これ以上はないくらい狡猾な笑みを浮かべながら、ディアッカはミリアリアの頬を両手で挟んだ。

ミリアリアは何も言えない。ただ身体を強張らせるばかりだ。

「じゃあ・・・オレの質問に答えてくれる?」

「おまえは本当にオレが嫌い?」

ミリアリアからの返事はない。

そんなミリアリアの様子にディアッカが大きく溜息を吐いた。

唇を噛み締めてミリアリアは俯こうとするが、頬にあるディアッカの両手がそれを阻む。

ミリアリアの閉じられた眼から涙が滲んでいる。

( おまえ・・・ ほんとはオレのコト好きだよね・・・オレの枕抱いて泣くくらいだもんな・・・)

頬を伝う涙の筋が増えていくのは返事をしたも同然だ。

「じゃあ・・・そういう事だから抱きつくのは枕じゃなくて、今日からこっちにしてくれると嬉しいね?」

ディアッカはそう言い終える前に、ミリアリアを深く強く・・・自分の胸に抱き込んでいた。



そのままディアッカは話を続ける。

     ねえミリアリア・・・オレはもう自分をごまかすのはやめた。
     いつどうなるか分からない戦況だから。
     だからトールにも遠慮はしない。
     オレは・・・おまえが好きだから。
     おまえがトールを忘れることができないなら・・・。
     その心ごとおまえをもらうことにするよ。
     だからミリアリア・・・オレの傍にいて。
     しょうがないじゃん?そんなおまえが好きなんだから。


     だめ!ディアッカ・・・
     だって・・・ディアッカには恋かもしれないけれど・・・私は違う。
     あんたのこと好きだけど・・・でもきっと恋じゃないわ。
     私を大切にしてくれているとわかっているけれど・・・。
     もうあんたのこと辛い目に合わせたくないわ。
     こんな中途半端な心のままで。
     そんな都合のいいこと出来る訳ないじゃない・・・。
    

     ああ・・・やっぱりそう云うよなぁ・・・。
     おまえの心のコアはトールの奴が占めていて、
     きっと出て行ってくれないだろうから、オレはもうひとつコアを作ることにするんだ。
     でね・・・そのコアを大きく育ててオレだけで占めるのさ。
     いい考えだと思わない?
     おまえの心のコア2号・・・オレと一緒に作って育ててくれる?
     育つのずっと待ってるからさぁ。
     そうしたらオレのことだけ見て。
     わかったらYESって云ってよね?ミリアリア。

     あ・・・YESって云ってくれないとどんな手段使ってもYESと云わせるから覚悟しろよ・・・!  

     あんた・・・それ脅迫じゃない!

     なんとでも。じゃ決まりだね!

     ディアッカ!
 
     じゃなくてYESだろ?

     ・・・・・・・・・・・・

     YESだって。OK?






「・・・・・・」

「聞こえな〜い!もっと大きな声でお願い〜!」

「あたしが返事なんかしなくたってどうせあんたは放してくれないんでしょっ?!」

「当然じゃん?それじゃ合意ということで今からコアを育てる準備始めようぜ〜!」

「コアを育てる準備って・・・?」

それはね・・・といきなり『お姫様抱っこ』をされ、ディアッカの顔がミリアリアの至近に迫る。
淡い紫の瞳が煌き、金色の前髪が額にかかる。
そっと頬にひとつキスを落とされ、耳元で囁かれるしっとりとした声が紡いだ言葉は・・・

「合意に基づいた既成事実・・・手加減無しの待った無し!!!」

ディアッカの言葉の意味を正確に悟ってミリアリアの顔は苺の様に真っ赤になる。

「な・・・!あんたいくらなんでも結論出すの早すぎよっ!もう!降ろしてよ!」
ジタバタするミリアリアをよそに、澄ました顔でディアッカはニンマリと笑って。

「先手必勝!善は急げ!思い立ったが吉日!」

「あんたもうサイテー!」

ミリアリアの狼狽なんてなんのその。

ここで押し切らないと彼女はまた逃げ出すに決まっている。とりあえず、ま、想いは通じたという事にして・・・。

ディアッカは監視カメラに向かってウインクをした。






AAの中はもう大騒ぎ・・・至る所で歓声の嵐が沸き起こる。

え?どうしてかって?それは先程ディアッカがフラガとマリューにカメラ映像と音声をAA中に流すようにオネガイしちゃったからなので・・・。





「ディアッカ・・・あのエロガキ最初からこれ狙ってたんだろうな・・・!俺達は撮影班というわけかよ!」
「まあいいんじゃないかしら・・・これで嫌な噂もなくなるわよムウ・・・」




───なあ・・・ディアッカ。オマエさん本当に『超スペクタクルなグランドロマン』にしちまったなあ・・・。
     明日から大変だぜ・・・ま、それもいいよなあ!今度は意中の彼女とヒューヒューものなんだし。




そしてフラガはマリューと顔を見合わせて笑った───。







                                                       グランドロマン おまけ →



 (2004.12.7 ) (2005.6.13改稿) 空

※グランドロマン・・・波乱万丈な規模の大きいロマンスということですね。
  コーディネイターの超エリートとナチュラルの一般市民のロマンス・・・波乱万丈なドラマですよ!

 妄想駄文へ





結局・・・彼の云う事に対して私に選択の余地はないのだと痛感した。










グランドロマン     You Win









「ねえ・・・ディアッカ君。ミリアリアさんどこにいるのか、あなた解るの?」
「う〜ん・・・そうねえ展望室や倉庫だとこの時間じゃまだ目立つじゃない?あんな騒ぎの後じゃ尚更でしょ?」

ミリアリアの精神状態はこれ以上はないという程不安定だ。
あんな騒ぎのあった後だけに、早く見つけないとまた倒れるかも知れない。
無茶に無茶を重ねてきた身体は既に限界を超えている。それはディアッカにだって解っている事だ。
男に襲われかけたのだ。きっと今は誰にも会いたくないだろう。ひとりどこかに潜んでいる筈だ。

「でもひと気の無いところなんて他にあるのかねぇ・・・」
「本当よ。ムウの言うとおりだわ・・・あんな状態で1人にしておけないでしょう?どこにいるのかしら・・・」




「艦長・・・おっさん。実はミリアリアは多分ここにいるんだと思うんだよね・・・」




そう言ってディアッカが連れて来たのはなんと───独房だった。









───パシュウ・・・









「ミリアリア・・・そこにいるな?」

ディアッカが歩み寄った先は、かつて彼が拘禁されていた房の前だった。そして・・・。
やはりミリアリアはそこにいた。

ムウとマリューに耳打ちをして、ディアッカはミリアリアの前に立つ。

「あんたはどうしていつも私のいる所が解るのよ・・・」
「好きな女のいる場所位解らなくてどうするのさ・・・おまえオレの事バカにしていない?」

「なんでそんな嘘吐くの?あんたが私の事を好きだなんて誰も信じちゃくれないわよ・・・」
ミリアリアは鉄格子に寄りかかり、膝を抱えて座り込んでいる。
「別に信じてもらえなくてもいいんだよな。おまえだけが信じてくれればそれでOKなんだしさ?」
ディアッカはそう囁いてミリアリアの隣に腰を下ろした。

独房の入り口ではフラガとマリューが事の成り行きを見守っている。

「なあ・・・おまえ本当に信じてくれないの?オレ本気でおまえが好きなんだぜ?」
ディアッカはミリアリアの瞳を覗き込む様にして彼女に告げる。
「あんたもラットさんと同じよ。近くに手ごろな女がいないから私を好きだと思いこんでいるだけよ・・・」

「言ってくれるんやないの?」
ディアッカの口元がくくっと上がった。
「オレねえ・・・そんな思い込みだけでAAに残ったんじゃないぜ?だっておまえの傍にいたかったんだもの。
ザフトもプラントもそっちのけでだぜ?・・・まあ最初は恋なんてガラじゃないって思ってたんだけどね」
「あんたの言ってる事よくわかんないわよ・・・バカみたい!」
「まったく素直じゃないねおまえは!ちょっとお仕置きが必要だな・・・」
そう言ってディアッカはミリアリアを引き寄せると・・・有無を言わせずいきなり強引にキスをした。

痺れるような深いキス・・・ここからはもうディアッカの独壇場。
息の出来ないミリアリアはほんの少しだけ唇を開いた。入ってきたのは彼の舌。
絡め取られてミリアリアの意識は朦朧とする。落ちる寸前にようやくディアッカはミリアリアの唇を放した。

「ねえ・・・ミリアリア。おまえあの時オレの事呼んだだろう?」

「・・・!」

「士官部屋でオレに助けを求めただろう?ちゃんと聞こえたんだけどねぇ?」

「 ・・・・・・・ 」

「あんな一大事に嫌いな奴の名前なんて普通呼ばないよなあ〜」