雨に紛れて・・・(3)
雨が強くなってきた。
ディアッカを残して先に戻って来たけれど、AAのクルーにこんな顔は見せられない。
「買い物を思い出して街に出る途中で雨に降られた」とか言えば濡れたいい訳もできると思って
私は市街地に向かうことにした。
プラントに戻ると彼に言われた後、私はどんな顔をしていたのだろう。
ちゃんと平静を装うことができただろうか。
今まで、いくら「プラントに戻れ」と言っても頑なに拒んできた彼が帰る決心をしたのだから・・・
喜んで送り出してやればいいのだ。
これで彼ががプラントに戻れば、私はもうきっと彼と会うこともないだろう。
プラントでも有数の名家の跡継ぎなのだ。いずれは家の格式に見合った結婚が待っている。
何年かしたら・・・どこかの街頭のヴィジョンで有名になった彼を見かけるかもしれない。
タイムリミットは一週間。
AAにいた彼は・・・プラントのディアッカ・エルスマンに戻ってゆく。
「おまえ・・・AAに戻ったんじゃなかったっけ?」
急に背後から声を掛けられた。
振り向けば・・・いつの間にか私のすぐ後ろにディアッカが立っていた。
彼はいつもそうなのだけれど、気が付けば私の傍にいる。
気配を感じさせず、その場の空気に溶け込んでいるかのように姿を現すのだ。
「ちょっと買い物を思い出したのよっ」
「・・・ふうん・・・それにしてはズブ濡れじゃん?なんで店に向かわないでこんな所に突っ立っているわけ?」
そう言ってディアッカはニヤニヤと私の顔を眺め回す。
「転んだのよ!」
これは・・・さすがにちょっと無理があると思ったけれど・・・。
見ればディアッカは思いきり口の端を歪めて・・・クククと笑い出していた。
この笑い方は危険信号と同じ。何かを企む時に必ず見せる彼の癖みたいなものだ。
咄嗟に逃げたのは条件反射。
何故なら・・・こんな時の彼の行動はとても怖いと経験しているから。
こっちは必死で走っているというのに彼の動きはとても緩慢で無駄がない。
ゆっくりと・・・でも確実に追い詰められてゆく・・・。
(あ・・・) 足が縺れた! でも・・・転ぶと思った時には既にディアッカに腕を掴まれていた。
「なにも・・・そこまで逃げなくてもいいだろ?」
掴まれた両腕に力を込められ、射掛けるような彼の視線をつい見返してしまった。
「なんで・・・あんたは私をひとりにしてはくれないのっ!」そう叫んだのに・・・。
───ホントウニヒトリニシテホシイノ・・・?
頭の中で別の声が響く・・・。
本当に私はひとりになりたかったのだろうか?
心のどこかでディアッカが・・・こうして来てくれる事を望んでいたのではないだろうか?
違う!そんな筈はない!
───ホントウニノゾンデナイノ?ウソデショウ?
待って!私はディアッカのことなんて愛してなんかいないから!
彼がプラントに帰れば・・・総てが終わるんだから!
追いかけてなんかいないから!
───バカネ・・・オイカケテイルンジャナクテ・・・オイテイカレルノガコワイノデショウ?
・・・こわい・・・?
違う!と言いかけて、その声を強引に絡め取られる。
舌を絡ませる激しいキスは隠れた感情をさらけ出す。
───私をおいて行かないで・・・。
涙がもう止めどなく溢れてくるのをごまかすことはできない。
───私をおいて行かないで・・・。
お願いディアッカわたしをこのままひとりにはしないで・・・。