長いキスのあと、オレはミリアリアを強引にエレカに乗せた。

「そんなに引っ張らなくてもいいじゃない!」
なんて抗議の声は当然無視してシートに押し込めたら「ビシャッ!」という水音がした。
髪から滴り落ちる水滴の行方を何気なく探っていくと・・・
彼女の着ているブラウスが透けていて、ブラの淡い色とレースの飾りまでが見えた。
いくら南国のオーブとて、雨に濡れれば身体は急速に冷え込む筈だ。
早くどこかで着替えさせて温めないとミリアリアは確実に風邪をひいてしまう。
AAに戻るよりも、オノゴロの市街地に出る方が早い。

「ちゃんと掴まってろよ!飛ばすからな!」

言い終わらないうちにエレカを急発進させると、ミリアリアの華奢な身体は遠心力でドアに押しやられる。

「ちょっ、ちょっとディアッカ!なんでこんな危ない事するのよっ」

「黙ってろよ・・・!舌噛んでもしらね〜ぞ!」

視界が一点に集中する。雨の音もエンジンの音も聞こえない。

もうすぐ日が暮れて、街のあかりも灯りだすだろう。












雨に紛れて・・・(4)











軍事拠点の市街地は宿泊の為の施設も多い。
技術者や整備士、軍の関係者の出入りが激しいからだが、今のオレには都合がいい。
こんなズブ濡れでも泊めてくれる所が必ずあるし、中立国ならではの融通もきく。
さほど大きくもないこざっぱりとした一軒を見つけて駐車場にエレカを止めた。
横に乗っていたミリアリアの不安そうな眼差しを見ながらオレは落ちてきた前髪をかき上げる。

「着いたから降りて・・・」

抑揚のない声で降車を促すと、ミリアリアはおずおずとトアを開けた。

「ほら!こっちへ来て」

強張る彼女の手を引いて外に連れ出しロックを掛けた。
肩を抱き寄せ、早足で建物に入ると「いらっしゃいませ」という業務的な声がした。

「部屋、空いてる?・・・彼女転んでズブ濡れなんでバスタブのあるツイン・・・ダブルでも構わないけど?」

「身分証明書はお持ちですか?」

「ああ・・・これで・・・泊まりで頼む」

言われてオレはモルゲンレーテで発行してもらったIDを見せた。

効果はテキメンで、「こちらへどうぞ。ご案内致します」と最上階の端のツインルームに通された。

「こちらでよろしいですか?」

「ああ・・・ここでいい」 手頃な広さの部屋だ。

「ありがとうございます。お食事はいかがなさいますか?」

「ルームサービスは?OK?じゃ、サンドイッチを2人分にコーヒーも。あと、ワインを1本銘柄は問わないが
できたらドイツ産の白。あ・・・いいね!じゃそれにして」

「かしこまりました。この部屋はオートランドリーがございますから、濡れた洋服はプレスまでお任せください」

「ああ・・・サンキュ!悪いね」 
オレはポケットからアード札をだして客室係に渡した。
通常のチップの3倍ってところだが、金はこういう時に役立てるものだ。

「ありがとうございます・・・!」
客室係は頬を上気させて退室した。






「ディアッカ・・・」

ミリアリアが今にも泣き出しそうな顔でオレを呼ぶ。

「ほら!早くバスに浸かってこいよ!肺炎起こすぞ!」
そこでオレは思いきりひとの悪い笑顔で「何ならオレと一緒に入る?」とからかった。
「イヤよ!」
即答の後、真っ赤な顔をして彼女はバスルームへと消えた。





「うえ・・・気持ち悪い・・・」
濡れたシャツを脱いで上半身だけ裸になった。タオルを肩に掛けて、AAに通信連絡を入れる。
「あ・・・オレ。ディアッカ。ああ・・・ノイマンさん?悪いんだけど、今晩オノゴロの市街地に泊まるから。
ミリアリアが転んでズブ濡れになっちまって・・・熱出したんで・・・うんそうそう・・・じゃ・・・ヨロシク!」

これで準備は総てOK・・・!

(準備って何の準備なんだ?)オレは苦笑した。

ミリアリアが・・・風邪ひくからここに連れて来たって?
ズブ濡れだから早く温めないといけないって?




───違うだろ・・・。




ここに連れて来たのは総てオレの為じゃないか・・・。

ミリアリアを誘う口実を設けて連れ込んだ部屋。

シャワーを使う音が聞こえる。

本当・・・どこまでも甘美な罠だ。




───KONKONKON。

「ルームサービスです。」

「ああ・・・じゃ、そこに置いといて。それと・・・朝は起こさないでいいから」

「かしこまりました」 邪魔な者はさっさと下がらせてオレは溜息を吐いた。




───シャワーの音が止んだ。




間もなくバスから上がってくるミリアリアをどんな顔で迎えようか・・・・・・。












窓の外はすっかり日が落ちて、夕闇が広がりつつあった───。














 (2005.6.28) 空 

 ※ さて・・・どうなるんでしょうねえー(無責任)

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