ディアッカは自室に戻ると、ベッドにミリアリアをそっと降ろして着ている軍服の襟を緩め、ブーツを脱がせる。
もう気が付く頃だとクルーゼは言っていたが、まだ目覚める様子もない。
動かないままに、その顔を今度こそ落ち着いて見てみるとやはり決して美人ではないが、リスや子猫のような愛くるしさを感じさせた。

(ずい分赤い顔をしてるな・・・)

ミリアリアの額に浮かぶ汗を拭って、その頬に触れてみた。・・・熱い。
軍服のジッパーを下ろして体温を計ると既に39度もあってディアッカを驚かせた。
自分はコーディネイターで発熱の経験など皆無に等しく、この状態がどういう事かはよく解らないが、それでも呼吸が荒いからにはきっと苦しいのだろうと思う。

(仕方ないな・・・)

ディアッカはインターホンで医療衛生班員を自室に呼び寄せ事の詳細を説明する。
医療班員は慣れた手つきで診察と処置を済ませるとおもむろに告げた。
「ああ・・・過労から来る発熱ですね。無理が重なってかなり体力が落ちているんですよ。暫く安静にしておいたほうが良さそうですね」
手際よく薬品を処方すると、コーディネイター向けの分量では強すぎるかもしれないと言って、小さなカプセルに移した薬をディアッカに手渡した。
「意識が戻ったら飲ませてください。1日1回1カプセルでいいでしょう」
それだけ言うと、医療班員は敬礼し、足早にディアッカの脇を通り過ぎる。ドアを閉める時にチラリと興味深い視線を投げニヤリと笑ったのをディアッカは見逃さなかった。


ミリアリアの呼吸はまだ少し荒い。


こんな容態でガチガチにあつらえた軍服なんぞを着ていたら身体に悪いだろう。
ディアッカは(当然下心も手伝って)ミリアリアの軍服を上から下まで総て剥ぎ取った。
ブラを外すと小ぶりだが形のよい乳房が露になって彼を悦ばせる。さすがにショーツまでは脱がせられなかったが、当面ほこれでいいと思うのだった。

(おいおい・・・オンナ相手に腹パンチかよ・・・)
ミリアリアの鳩尾のあたりに拳大のアザがあり、クルーゼの人格的な冷たさが窺えた。
発熱している身体をこのままにもしておけず、ディアッカは傍らにあったナイトガウンをミリアリアに着せて再びベットに横たえる。
男物のガウンに包まれたミリアリアがとても華奢に感じられてディアッカはその口元に笑みを浮かべた。

今日からこの少女は自分のものになるのだ。夜のお相手をさせてもいいとのお墨付きまで貰ったのだから、誰彼憚ることもない。
まあ夜の情熱のお相手はまだ先に譲るとしても、さして広くもない自室にはセミダブルのベッドがひとつしかないので、抱いて寝る事実は変わらない。

(オレだけの慰み者・・・)

淫猥な言葉が心地よく響く。ディアッカはクルーゼ隊きっての女好きで通っているから、こんな状況を心の底から楽しんでいた。

それにしても・・・そろそろ目覚めてもいい筈だ。ディアッカは軽く舌打ちをする。

(余程具合が悪いのか・・・?)

思い余ったディアッカはミリアリアの頬をペチペチと軽く叩いた。
なにしろ動かない女なんか抱いたところでちっとも面白くないうえに、そこまでやっては獣と同じだ。

「・・・ん・・・」

頬を叩かれたミリアリアが大きく身じろぎをした。

ディアッカは思わず身を乗り出してミリアリアの顔を凝視すると、その瞳が開かれてゆくのをただじっと見守っている。

・・・そんな中でミリアリアはゆっくりと眼を開いていった。

(あ・・・)

ディアッカはその見開かれた瞳を覗き込み、そして・・・そのまま言葉を失った。



(オーブの蒼い海・・・)



ミリアリアの大きな瞳がディアッカには南のオーブの柔らかい蒼い海の様に見えた・・・。












熱をもつ氷(2)










「ここは・・・どこ?」

華奢な身体つきに相応しいやさしいミリアリアの声にディアッカの態度も自然柔らかいものになる。
ベッドの端に腰掛けたディアッカは自分の手のひらをミリアリアの頬に添えると、普段の彼からでは想像も出来ないくらい静かな声で、「ここはZAFTの潜水母艦クストーストの内部だよ」と告げる。

「ZAFTの潜水母艦・・・?クストースト?」

ミリアリアにはまだ自分の置かれている状況が理解できていないが、それでも眼の前にいる男がコーディネイターで、ZAFTの軍人であることだけは容易に判った。
浅黒い滑らかな肌に少しクセのある金髪。長い睫に縁取られた宝玉の様な紫の瞳と艶のある美しい声・・・。

(凄い綺麗な男のひとだわ・・・)

至近距離にあるその顔にしばし見惚れていると、今度は男のほうから質問される。

「オレはZAFT、クルーゼ隊所属のディアッカ・エルスマン。MSパイロットさ。おまえらナチュラルが作り上げた『バスター』に乗っているんだけれどどうだ?見たことはあるか?」

「バスターのパイロット・・・」

バスターと聞いてミリアリアの顔が暗く沈んだ。知っているも何も散々煮え湯を飲まされた相手ではないか。

「・・・?どうかしたのか?」

ミリアリアの顔色を窺ってディアッカは更に穏やかな声を投げかけた。

「・・・・・・」ミリアリアは俯いてしまった。だが、ディアッカは別段深く気にも留めない。

「ああ・・・そういえばまだおまえの名前を聞いてなかったな。名前なんていうの?」

屈託無く返される笑顔にミリアリアも少しだけ緊張感から解放される。

「ミリアリア・・・。ミリアリア・ハウと言います」

それだけを答えるとミリアリアは俯いていた顔を上げた。

「わたしは・・・これからどうなるのですか・・・?」

不安の色は隠しようも無いが、それでもミリアリアは悪びれずにディアッカに視線を向ける。
その言葉に対し、ディアッカはさも面白そうに方頬でクククと笑った。



「そうねえ・・・はっきり言っちまうとさ?おまえはZAFTの捕虜になったんだよね。でもさあ、ウチの隊長・・・憶えてる?こ〜んな仮面を着けた金髪のおっさんがさあ・・・『この子はまだ年端もいかぬ少女だから収容所に容れるのは忍びない』ってほざいてね?オレに預けたってわけよ。おかしな話だと思わない?だったら最初から連れてこなけりゃいいのにって思うけれどねえ」

そう言うと両腕を肩の位置にまで挙げてディアッカは『しょ〜もない』とでも言いたげなポーズを取った。

「でもさあ?確かにおまえみたいなオンナノコを収容所になんか放り込んだらその場で『不特定多数』の男のオモチャにされちまうよなきっと。夜も寝かせてもらえないくらいヤラレまくりてボロボロになっちゃうんじゃない?」

「だからオレんとこに預けられたってのはある意味すっごく運がいいって思うのよね?だって・・・おまえは不特定多数の相手をしなくて済むんだしさ・・・」

ディアッカはミリアリアの至近にまでその端整な顔を近づけると耳元でそっと囁いた・・・。

「『これから・・・どうなるのですか・・・?』ってことだけどさ。つまりはこういうこと・・・」

いきなり力任せにミリアリアを抱き寄せるとディアッカはその唇を塞ぎこんだ。
あまりにも突然の行動だったため、ミリアリアの反応が遅れるも必死でディアッカの腕から逃れようとその身を捩る。
だが、抵抗と呼ぶにはあまりにもささやかで、ディアッカは更に力を込めた。

(こいつ・・・すげぇ柔らかい・・・)

コーディネイターの女の・・・どこもかしこも無駄のない身体しか抱いたことがなかったディアッカは、ミリアリアの適度に脂肪がついた身体の柔らかさに驚きを隠せない。

そっと唇を外すとミリアリアの泣き顔が飛び込んでくる。涙で濡れた蒼い瞳がことのほか綺麗だとディアッカは思う。
だが、そんな思いを打ち消すかのように語尾を強める。

「可哀そうだとは思うんだけどさ・・・これも運だと諦めてくれない?」

口から出た言葉は思った事とは正反対の冷たいセリフ。

「おまえ・・・ああミリアリアっていうんだよな?今日からおまえはオレの自由にしていいんだってさ。ま、自殺しようなんて素振りを見せたら速攻縛りあげるからね。いいか?」

ミリアリアは答えない。

「なあ・・・!解ったら返事くらいしてくれてもいいんじゃないの?」

「・・・・・・」

「聞いてるのかよっ!」

ディアッカはミリアリアの腕を掴むと強く握り締めた。
ミシ・・・という骨が軋むような音が聞こえてきそうなほどに。

眼の前の少女は自分に怯えているのだ。
ディアッカは苛立ちを抑えられない。




「返事くらいしろよっ!」




ミリアリアの蒼い瞳が恐怖に打ち震えている。

「どうしてそんな顔をするんだよっ!そんなにオレが怖いのかよっ!」

ディアッカはミリアリアの身体を強く揺さぶった・・・。





「どうして・・・返事をしないんだ・・・」





ディアッカは怒りを募らせる。





だが・・・その怒りはいったい『何』に向けられているのか・・・。














───ディアッカには解らなかった・・・。













 (2005.11.2) 空

 ※続編をお届けいたします。
   ここから『D』さんには鬼畜になって頂きますが・・・妙に純なのは『フラリグ』と同じかも。


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