監獄ノスタルジア (6) 

SIDE Miriallia

「とっとと食べちゃってくれない?」

私の機嫌はとことん悪い。それはミンナ目の前のオトコのせいだ。
だいたい捕虜のくせに態度デカ過ぎ!いったい何様のつもりなのよ。

「え〜、だってミリアリアまだ来たばかりじゃない?誰も様子なんか見にこないから大丈夫だって」

「そんなコト心配してないわよ。ただアタシが戻りたいだけよ」

「そんなのオレの知ったこっちゃないね!それにここでのデートはオレ達2人のだけの秘め事でしょ〜」

「アタシはアンタに脅されてこうして毎日食事を届けてるだ・け!」

「ところでさぁ?ディアッカって呼んでくれないの?これも2人で交わしたカタイ約束じゃない」

「アンタで十分!」 本当にもういいかげんにして欲しいわよね。






ほんとコイツは捕虜とは名ばかり。
だいたい鉄格子のロックを開けて自由に動き回れる捕虜なんて聞いたことがない。
食事を運ぶ度に、「オレはいつここから出られるんだ!」とか、うざったく話しかけてくるので、
冗談で「アンタ、コーディネイターならここのロック開けてみなさいよ!」とからかったのがいけなかった。

なんとコイツはロックを解除してしまったのだ!
脱走を示唆する罪は大変重いのだという。
それ以来、気が動転してたとはいえ、私はコイツのいいなりだ。
それとなく艦長に、拘禁室にはモニターが付いていないのか聞いてみたけれど、きちんと作動しているとのこと。
コイツはそのあたりも上手く手を加えたらしい。

コイツ・・・目の前のオトコはディアッカという。
コーディネイターの中でも大変優秀なのだそうだ。
確かにそうかも知れない。
顔立ちや身体つきだけを見てもそれは十分理解できるから。

小麦色の艶のある肌、金色のくせ毛、彫刻を思わせる整った鼻筋、凛とした口元。
細く長い、それでいてしなやかな筋肉の付いた手足にどこもかしこもムダがない身体つき。
何よりも美しいのは・・・スミレともラベンダーともとれる淡い紫の瞳。
まあ、世の中紫色の瞳の人間は多いがこれ程絶妙なバランスの色合いはそうそうないと思う。
声もきれいだ。艶かしい大人びたテノールで、「ミリアリア」などと囁かれるとドキッとしてしまう。
加えて・・・ロックを解除したあの頭脳・・・・自分と同じ人間かと思うと、みじめで泣きたくなる。
プラントにいた頃はきっと凄くモテていたんだろうなあ・・・。

そんなオトコにいい様に毎日からかわれているのだ。
きっと、いつも綺麗な女性を侍らせていたであろうコイツも、ここAAではさすがにそうもいかなくて。

『まあ〜しょ〜がないからぁ〜このオンナで我慢すっかぁ〜』

みたいな心境なんだろう。
こんなヤツの相手など、まともにする必要はない。






「なあミリアリア」

「・・・なによ」

「オマエちゃんとメシ食ってんのかよ」 

ディアッカの意外な言葉にちょっと驚く。

「それに〜!眠れているのかよ!顔色がマトモじゃね〜ぞ・・・!」

ディアッカは気が付いたのだろうか?私がほとんど食べる事も・・・眠る事もできないのだと・・・。

「余計なお世話よ!ほっといてよ!」
 
勢いよくアタシは立ち上がった。こんな所に長居は無用だ。

「もう・・・行くから」

・・・・歩きだそうとして・・・だが・・・急に目の前が真っ暗になる。

意識を失いかけて強い腕に抱き止められた。

「やっぱりね・・・いつからだよ!」

ディアッカの肩に顎を乗せられ、そのまま上体を強く抱かれる。
そして、ゆっくりと床に座り込むと、ディアッカは私の頭を抱え込み、自分の胸に押し付けた。

「身体をオレにあずけて・・・力を抜いて。そう そのまま倒れ込んでいいから」

ひんやりとしたディアッカの体温が心地良かった。もしかして発熱していたのかも知れない。

私はディアッカの心臓の音を聞きながら、急速に意識が薄れていくのを感じていた。










「───おい、ミリアリア?!」 

ディアッカは慌てた。腕の中でミリアリアは意識を無くしていた。

(・・・疲れているんだろうな・・・)

脱力しきったミリアリアの身体を胸から下ろし、膝を立て左の腕で支える。
右の掌をミリアリアの額に当てると、異様な程熱かった。

ディアッカはそのまま少し考え込んでいたが・・・

(・・・仕方ないか・・・)

不本意だが、ミリアリアを床に下ろし、周囲のものを片付けてから再び鉄格子の中に戻ると、
おもむろに緊急インターホンのスイッチを押した。

「・・・悪い・・・誰か手の空いてる奴いない?ミリアリアが倒れたんだけど・・・連れに来てくれない?」

すぐ行くとの返事が来て通信は切れた。

やがて二人の男が入ってきた。ひとりは金髪で長身。一目で軍人だと解る風貌。
だが───もうひとりの男・・・いや少年は、優しい顔立ちをしたおよそ軍人らしくないあどけなさを残していた。

「ミリィ・・・!」

少年が駆け寄り、金髪の男がそっとミリアリアを抱きあげる。

「過労だと思うけどな・・・」

鉄格子の中からディアッカが声をかけた。

その声に二人の男は顔を見合わせ、溜息をつく。 

「・・・・・・?何、どうかしたのかよ?」

二人の困った様子にディアッカが尋ねると。

「ああ・・・実はセンセイ今ここにいなくてな」

「え・・・なんでだよ?」

ディアッカは声を荒くする。

「この間の戦闘で、ケガ人が多く出てなぁ・・・センセイもケガしちまったんだよ。ま、入院してるんだなこれが」

そういえば少し前にアラスカで激しい戦闘があったことをディアッカは思い出していた。

「はあぁ〜なんだそりゃ・・・まあ、確かに医者も人間だけどさあ〜」

ちょっとおどけてポーズをする。

「だったら、オレがなんとかしてやってもいいぜ?」

ディアッカはそう言ってニヤリと笑った。

「何言ってんだよオマエ・・・捕虜だろうが」

金髪の男があきれた声を出す。

「まあ、そう言わずに投降した時渡したIDカードあるだろ?、あれちょっと照会してみろよ」

ディアッカの言葉に首を傾げながらも、まあ、それ程言うのならモノは試しだと言わんばかりに

「───じゃキラ、悪いけどメインコンピューターにアクセスして繋いでもらってくれないか」と指示を出した。

キラと呼ばれた少年は頷いて端末のキーを叩き始めた。

(・・・速い!)ディアッカはキラに驚きの目を向ける。

「出ましたよムウさん・・・」

    ディアッカ=エルスマン 17歳 CE54・3・29 プラント フェブラリウス市生まれ。・・・

「フェブラリウス市って・・・あそこは医療、生化学のプラントだ。エルスマンってのは確かプラント最高評議会議員で、しかも
医局のトップに立つ現市長・・・・・って!オマエもしかしてそこの息子なのか?」

「大正解・・・最高評議会議員兼市長のタッド=エルスマンはオレの父親」
のんびりした口調でディアッカは答えた。

更に・・・キラの端末には薬剤取扱い特Aライセンス所持。医療資格第3段階研修合格。の文字が続く・・・。

「・・・・・・つまりさぁ、オレこれでもプラントじゃ特Aランクの医者のタマゴってコト」
地球じゃ開業医だぜ?クククとディアッカが笑っている。

(・・・こいつが医者かよ・・・)

世も末だとムウは思った。

「とにかく艦長に聞いてみるから」 

ムウは艦橋に連絡をいれると、手が足りないせいか、あっさりと許可が降りた。

ディアッカを独房から出してやる。


(・・・あれ・・・?)すれ違いざま、キラが怪訝そうな顔をディアッカに向けた。



「拘束を解くわけにはいかねえんだろ?ミリアリアはオレが抱いていくから腰紐はアンタが掴んでいろよ。
キラ・・・っていったか?オマエが銃を突きつけていれば大丈夫だろ?」

ディアッカはそっとミリアリアを抱きかかえた。
そして心配そうな眼差しでミリアリアを見つめながら

「コイツは無理し過ぎなんだよ!こんなに痩せちまってホント軍人なんてやってる場合じゃないっつ〜の」

そう呟いてスタスタと歩き出した。

乱暴な言葉に見え隠れするディアッカの以外な優しさにムウとキラは好感を持った。

医務室に入り、ミリアリアをベッドに寝かしつけてからカルテを探す。

ディアッカはこの場所でミリアリアに刃物を向けられた記憶を思い起こしていた。

(私・・・違う・・・!)

ミリアリアが叫んだ言葉・・・。

何が違うというのかディアッカには未だにそれが解らない。

(いつか聞いてみたいんだけどね・・・) 怖くて聞けない気もするけれど・・・とひとり苦笑するディアッカである。

「ミリアリア=ハウ・・・CE55・2・17生まれ 国籍オーブ連邦首長国 血液型AB・・・これだな」

カルテを見つけて記述を探る。身長159cm、体重39kg・・・39!って死ぬぞ・・・!これでは痩せすぎだ。

トールの死はこんなにもミリアリアを憔悴させたのだ。AAに乗艦した当時は52kgあった体重が13kgも減っている。

キラもムウもその事実に愕然とさせられる。普段無理にでも元気に振舞うミリアリアを思い浮かべていた。

「39度か・・・かなり熱も高いな」

ディアッカのテキパキとした処置にムウもキラも感心する。

(・・・ごめんミリアリア・・・あとで怒るなよ)

ディアッカはミリアリアの軍服に手をかけた。
下着のホックをはずしアンダーシャツの裾から聴診器を当てる。
当然ミリアリアの胸にも手が触れることになる・・・ってこれじゃただの変態!相手は病人。

一通り診察して、ディアッカは溜息をつく。

「マズイな・・・・・・おそらく精神的なものから来る自律神経失調症だろうけど・・・かなり重いな。
原因はアレだろ?劇的な環境の変化にトールって奴の死・・・他にも色々ありそうだけどな」

「コイツには昼も夜もないんだよ。交感神経がバカになっちまってるんだ・・・
コーディネイターじゃないけど、何日も寝ないで動けてしまう・・・つ〜か動かずにはいられないのさ。
疲れていても・・・身体が休まることはないからそのまま体力消耗して倒れるまで動き続けることも多いんだ」

ディアッカは薬品棚からいくつかの薬品を取り出すと、物凄い速さでパソコンのキーを叩き出した。
綿密な計算のもとに薬品の調合を済ませると、それらをカプセルに移し込んだ。

「ミリアリア・・・っと、このままじゃ薬は飲めないな」

ディアッカは意識のないミリアリアを抱き起こし、頬をペチペチと軽く叩く。

うっすら意識を取り戻したミリアリアに、ディアッカは「ゴメン」ひとことかけてから
自分の口に含んだカプセルを水と共に口移しで飲ませる。・・・ミリアリアの喉がゴクリと鳴るのが解った。

傍からみていると・・・熱烈なディープキスをかわす恋人同士にしか見えない。

ディアッカはミリアリアを抱いて口付けしたまま離そうとしない。舌を絡めて更に刺激を加える有様。

(おいおいおいおい!なんなんだこのエロガキは!)

ムウははひとり興奮状態。キラは反対に無言絶句。

───オマエ・・・もういいかげんにしろよ!さすがにムウはディアッカの肩を強く引いた。

残念・・・と、おどけて呟くディアッカだが、その表情は硬かった。

「今は交感神経と副交感神経の波状バランスが悪すぎて、眠った状態になれないんだよ。
とにかく・・・神経を休ませて、一度深い眠りにつかせないと、この先の治療が出来ないな・・・」

オレのキスに反応しない位深く眠らせないとね・・・。そう言うディアッカから艶かしい色気が漂う。

(コイツ・・・相当アソビ慣れてるな・・・)

──自分のことは棚上げするムウであった。

「さて───そろそろ薬が効いて来る頃だけど、このまま半日は眠り続ける筈だ。
栄養点滴を2本処方するから、終ったら外しちゃってくれる?後は静かに寝かせておいてくれればいいよ」

ディアッカはミリアリアの頬にキスをして立ち上がる。そして名残惜しそうな顔で医務室を後にした。









「ありがとな・・・オマエが居てくれてホント助かったわ・・・」

ムウに安堵の色が浮ぶ。 

「捕虜に言うコトバじゃねぇっつ〜の」

まったく何言ってるんだかホントにノンキな艦だとディアッカは思う。

「あとで差し入れ持って行ってやるから何かリクエストはないか?」

「そいつはありがたいね。じゃ毛布をもう一枚と・・・アレ。性少年のオトモダチ・・・ナンテうれしいケド?」

「そんなの見たら鼻血止まらなくなるぞ〜!もう2ヶ月近くオンナッ気ないんだろ?オマエさん」

「そうでもないぜ?ミリアリアが来てたからね。なんだかんだ言ってもよく世話してくれてたし」

(そうか・・・)ムウは、文句をいいながらも、あれこれディアッカの心配をしていたミリアリアを思い出す。

「ま、良くなったらまたミリアリア寄こしてくれよな〜!オトコの運んできた飯なんか超マズいからよぉ!」

「毒でも盛っといてやるよ!」

ムウが笑いながらディアッカの肩を叩く。

「・・・げ」 

そうこぼしてディアッカもニヤリと笑った。












(2004・11・7) 空  ※(2005・4・3 改稿)

※・・・完全なる捏造&妄想の産物。
     薬品取り扱いA級云々なんて・・・・そんな資格プラントにはアリマセンから〜っ!残念!


  
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