監獄ノスタルジア (8) SIDE Mwu
「おお〜っす!ボウズ2号!生きてるかぁ〜?」
「うるせ〜っつ〜の!オレはディアッカ!」
ボウズ2号って誰のコトだよ!それ!
手をヒラヒラ振りながらこっちに向かって来るのは金髪のエロオヤジ。
確か・・・モウだかムウだったか・・・そんな名前。
「ごめんなあ〜!まだ嬢ちゃんこれないんだわぁ!ここ2、3日で復帰するとは思うんだけどなあ・・・」
「あ〜ミリアリア?そりゃまだ動けね〜だろ!かなり重症なんだぜ?アイツ」
頭を掻きながら済まなそうに話すとこなんざ、ホントおっさん臭いよなコイツ。
彼女が倒れてから5日たった。
その間、この独房へは交代で食事を運んでくるが、野郎ばっかでむさ苦しい・・・。男はパスだパス!。
ナチュラルのかわいコちゃんいね〜のかって言いたいところだが、
今、この艦にいる女は艦長とミリアリアの2人だけだと最近知った。
艦長っつ〜のは、顔はよく憶えてないが、胸だけはホルスタインばりの爆乳だった(推定Hカップ)!
ミリアリアは・・・まあナチュラルにしてはまずまずの可愛いオンナのコなんだが、無理がたたって倒れてしまった。
もともとあまり丈夫じゃないんだとは思うけどな・・・。
けれど、彼女がオレの生命線。
なんせ、独房に囚われの身のオレがこうして人並みの生活(?)を送れるのは、
みんなミリアリアのお陰だし、話相手も相談にも(イヤイヤだが)のってくれる。
はやく回復してくれないと正直困る。
「おお!そうそう!『お約束の性少年の友』持ってきてやったぞ〜!」
鉄格子のすき間から差し入れられたのは俗にいうエロ本だけど・・・なんなんだよこの数は(汗)
次から次へと入れるわ入れるわ20冊はあるか?・・・いやホントエロおやじだこいつ。
「こんなにたくさんいくらオレでも必要ないぜ・・・」
2〜3冊だけ受け取り、あとの残りは突き返した。
「そうだよなあ・・・おまえさんオンナには不自由してなさそうだもんなあっていうか、向こうから寄って来るんじゃないの!
10年前の俺を見てるようだね!モテるんでしょう?実際」
ニヤけた顔をしてよく言えるコト。
「は〜い・・・モテマスヨ〜!もうしつこいくらい寄って来ますって・・・!どうでもイイけどさぁそんなオンナ」
寄って来るオンナなんて興味ないのオレは。もっとも、追いかけてもすぐ飽きるんだけど。
ちょっとゲンナリした顔でオレは呟いた。
「それにしちゃ〜・・・あのお嬢ちゃんにはずい分ご執心なんじゃないの?」
更にニヤけたエロ顔でおっさんが言う。
おっさんの言葉にオレは笑って・・・つい答えてしまった。
「おもしろいの」
「え・・・?」
「あいつ。ミリアリア」
オレは大声で笑ってしまった。だっておもしろいんだもん〜♪
「くるくる表情が変わるんだぜ〜怒ったり、しょげたり、青ざめたり・・・。あんなオンナ、オレ初めて見たわ」
かわいい顔してるのになんであんなにプリプリしてるんだか。
だが、それを聞いたおっさんはちょっと辛そうな顔をした。
「そんな顔はおまえさんにしか見せないだろうねえ・・・俺達に見せるのは、必死に繕った笑顔だもんなあ・・・」
───ああ。そうだった・・・ミリアリアは恋人を亡くしたばかりで・・・泣いていた彼女を、知らぬ事とはいえ酷く傷つけたのはオレだ。
その結果オレは彼女にナイフで刺されそうになって・・・
オマケに、他の女に銃で撃たれそうになって・・・
でも───最後はオレを庇ってくれた。
傷ついた心を抱いて必死に生きようとしているミリアリア・・・。
恋人の仇のコーディネイターであるオレのことですら心配して世話をやいて。
「おい、どうしたんだ?腹でも痛いのか?」
その声で我に返る。
「そんなんじゃね〜よ!」
「そうか?飯、冷めちまってるから腹こわしたかと思ったよ」
そういえば・・・ミリアリアの運んでくる食事はいつも温かかった。
「なあおっさん・・・ミリアリアっていつ食事してたんだろうな・・・オレの所に持って来るトレイはいつも温かかったけどな・・・。
もしかしたら自分の分は後回しだったのか・・・?」
「さあ・・・どうだったのかは俺にはわからないけれどな・・・。ただ他の連中にいろいろ心配されると、決まって
あのバカのところに行かなきゃいけないから、また後でとは言ってたよなぁ」
おっさんには思い当たるフシがあるようだ。
「なあ・・・。お嬢ちゃんが戻って来たら慰めてやってくれよな。多分・・・あの娘はおまえさんといる時が一番安心出来るんだと思うからな」
オレは返事をしなかった。
───ムウの独白
眼の前にいるザフトの捕虜はコーディネイターの中でも最高峰のレベルなのだろう。
その容姿は褐色の肌に金髪、,紫の瞳だなんて・・・普通じゃ有り得ない配色だ。
キラも実に綺麗な顔立ちではあるが、
男の色気というか華というのか、そういった妖艶さではとてもこいつに敵わない。
こいつと一緒にいると、大抵の女はすぐにその気になるだろう。自分から言い寄ってくる女など・・・
適当に弄んでサヨナラ〜っていうのが日常だったのではないのかなぁ。
そんな奴が、あのお嬢ちゃんに興味をもったっていうのはどういう事なのだろう。
お嬢ちゃんは確かに可愛い顔立ちだが、こいつが接してきた女はコーディネイターばかりだろう?
悪いが、お嬢ちゃんレベルなんてアソビの対象にすらならないんじゃないかと思うよなぁ。
「おもしろい」って・・・いったいどう解釈すればいいのかねぇ・・・。
───「何?オレの顔になにか付いてる?」
おっと・・・こいつの顔に見惚れちまってたか・・・ホント綺麗だしなぁ。
「いや・・・俺、男には興味ないよ」 俺にはマリューがいるし。
「男に見つめられるのも嫌だぜ〜!オレ本当、どこにいても追っかけられててヒドかったし。」
こいつ男にも追われてたなんて・・・哀れな奴だ。
「ミリアリア元気になったらよこしてくれよな〜!あいつがいないと退屈だわホント。野郎の顔なんて見たくね〜っつ〜の!」
退屈ですか・・・。こいつの相手をするお嬢ちゃんも大変だ・・・。
「あんまりお嬢ちゃんいじめるなよ〜!おまえさぁ・・・好きな女の子をつい苛めてからかうガキみたいだぞ」
「好き・・・ねえ。ちょっとそれは違うわオレ」
「なんでだよ。好きだから、からかいたいんじゃないの?おまえさん」
「そういうのってオレよくワカンねーんだわ実際。女なんて普通寄ってくるもんじゃんよ?」
「いや・・・それはおまえだけだろうきっと」
そんなシアワセな奴いないって普通。
もしかすると・・・こいつは今まで本気で誰かを好きになったことなんてなかったのかもしれない。
・・・こいつが、いつか、本気で誰かに恋したら・・・?
欲しいものは皆、その手に収めて来た筈だ。
・・・きっと、どんな手段を使っても相手のすべてを手に入れようとするだろう・・・。
───何考えているんだ俺は。
こいつはいずれ、ザフトに帰す捕虜ではないか・・・
こいつが本気で恋する姿なんて俺には関係ない事だよなぁ。
ムウは自分の考えが可笑しくて笑い出してしまった。