふたりで過ごした。
常夏のオーブはオノゴロの軍港。
海に降り注ぐ雨のような星の河と、軍港の灯りに映る彼女の微笑。
またこの星の河をふたりで眺めようと、約束をかわした。
2月17日。すなわち彼女の誕生日の夜に。
やがて些細な諍いから・・・彼女はオレの許を去った。
「すぐ、元の鞘に収まるさ・・・」
オレはそう考えていた。だから他愛もない痴話喧嘩だと放っておいた。
でも、流れる時間と尽きぬ後悔の念は、次第に増えていくばかり。
もし・・・あの頃に戻れるのなら、オレは今、彼女に何を告げようか。
そして再戦───。
彼女と離れ離れになったままで過ぎる歳月。
それとともに未だ渡せずにいる彼女への誕生日祝。
痛んでぐしゃぐしゃになった箱の中身を知ったら、未練だと他人は嘲笑するか。
幾度となく見送った彼女の、誕生日の数だけ寂しい大人になった自分がいる。
離れて更に募る想いは、まるで七夕の夜にだけ逢える織姫と彦星のようだ。
それにしても、オレはいつからこんなロマンチストになったんだか・・・。
───いつまで呆けているんだこのバカが!
受信機から流れる甲高い声で現実に戻り、苦笑いをしながら溜息を吐く。
「悪い、ちょっと考え事をしていたんでさ」
「ふん!こんな所で貴様に死なれたらジュール隊の名折れだからな」
かつての同僚が、今は上司だなんて冗談にも程がある。
モニターに姿を映さなくとも、奴の表情は手に取るように解るなんざ、これはもう長い付き合いの成せる業。
きっと半ば呆れ、半ば苛立っているのだろうさ。
「ディアッカ・エルスマン直ちに帰投する」
オレは淡々と応答し、愛機の黒いガナーザク・ウォーリアを母艦ヴォルテールに向けて発進させた。
あの日、彼女と見上げた星の河を渡る。
「ねぇ・・・ディアッカ」
過去へ置き去りにした優しい声をもう一度聴きたい。
その為に今日を生きて明日を迎える。
「ミリアリア・・・」
いつの日か、彼女の名前を呼べる時が訪れたなら・・・
あの、オノゴロの軍港で夢の続きを叶えよう。
海に降り注ぐ雨のような星の河と、軍港の灯りに映る彼女の微笑。
またこの星の河をふたりで眺めようと、約束をかわした。
2月17日。
すなわち彼女の誕生日の夜───。
2010.03.14 空
※ ホワイトデーにミリィの誕生日をディアッカが思うなんて
混乱した私の頭の中身駄駄漏れですね・・・。
※ 2010.06.16
「POCKET in DOG」のPiD様より、ミリィサイドのお話 「角の擦れた写真」をお預かりし、こちらに掲載いたしました<(_ _)>
妄想駄文へ