バスルームのドアが開いた。
ローブ1枚の姿が恥ずかしいのか、ミリアリアは少し顔を赤らめて俯いている。
「お先・・・ありがと・・・」
と、小声でオレに告げた後もドアの横に立ったままだ。
「ああ・・・上がったの・・・?」
オレは出来る限りさりげなく言ったつもりだが、緊張している彼女にはどう取られただろう。
俯いたままの彼女が痛々しくて、「じゃ、オレも・・・」と早々にバスルームに向かう。
「コーヒーが嫌なら、冷蔵庫の中にあるの好きに飲んでて」そう付け加えてオレはバスルームのドアを閉めた。
シャワーを浴びながらオレはこれまでの事を考えていた。
プラントに戻るとミリアリアに告げれば、きっと何事も無かったかのように、サラリとオレをかわすだろう。
その後は適当に口実を作って先に帰ると言うだろう。
素直になれない彼女だから真直ぐ帰る筈も無い。その陰で泣かせることも解っていた。
でも・・・オレは知りたかった。
ミリアリアの本当の気持ちを知りたかった。
好意を持ってくれているのはいい。ただ・・・そのままでいることに不安だけが募っていく。
このまま彼女のいるオーブで暮らす。なんて魅力的な毎日だろう。だが・・・その先は?
AAの中で、オレは彼女に「待ってるから・・・」と言った。今もその言葉に偽りはない。
だが生死の狭間で見つめた未来は限定されたものだった。
停戦の後、急速に開ける未来には何の枷も無く、オレのミリアリアに対する想いだけが取り残されていく。
『待っているから・・・』
───でも、"なに” を?待っていればいいのだろう。
開けだした彼女の未来にはたしてオレは存在するのか・・・・その思いは不安を通り越して深い絶望へと変わっていた。
雨に紛れて・・・(6)
「どう?少しは落ち着いた?」
シャワーの後にミリアリアを促すと、「うん・・・」とそっけない返事が返ってきた。
見れば先程と同じで俯いたままだ。
「なあ・・・おまえなんで下向いてんの?」なんでだかは解っていたが。
ミリアリアの身体は小刻みに震えていた。どんな顔をしているか見たくていきなり頬を持ち上げた。
「なんで泣くの?」
「解らないわ・・・」
「なんで解らないの?」
「だって・・・なんで泣いているのか・・・私にだって解らないんだもの・・・」
ミリアリアの顔は見つめるオレが切なくなる程儚げで繊細だった。
「ああ・・・もう!」
自分の包容力の乏しさに腹が立った。このまま強引にベッドに連れ込みたい衝動を抑えてフロントを呼び出す。
チップを弾んだ事もあって。まもなく望んだものを届けてくれた。それがホットパンチ。
「おまえ・・・ガチガチに緊張してるし精神状態も不安定だから涙が止まらないんだよ・・・ま、Drの言う事は信用して?」
と、昔から伝わる「リラックスの薬」をミリアリアに与えた。
オレはオレで白ワインの栓を抜きワイングラスに注ぎ込む。少しの間そうして過ごしていたが、ミリアリアの緊張が
少しずつ解れていくのを見計らって傍に近づいた。
「眠いだろうけどゴメンな・・・まだ寝かせるわけにはいかないから・・・」
ミリアリアを椅子に座らせたまま、そっと顔を近づけてたくさんのキスをする。
初めは優しくあろうとしたが、ここまで来て自分を抑えるなんてオレにはもう出来なくて、気が付けば彼女の腕を掴み
激しいキスへと変わっていた。
舌を絡ませる。彼女が抵抗しないのをいいことに強引に椅子から立ち上がらせてその身体を締め付けた。
彼女とキスをするのは無論初めてじゃない。けれど今日は込められている想いがきっと違っている。
今日のキスは儀式だと思う。
これから起こることへの儀式。
かつてAAでミリアリアを自分だけのものにしたくて見つめて過ごした日々があった。
朝も・・・昼も・・・そして夜も・・・。まるでストーカーのように彼女の周囲に出没した。
理由をつけては胸の中に抱き込んで・・・そのまま離さずに寝かしつけたのは・・・多分歪んだ所有欲からで、事実誰にも
触れさせたくなかったし、目覚めた時に、一番最初にその瞳に映るのがオレであって欲しかった。
誰かれ構わずに向ける笑顔の相手に嫉妬したこともあった。
世界が正常に動きだしてねじれた時間が戻った時・・・オレは自分の中に潜む狂気の存在を自覚した。
AAの限定された空間では彼女を見つけるのは容易かったが、地球という広い世界で彼女を見失いそうになったとしたら・・・?
オレは正気でいられる自信が無い。
現にもう既に狂いだしているかもしれない・・・。
オレの世界は彼女がいることで初めて正常に動き出す・・・。
でも・・・彼女の世界はオレとは違う。今の彼女の世界には、オレは必要不可欠な存在ではないのだ。
このままズルズルと彼女の傍にいたからって、彼女が・・・ミリアリアがオレのものになるわけではない。
ミリアリアは・・・多分オレを好きでいてくれているだろう。大切にしてくれているだろう。でも、オレが望んでいるのは・・・
オレの横で幸せそうに微笑むミリアリア・・・・・・。
オレは知りたい・・・!彼女の本当の気持ちを知りたい・・・!
おかしな話かもしれないが・・・ミリアリアがオレを・・・ディアッカ・エルスマンをどう思っているのかはっきりと理解するのは
多分オレがいなくなった後だろう。
プラントに戻る事を決めたのは・・・もちろんイザークの要望や帰国要請もあった為だが・・・
本当の理由は「ミリアリアの本心が知りたかった」からなのだと誰に言える?
───お願いだから・・・オレを忘れないで・・・。
おまえを抱くこの腕を・・・
おまえを包むこの胸を・・・
おまえを見つめるこの瞳を・・・
おまえの世界にオレを居させて・・・。
忘れないで・・・。
(2005.7.2) Qoo3
※ ちょっと重いですか・・・? 男心はキツイものと私は思っていますが・・・。
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