たとえば・・・こんな恋愛こそ『グランドロマン』だと思わない?








グランドロマン       He is unpredictable.








「な〜フラガのおっさん・・・オレど〜すりゃいいんだよ・・・」
「どうすりゃいいかなんて俺にだって解らないさ!第一ディアッカ、オマエさんの問題だろう?」
「『ミリアリア』って・・・たったひと言声かけることが出来ないんだぜ?このオレがだぜ?」

なにしろワザとミリアリアにそっけない態度をとっていたディアッカだから、改めて話しかけるとなると・・・コレが結構難しい。

とにかくひどい噂が流れていた。
ディアッカと一緒にいるだけでミリアリアは噂の的にされてしまうので、彼は彼女のために少し距離をおくことにしたのだが、
噂が収まる筈も無く、ますますエスカレートばかり。

どのみち噂になるのなら・・・ミリアリアの傍にいた方がいいと思ったディアッカは、何とか彼女の傍に行きたいけれど・・・
うまくタイミングがつかめない。稀代の遊び人もこれじゃ・・・ただのヘタレ男ということか。

「スペクタクルなグランドロマンにするんだろ?こんなところでヘタれていたってどうにもならないぜ?」
そんなフラガの言葉にディアッカときたら。
「だってさあ・・・どうしていいかホントワカンネ〜んだもん・・・あんたこういうの得意そうじゃん?」
なんて初めから頼りにしているのだから呆れたものだ。

マトモな恋愛なんてしたことが無かったオトコなだけに、この現状はまさに修羅場というべきか。

(やっぱ17歳の青少年なんだよな・・・) 

こんな時、自分がエラく大人に思えてフラガはちょっと優越感に浸る。
















───あ、ディアッカ君・・・あなたミリアリアさん見かけなかった!?

通路の反対側からディアッカに声をかけたのは艦長のマリュー・ラミアス。

「あ・・・いやオレここんところミリアリアには会ってないんだけど・・・なにか?」

「それが・・・シフトの交代なのだけれどまだ、ブリッジに来ていないのよ・・・余程の事がない限り10分前には
来ているのにもう30分も遅れているからどうしたかと思って探しているのだけれど」

「お嬢ちゃんの自室とか医務室にはいなかったの?」

「ええ・・・展望室もデッキも食堂も・・・倉庫やリネンルームも探したのにどこにもいないのよ・・・」

具合が悪くて倒れていたら誰かが気付く筈だ。
それに・・・高熱を出してもミリアリアは業務をおろそかになどしない。艦長や、ディアッカに強制的に止められない限り。

「それと・・・実はもうひとりいなくなっているの。整備班のラット軍曹・・・こっちも整備班総出で探しているのよ」

それを聞いてムウの顔色が変わった。

「何だって!ラットっていったら・・・お嬢ちゃんにちょっかい出していた親玉じゃないか!」

「何だよ!どういう事なんだおっさん・・・!」

「前に言っただろ!お嬢ちゃんに言い寄っていたバカの筆頭がそいつだよ!奴とお嬢ちゃんがいないって事は・・・」

ミリアリア・・・・・・!

嫌な予感がする!早くしないと取り返しのつかない事になるのではないのか!

───PI! 艦長!一般居住区にもいませんぜ!後は士官居住区だけでさぁ!

「マードック曹長!そっちに急行してちょうだい!ムウとディアッカ君もすぐに向かわせるわ!」

事態は急変する。ムウのひと言でミリアリアに危機が迫っていると確信したディアッカは。

「艦長!後の責任はオレが取るから士官居住区のロックを全部解除にして!で、ブリッジに、再ロックの掛かった部屋の
番号を伝えてくれるように頼んでおいて!」

言い終える前にディアッカは走り出していた。その後にフラガが続く。

「おっさん!悪い!先に行く!」

フラガを残してディアッカは走る・・・いや、跳ぶというべきか!コーディネイターの脚力の凄さにフラガは驚嘆する。





───士官居住区にはまだ誰も到着していなかった。

「ディアッカ君!再度ロックの掛かった部屋は3つよ!A−3、 A−10、 Bー6 よ!」

「サンキュー艦長!ミリアリアがいたら、連絡するよ!」そう言ってディアッカは通信を切った。






───どこだ?とにかく順にドアを開けて・・・。





・・・ディアッカ・・・!




誰かが自分を呼んだ・・・コーディネイターの耳にやっと届く小さな声で・・・。




─B−6か!

ディアッカは部屋のドアを開ける。

そこで眼にしたのは・・・

男に組み伏せられたミリアリアの姿───。




それを見たディアッカの頭には一変に血が上る。

「なあ・・・あんたオレの彼女に何か用でもあるかのよ・・・」

ディアッカはラットの襟元を掴んで通路にたたき出した。

「ミリアリア!無事だな!よかった・・・」

ディアッカは心底安心してミリアリアを見つめた。
軍服に多少の乱れはあるが、大きなケガはしていないようだ。
ただし・・・余程激しく抵抗したのか、頬が少し腫れていた。殴られたのかもしれない。

「ディアッカ・・・」

しがみ付くミリアリアの背を抱くと、一気に彼女は脱力する。

通路から大勢の声が聞こえてきた。
ムウやマードックらが到着して、ラットに罵声を浴びせている。

「ディアッカ君・・・ミリアリアさんは・・・?」
マリューがおずおずと入ってきた。

「ああ・・・大丈夫。ちょっと頼んでもいい?」

ディアッカはミリアリアをマリューにあずけて、自ら通路へと歩みを向けた。

「随分な事してくれるじゃない?アンタそんなにミリアリアにご執心な訳?それにしてもやり過ぎだと思うけど?」
「うるさい!ハウに眼をつけたのは俺の方が先なんだ!なのにどうしてコーディネイターの男なんかに入れこむんだよ!
いつか捨てられるんだぜ?オモチャにされて飽きたらポイ!だぜ。それ位なら、俺のほうが余程優しくしてやれるってもんだろうが・・・!」
「誰が飽きるって・・・?悪いけどオレミリアリアの事これっぽちも飽きてなんかいないけどな・・・勝手に決め付けないでくれる?
それにねえ・・・からかっていじめた事はあっても弄んで泣かせた事はないと思っているんだけどね?」
「ケッ!信じられねえよな!散々ヤリまくってんだろ?どうだい?具合よかったかい!戦時中でもなけりゃあんなガキなんざどうだっていいが
アレしかいねえんだもんよなあ!オマエだってそうだろう?ナチュラルの女が珍しかっただけだろう?十分楽しんだから捨てたんだろう?」
「 ・・・・・・ 」
「それにその女も淫乱なのさ!可愛い顔して陰ではヤリまくっていたんだぜきっと。彼氏が死んで寂しくてよぉ!」


・・・この野郎っ・・・!

怒りのあまりディアッカがラットを殴りつけようとしたまさにその瞬間・・・




「だめ!!ディアッカっ!」身体をはって止めたのはミリアリアだった。



「どいてろ・・・ミリアリア・・・」
「だめよっこんな奴殴る価値も無いわ!」
「いいからどけっ」
「どかないわっ!ここであんたが手を出したら・・・AAにいられなくなってしまうのよっ!そうしたら・・・あんたどこに行くのよっ
プラントにも戻れないのよ。もう・・・どこもないじゃない・・・ディアッカ・・・」
ディアッカに縋り付いたミリアリアの瞳には大粒の涙が光っていた。




「・・・オレの居場所はAAじゃないよ・・・ミリアリア」
縋り付くミリアリアの肩と腰に手を廻してディアッカはそっと抱き込んだ。

「オレの居場所は最初からここ・・・。ミリアリアの傍」
「ディアッカ・・・あんた何バカな事言ってるの!」
「バカってねえ、それちょっとひどくない?まあとんでもない噂が流れていたけれどアレ、実は半分以上はホントの事だし」
「こんな時に冗談はやめてよ!」
「え・・・オレ本気だけど?」
「何が本気だっていうのよ・・・!」

「オレがAAに戻ってきたのはミリアリアを護りたかったからだもん。いいじゃない?」




「それにミリアリア・・・オレは本気でおまえが好きだぜ?」




ミリアリアの瞳がディアッカを射る。




「・・・私は・・・あんたなんて大っ嫌いよっ!」




そう言い放ってミリアリアはディアッカを突き飛ばし、彼の元から走り去った。




いつの間にかギャラリーが屯していた。
「エルスマンど〜するんだよ!ハウに逃げられたじゃんかよっ」
「え〜ダイジョウブだって。ちゃんと手ごたえあったから」

「それじゃ、オレミリアリア追いかけるから後の事はお任せしちゃうわ!」
そしてスタスタと歩き出し、ディアッカは士官居住区を後にした。

すれ違いざまにムウとマリューに目配せをする。
それは付いて来いとのディアッカのサイン。

「さあみんな!持ち場に戻ってちょうだい!マードック曹長!ラット軍曹を尋問室に拘禁しておくように!」









───そして誰もいなくなった。




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