───あんたは・・・プラントに帰ったら新しい生活が始まるのよ・・・
     そうしたら私のことなんて忘れていくのよ・・・・・・・・





ミリアリアは涙を浮かべた顔で笑った。

恋人を亡くしたばかりの頃にAAで見かけた引き攣れた作り笑い。

おまえはどうしてそんな引き攣れた笑顔をオレに向けるの・・・・・・?

オレがおまえを忘れるというの・・・?

オレが・・・おまえを忘れてしまうって本気で思っているの・・・?








───パシッ・・・








気がついたらオレはミリアリアの頬を叩いていた───。










雨に紛れて・・・(8)










「違う・・・て・・・ちが・・・って言ってる・・・だ・・・ろう・・・」

涙が止まらなかった。

どうしておまえは解ってくれないのだろう・・・。
おまえと離れたくなんかないのに・・・。
それでも離れる事を決めたオレの覚悟をどうしておまえは解ってくれないのだろう。

もう、どうしようもないほど恋焦がれているのに・・・傍にいないと気が狂いそうなほどおまえに恋焦がれているのに。

「愛してる」とか「好きだ」とかそんな言葉じゃ伝えられないほど大切なのに。

伝い落ちる涙を拭うこともできないブザマで情けないなオレなんか見せたくないのに。

どうしておまえは解ってくれないのだろう・・・!





オレはミリアリアを抱く腕の力を緩める事はできなかった。
彼女の拒むままに腕を放してしまったらもう二度と掴まえられないような気がしたから。

彼女の耳元で呪文の様に何度も何度も繰り返す言葉。

「オレを忘れないで・・・」
「オレを忘れないで・・・」
「お願いだから・・・オレを忘れないで・・・・・・」





オレの腕の中で暫くミリアリアは動かずに黙っていたが・・・やがて顔を上げて語り始めた。

「私があんたの事を忘れるはずが無いでしょう?ずっと・・・そばにいたんだから。この先平和な世界で暮らしても・・・
私は以前と同じ様な生活なんてもう出来ないのよ・・・だってたくさんのものを見てしまったんだもの・・・」

戦争の悲惨さを口で語るのは簡単な事だ。大変だったとひと言で片付けられてしまう。
しかし最前線で戦いを繰り返してきたオレにとっては深い傷ばかりがささくれだまま残っている。
たくさんの死を目の当たりにして「いつかは自分もそうなるのかも知れない」そんな不安や孤独と向き合った毎日。
けれども・・・生死の狭間で初めて解った事もある。

それは生きているという事の素晴らしさ。
大切な人を一瞬で永遠に失う事の悲しみ。

忘れる事なんて出来ない人間としての思い・・・・・・。






オレはミリアリアを更に強く抱きしめた。

ミリアリアも・・・もうオレを拒まなかった。

涙の味のするキスを繰り返し繰り返し・・・抱き上げてそっとッベッドへ誘った。

薄暗い灯灯りの許で見るミリアリアの瞳はオーブの暖かい海の蒼だ。
ずっとずっと・・・その瞳に映し出されるのはオレだけであって欲しいと願っていた。
その瞳は今・・・オレだけを見つめている。
バスローブを外すと彼女の白い肌が露わになって、それだけでオレはイッてしまいそうな恍惚感に襲われた。
女の身体なんて飽きるほど見て来たのに、その殆どがミリアリアよりも綺麗な女だったというのに・・・・。
(おかしいよな・・・・・・)自分自身に笑みが漏れてしまう。

「そんなにジロジロ見ないでくれる・・・」
ちょっと顔を赤らめて、ミリアリアが抗議する。

「何で?」

「・・・あんた綺麗だから・・・」そう言ってミリアリアは拗ねた顔でオレを見上げた。

「・・・おまえ・・・この期に及んで何言ってんのさ・・・」
せっかく色っぽいムードになってきたというのに何を言い出すんだよもう!

「だって・・・いくら考えても解らないんだもの。なんであんたは私を好きだって!愛してるって云うのか解らないんだもの
地位も名誉も財産もある御曹司で、しかも優秀なコーディネイターでこんなに綺麗なのに・・・どうして・・・」

「おまえ・・・ずっとそんな事考えていたの・・・?」

「悪い・・・?でもね・・・私は何でも持っているあんたと違って何も持っていないのよ!」

ミリアリアはずっとそんな思いでオレを見ていたのだろうか?オレと自分を比べて泣いていたのだろうか?

「待っていてくれるって云ったけれど・・・好きだって!愛してるって云ってくれたけれど・・・もう嫌なの・・・
おいて行かれる恋なんて・・・・いくら好きになっても追いつけない恋なんてしたくないの・・・!」

そう言ってミリアリアは泣き出した。
それは先程の様な引き攣れた作り笑いの涙ではなく本物の涙だった。

「あんたに惹かれていく自分が怖いのよ・・・今ならまだ引き返せるって思いたいのよ・・・」

「あんたのこと大好きだからこれ以上深入りしたくないのよ・・・ねえディアッカ!」







───引き返せるなんて本気で思ってるのかよ!






その涙はおまえの本音なんだろう?

オレのことを好きだって認めてんだろう?

おいて行かれる恋だって?追いつけない恋だって?そんなセリフは全てが終わってから言うことじゃないのか?

オレが何でも持っているって?

おまえは何も持っていないって?

腹が立った。









───ミリアリア!おまえは何も解っちゃいない!











         そこまで言うのなら引き返せないようにするまでさ!覚悟しろよ───!
















 (2005.7.7) 空

 ※ 本気で男を怒らせると怖いですよね。特にこんな直情径行タイプはね・・・頑張れディアッカ!

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