雨に紛れて・・・(9)
私は・・・ディアッカに抱かれるのが嫌だったわけじゃない。むしろこの人に抱かれるなら本望だとすら思えた。
けれどバスローブを脱がされ裸になって肌を合わせ、私を見つめる彼の視線を感じた時・・・不安に押し潰されそうな
自分がそこにあった。
きっと私は随分前からディアッカに惹かれていたのだと思う。
私にとってそれは恋と呼べるものではなかったにしろ、彼がいつも私の傍にいて、大切にしてくれている事実にいつしか幸せを感じていたのだ。好きだと・・・愛しているとまで告げられたのに、私がそれに答える事が出来なかったのは
『怖かった』からなのだと・・・ディアッカに去られてしまうのが怖かったのだと・・・今になって気付かされた。
ディアッカに惹かれていく自分に歯止めを掛けていたのは『トール』への罪悪感と、『失なう』ことへの恐怖感。
「あんたに惹かれていく自分が怖いのよ・・・今ならまだ引き返せるって思いたいのよ・・・」
だって私はこんなにディアッカに惹かれている。おいて行かれる事が不安で不安で堪らなくなるほど惹かれている。
「あんたのこと大好きだからこれ以上深入りしたくないのよ・・・ねえ・・・ディアッカ・・・!」
「引き返せるなんておまえ・・・本気で思っているの?」
ディアッカの険しい瞳が私を見下ろしていた。
「おまえは何も解っちゃいないね?」
「ディアッカ・・・?」
「そこまで言うのなら・・・引き返せないようにしてやるよ!」
いきなりディアッカの腕が私の喉を押さえつけた。一瞬息が詰まって酸素を求めた口が開く。
その唇を割ってディアッカの舌が入り込んできた。彼とのキスは何度も経験している。その中にはディープキスだってあったのに、今交わしているこのキスはそれらのキスとは全く違う欲望に塗れた淫猥なキス・・・。
喉を押さえつけていた腕はいつしか後ろから私の頭を支えていた。もう片方の手は強弱をつけて私の胸を弄る。
苦しくなって私の腕が彼の胸を押しのけようとするのにピクリとも動かない。
淫猥なキスが唇から首筋へそして鎖骨へと移動するにつれ、私の身体は小刻みに震えだした。
(怖い・・・どうなってしまうのか解らない・・・!)
私は「初めて」ではなかったけれど、この恐怖感は「そのとき」感じたものと同じだった。
ディアッカの愛撫が私の身体全体に及んだ時・・・その恐怖感は計り知れないものとなっていた。
身体がガクガクと震えだして止まらない。挙句の果てには涙まで頬を伝っていた。
「・・・怖いの?」
耳元でディアッカの色に濡れた声がした。
その声に弾かれるように眼を開けると、端整な彼の顔がすぐ間近にあった。
見慣れたラベンダーの瞳は半開きで、長い睫が瞳を覆ってライトで影を作っていた。額に落ちたクセのある金髪がとても綺麗でそっと手を伸ばすと、ディアッカは「ダメ・・・」と言って払いのける。
どうして?と尋ねたら「どうしても・・・」とクスリと笑った。
「怖かったら眼を閉じていていいよ・・・」そう言いながらも愛撫の手は止まらない。
自分でも息遣いが荒くなっていくのが解ってそんな自分に驚きを隠せない。
ザワザワとした感覚が登りつめてゆく・・・。
「引き返すことなんてさせないから・・・」
ディアッカが囁く・・・。
「おまえはオレのものだろう?」
激しい息遣いがした。
「もうオレのことを忘れることなんかできないようにしてやるよ・・・」
熱に火照った彼の身体に抱きすくめられる。
恐怖と快感とが交差する意識の中で彼の声を聞いた。
「いくよ・・・」
程なくディアッカが私の中に入り込んできた・・・。
熱い吐息と突き上げる律動の強さに私は眩暈がして彼に縋り付いた。
自分でも驚く様な嬌声と息遣いの激しさに我を忘れてのめり込んでいく・・・。
「ねえ・・・ミリアリア・・・オレのことを忘れないで・・・」
「お願いだから・・・忘れないで・・・」
彼独特の甘い艶のある声が耳元を掠める・・・。
(忘れられるわけがないわ・・・)
登りつめる快感だけが今の私を支配する。
ディアッカの囁きが遠くに感じた・・・。
混濁していく意識の中で、たくさんの「私」がさらけ出されていく・・・。
「愛してる・・・ミリアリア・・・」
「私も・・・」と続くはずの声を紡ぎ出せずにそのまま私の意識は真っ白になって・・・溶けていった・・・。
(2005.7.9) 空
※ やっと軽くなりました・・・でもまだ「消化不良」ですか・・・?(苦笑)
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