I am The Editor  Part .2





「ちょっとっ!原稿はもう上がっているんでしょうねっ」

「うるせぇなあ!締め切りは明日だろうがっ。ほら、ちゃんと上がってるから心配するんじゃねえっつ〜の」

「どれどれ・・・ふむふむ・・・ま、こんなもんでしょう」

「ったく!いつも偉そうにしてるんだよな・・・おまえは」

「編集者だもん。偉いに決まってるじゃない?それにあんたは放っておくとすぐに女を連れ込むし、ちょっと散歩になんて言って1週間帰ってこなかったりで・・・次に捕まえるのが大変なのっ!わかる?」

「別にいいじゃない。要は締め切りに間に合えば問題ないんだから・・・」

「ま、原稿上がってるなら文句は言わないわよ。じゃ、ほらテーブル片付けてくれない?今日はビーフシチューにしたから食べたら早く休むのよ」


───オレはディアッカ。ディアッカ・エルスマン。

職業は作家。それもとびきり売れっ子の恋愛小説作家。年齢は27で未婚。収入も相応にあるうえに(自称)美青年なので、そこそこに女との交際歴もあるのだが、週1回の割合でやってくるこの女編集者のおかげで長続きしたためしがない。
誰にも言ってないが、これでもオレは某財閥の末息子で、あまりの豪遊ぶりが祟って生家を勘当された身だ。
食うに困った挙句、ほんの気まぐれで投稿したした小説がその筋の大賞を受賞し、それからオレは作家としてどうにか生計を立てられるようになったのではあるが、どうしたことか受賞以来ずっとオレをの担当をしているのがこの女である。売れっ子になったのだから美人の編集者に替えてくれとも言ったのだが、出版会社は「まあ、そのうち・・・」と言うばかりで一向に替えてくれる気配はない。どうやらずっとこの女で押し通すらしいとはオレの予想。
特に美人とでもいうわけではないのだが、不思議と印象に残る女でオレとの付き合いもかれこれ5、6年になろうとしている。
しかし殆ど毎週オレの世話をしに来るのだから彼氏なんかも多分いないのだろうと思う。
オレのことは根掘り葉掘り聞きたがるくせに、自分のこととなると寡黙になる女。茶色のハネっ毛に少しくすんだ蒼い眼の女。
名前をミリアリア・ハウというのだが、どういう訳だかオレはこいつを名前で呼んだ例がない。



「何よ。私の顔に何かついているとでもいうの?さっきからジロジロ眺め回してるけれどハッキリ言って不気味だから止めてくれない?」

ジロリと冷たい視線を向けて威嚇するなんて本当に可愛気の無い女だとは思うが、実のところオレはこいつのそんなところが結構気に入っている。こいつと居ると正直オレはとても気楽だ。

「はいはい。別におまえを眺めていた訳じゃないんだけれどさ・・・」

「じゃあ何だって言うのよ!」

「ああもうっ!そんな顔して怒らなくたっていいだろう?せっかく原稿上がったんだから!でさ?ものは相談なんだけれどおまえ来週の土曜日って暇?」

「来週の・・・土曜日・・・」

「そう4月17日。あの『ヘリオポリス』にオープンした海岸線沿いの『アークエンジェル』ってホテル。今度書く話の舞台にしようと思ってさ、まあ取材も兼ねて食事でもどう?美味しい3つ星のレストランがあるんだ。経費で落ちるからフルコースをご馳走しますけれど」

「・・・・・・」

「ん?どうしたんだよおまえ。黙りこくっちゃってさあ?」

「ごめんなさい。17日はどうしても外せない用事があるからヘリオポリスにはあんたひとりで行ってちょうだい・・・」

「どーしてさぁ?せっかくのフルコースだぜ!ひと月以上前から予約しておかないと入れない大人気のコースなんだから用事なんて先延ばししてもいいじゃない?」

「だからどうしても外せないって言ったでしょう!第一私なんか誘わなくたってあんたにはタリアだのナタルだのフレイだのって女が1ダースはいるじゃないの。誰か誘えば?」

「ったく本当に素っ気無い女だねおまえは・・・」

「もうこれで用事は済んだ?来週は私・・・来ないからあんたも久しぶりに羽を伸ばせるわよ」

「なんだよ・・・それ!」

「・・・じゃ、私帰るわね」

「あ、おい!ちょっと待てよ!ビーフシチュー食べていかないのかよ」

「あんたどうせろくなもの食べていないんでしょうから全部食べて構わないわよ」

「おい!」


───パタン。


そう言ってあいつは出て行ってしまった。
オレ・・・何かまずい事でも口にしたか?
臨海都市ヘリオポリスのホテルアークエンジェルといえば3つ星の超一流レストランを抱えている最高級のホテル。普通の女ならキャーキャー騒いで喜ぶのにどうしてまたこの女は・・・と思ってしまう。
だって・・・苦労したんだぜ?予約取るのって。
なんのかんの言ったって・・・誰よりもオレの心配をしてくれるのはあいつ。
他人の心配ばかりしてるくせに。自分の事は一番後回しにするくせに・・・。
たまにはオレにもいいカッコさせてくれよ・・・。
ほんの少しでいいから喜んだ顔が見たいんだよ。

着飾ったらきっと可愛いんじゃないかって・・・そう思うんだ。

はい。そーですよ。

オレはあいつに・・・ミリアリアに惚れているんだっつーの。

どーでもいい女なんか最高級のフルコースに誘わねぇよ!いい加減気付けよバカ女。

これまで書いてきた話はみ〜んな・・・おまえに喜んでもらおうと思って立てた計画書なんだって。
たまたまそれが大当たりしちまったっつーだけのことなんだよ。
オレは道楽三昧の勘当息子だけれど・・・おまえだけは特別なんだって・・・だから軽々しく扱いたくないんだって。

4月17日って何なんだよ!
そんな曇った表情をするから・・・気になって今晩眠れないだろう・・・?
綺麗な女は世の中有り余るほどいるさ。いるのは解かっているけれどさ・・・。

本当に上手くいかねぇよな。

自分の描いた物語の主人公はそろいも揃ってハッピーエンドなのに、自分の恋は思うようにいかないなんてバカみてぇ。





───今度こそきっと伝えられると思ったのに。

ずっと・・・一緒にいたいって言えると思ったのに・・・。




───なあ。ミリアリア・・・。



     オレじゃ・・・ダメか・・・?











     (2006.8.21) 空

     ※うたぎさん。大変お待たせ致しました。リクエストの「売れっ子作家のディアと担当編集のミリィ」
      恋愛小説を書いているディアッカなのですが、自分の事となると、小説のようには上手くいかず、
      担当編集のミリアリアさんにひたすら振られ続けている。と言った感じで。をお届けします。
      久しぶりに会話主体のお話にしてみたらこれが楽しい!という訳で短期連載にしちゃいましたですよ(笑)


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