雨に紛れて・・・(2)

1週間後にプラントへの帰国が決まった。

軍事裁判で有罪になりかけたものの、地球とプラントとのパイプ役が必要との見地から無罪が確定したのだという。
オレとしては・・・別にこのままオーブで暮らしてもよかったし、何よりもミリアリアと離れるなど論外だ。
アスランやラクス、バルトフェルド隊長などはこのままオーブに留まるというし、自分もそれに倣うつもりでいた。

だが───。

全軍の大半を失ったザフトは・・・プラントはどうなる?
数少ない生き残りとしての経験を評価されたイザークに重責が圧し掛かる。
近く司令官職に就くというあいつはその補佐役としてオレを指名したのだと言った。
地球側だけで平和を築くことは出来ない。
当然プラント側も送受信の為チャンネルを構築しなければいけない。それも早急に。
つまりは、それがオレに求められた仕事だということだ。

一晩考えてオレはプラントに戻ることを決めた。
もう、これ以上ミリアリアのような人間を生み出さないためにも。

でも・・・彼女にはどう告げればいい?
更にもう一晩考えた挙句・・・。


───プラントに戻るよ・・・。



告げた言葉は・・・ただ、それだけだった。





「そう。よかったじゃない?あんた2ヶ月以上もオーブでくすぶっていたんだから」

思ったとおりの返事が返ってきた。というよりも、絶対こう言うだろうと解っていた。
なにしろ、いつも口癖のように「プラントに帰れ」と言っていたからいい機会だとオレを送り出してくれるだろう。

ただし・・・それは表向きの事だ。

ほんの一瞬強張った顔をオレは見てしまった。

先にAAに戻ると言って、雨の中を走り出した彼女だが・・・。
まあ、賭けてもいいが100%どこかでこの雨にうたれている筈だ。
素直じゃないのは折り紙つきで、オレの前で本音は絶対口に出さない頑固者だし、超が付くほど意地っ張りだから
この雨に紛れて泣いているんだろうさ・・・。

AAに戻ると言ったから、向かった先は逆方向。
ズブ濡れの泣き顔なんて絶対あいつらには見せないって。
2ヶ月以上オーブにいたんだ。行き先の見当ぐらいはつく。
ただ・・・雨が強くなってきたから急いだ方がいいだろう。




























「おまえ・・・AAに戻ったんじゃなかったっけ?」

つい、意地悪したくなるのは潜在的にオレがサディストだということか?
思った通り、市街地の少し手前で木立に隠れるようにしているミリアリアを見つけた。
オレに見つけられた気恥ずかしさから「ちょっと買い物を思い出したのよっ」なんていくらなんでも無理がある。

「ふ〜ん・・・それにしてはズブ濡れじゃん?」
「転んだのよ!」
真っ赤な顔をして投げ付ける言葉にはもう、呆れを通り越して笑ってしまう。
本当にミリアリアは素直じゃない。そして、オレはそこが好きでたまらないのだ。

つい、口元が歪んでしまった。

そんなオレの顔つきにミリアリアは危険を感じたらしく、一瞬の隙を突いて走り出した。
しばし唖然とそれを見送っていたが、雨の強さに気が付いて、あわてて後を追いかけた。
捕まえるのは至極簡単だが、このままちょっと追いかけっこを楽しみたいなんておかしいだろうか?
だってほら・・・足が縺れてバランスを崩し、彼女は今にも転びそうなウサギのようだ。
その間にオレは自分に付いている自制心というリミッターを1つ1つ外していく・・・。
追い詰めて追い詰めて・・・もはや逃げ出す事など出来ない位に疲れさせて・・・







「つかまえた・・・・・・!」







「なにも・・・そこまで逃げなくたっていいだろ?」

両腕をギリギリと締め上げてオレは彼女を睨みつける。

眼と眼が合って・・・彼女が叫んだ。

「なんで・・・あんたは私をひとりにしてはくれないのっ!」






「そんなの決まってんじゃん?ひとりにしたくないからさ・・・」






そのままきつく抱きしめる。

抗議の声を阻むように強引にぶつかるキスをした。

今のオレは・・・獲物を捕らえる猛禽類にきっと似ている。

強く重ねた唇を割って雨と一緒に彼女の涙が紛れ込んでくる。









───最後のリミッターが外れて淫猥で色に濡れる男になった自分を見つけた。














 (2005.6.23) 空

 ※ 男の本音ってどういうものでしょうかね。


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