なあ・・・ボウズ2号。オマエ最近元気ないんじゃないの?








スペクタクル     『 D 』 

自室に戻る途中でフラガのおっさんに捕まった。
いい酒があるからと強引に腕を引かれ、連れて行かれた先はエロ本だらけのおっさんの部屋。

「おっさん・・・艦長泊まりに来るんだろ?このエロ本ヤバくね〜の?」
ったくもう・・・あんな爆乳の相手してんのに。もしかしてヤラせてくれないとか・・・いや、そんな訳ないか。
ただ単にすけべおやじなんだろうけどヒドイもんだ。

オレのそんな問いかけに。
「マリューが来るときはマードックの所に持って行くから大丈夫だよ!」
なんてしゃあしゃあと言ってくれる。ま、そのうちバレるって・・・。

「ボーズ。そんなエロ本なんてどうでもいいから。で、ちょっと聞きたいんだが・・・」
「何?」 
おっさんは言い出し辛そうにオレに話をきり出した。
「その・・・なあ・・・ボウズ2号。オマエ最近元気ないんじゃないの?」
・・・その言葉にオレは正直なところドキッとした。そうだな。確かに落ち込んでいるかもな。
「で?原因はやっぱりあのお嬢ちゃんなのか?」
おっさんホントにいい読みだけど。
「なんでそう思う訳?オレの様子ってそんなにおかしいか?」
「おかしいから聞いてるの!最近一緒にいないだろう?前はあんなにくっついていたのに・・・何かあったのか?」

オレは溜息をひとつ吐き出して逆におっさんに尋ねた。
「なあおっさん。あんたなら知っているかな?オレとミリアリアって2人でいるとそんなに目立つのか?
もうムチャクチャな噂が立ってるけど?オレそんなに軽く・・・ていうか、アイツのことからかって弄んでいるように見える?」

「いや。そうでもないんだがなあ。ただ、オマエさんすごく妬まれているのは確かだな」

「へ・・・?妬まれているってどういうコトさ?」

「つまり・・・お嬢ちゃんの彼氏が死んだあと、その後釜を狙ってあれこれ口説いていた奴がかなりいたんだよ。なのにお嬢ちゃんはおまえのところに入り浸りだろ?だからやっかみ半分でコーディネイターの捕虜に誑かされたって噂が立ったんだよ」

はあ・・・なるほど。ミリアリアに相手にされなかったものだから『かわいさ余って憎さ百倍』って訳ね。
でも、恋人が死んだからって、すぐに他の男に乗り換えるなんてミリアリアには無理な話だよな。

「だけどなぁ・・・中には諦めの悪い奴もいて、お嬢ちゃんにベタベタ付き纏って交際を迫ったバカもいたのさ。
そいつがあまりにもしつこくて、仕方ないからお嬢ちゃんオマエさんの所に食事とか、着替えとか届けなきゃいけないんだと言って
逃げ回ってたんだよなあ」
その様子を思い出してか、おっさんの口調はウンザリといった感じだ。
「皮肉だけれど・・・お嬢ちゃんにとって1番心が安らぐ場所ってきっとオマエさんのいる独房だったんじゃないのかねぇ。
確かに、オマエさんもいろいろからかったりしたんだろうけれど、傷つける事はしなかっただろう?」

「それと・・・もうひとつ・・・」
「まだ・・・何かあるのか?おっさん」
とんでもない噂の発端は解ったが、おっさんの口ぶりだと、まだ何かありそうだ。

「最近、オマエさんお嬢ちゃんと一緒にいないだろ?それがまた噂になってるんだよねぇ・・・」

それはおかしな話だ。オレがミリアリアの傍にいなくても噂になるなんてどういう事なんだ?。

「今度の噂はなあ・・・お嬢ちゃんとうとうコーディネイターの色男に飽きられ、捨てられたって・・・そう広まっているよ」

「はあ〜!」オレは思わず素っ頓狂な声を出してしまった。どうしてそうなるんだよ・・・。

「最近オマエさんがお嬢ちゃんの事避けているからさ」

そう言っておっさんはオレにウインクをひとつ投げた。

















「ディアッカ・・・オマエさんなんでオーブ攻防戦の時、あんな形で釈放されたか知らないだろう?」

そうなんだよな・・・前から不思議に思っていた事だが、あんな不自然な形での釈放なんて本来ならありえない。

「本当なら・・・オマエさんは、オーブ軍のシャトルで投降捕虜としてプラント本国に強制送還されるはずだったんだ。
もう殆ど決定事項だったんだが・・・それを聞いたお嬢ちゃんがそこで待ったをかけたんだよ」

そんなことは聞いていない。初耳だ。

「ディアッカ・・・オマエさん婚約者がいるんだろ?お嬢ちゃんはな、オマエさんは赤服のザフトエリートなのに、
投降捕虜として強制送還されたら不名誉な事になるだろうって。実際場合によっては軍事裁判にもなりかねないしな。
その事でオマエさんの婚約者が世間から中傷されたら悲しい思いをするって言ってウズミ氏に現地釈放を嘆願したんだよ。
オマエは優秀で、どんなことがあっても自力でカーペンタリアまで帰還出来るから・・・ってな」

おっさんの話は更に続く。

「実はオマエさんを釈放する時に偽のオーブの国民票と通行証を発行させたのはお嬢ちゃんなんだよ。
自分の貯金からオマエさんに渡すお金も出してさ。釈放された時に渡されただろう?IDと一緒にお金もさ?あれはお嬢ちゃんのポケットマネーだって知らないだろう?」

そうだよな・・・このドサクサじゃ真相は闇の中だ。事実は捏造で隠すことが可能だもんな。」

それに・・・。

「結果的にはそれが正解だった。オマエさんの乗るはずだったシャトルは地球軍に撃墜されちゃったんだしな。
それを知った時のお嬢ちゃんの顔は・・・こっちが見ていられない程悲痛なものだったよ・・」

「お嬢ちゃんに言い寄っていた奴らが釈放の経緯を知ってな・・・酷い中傷したんだよ。バカなナチュラル女が、コーディネイターの色男に誑かされて釈放の手伝いをさせられただの、いいように弄ばれて利用されただの、オレのところまで噂が聞こえてきたくらいさ・・・」


───もつれた糸が解けて行く.。
     ミリアリアが何故あれ程までにプラントに帰れと言ったのか。
     大切なひとが待ってるのに・・・どうしてAAに戻って来たんだと、涙を流してまでオレを怒ったのか。
     あのままプラントに戻っていればそれきりになった中傷もオレがAAに戻って来たから、今度はもっとひどくなったんだろう。

     いつか聞いたあの噂。

     オレがナチュラルの女が珍しくて興味が湧いて戻って来たとか。
     コーディネイターのオレに利用されて遊ばれて、玩具にされているバカ女だとか。
     恋人を亡くしたばかりなのに、もう他の男・・・しかもコーディネイターに入れ込んでるとか。

     愛する恋人を亡くして食事も睡眠も受け付け無くなった身体に、
     いわれの無い中傷を受けてボロボロになった心。

     それでも・・・案じ続けたオレの身の上・・・。

「オマエさんが釈放された後、お嬢ちゃんが冷たかったのは愛情の裏返しだったんだろうと俺は思うね。
あの娘はMIAとなった彼氏の無事を祈ってずっと帰りを待ち続けていたんだからきっと、オマエさんとオマエさんの婚約者に自分と同じ思いをさせたくなかったんだよ。どんな事をしてもMIAのオマエさんを釈放させた上でカーペンタリアまで帰してやりたかったのさ」
おっさんは静かにオレを見ている。
「なのに・・・オマエさんときたらAAに戻って来ちゃったんだもんなぁ。お嬢ちゃんの苦悩も知らないでさ・・・」
おっさんは柔らかい笑顔をオレに向けた。

───オレの頭の中で・・・もつれた糸はようやく1本になった。
     
     目頭が熱くなる。
     ミリアリアがそそいでくれた打算のない愛情の深さと思いの強さを噛み締める。
     
     
「ディアッカ・・・オマエさん、お嬢ちゃんのこと本気で好きなんだろう?だったら大切にしろよ。
今はまだトールって奴の事忘れられないだろうけれど、負けるなよ!かっさらっちまえよ・・・あ、でも婚約者いるんだよなおまえ」

「ご心配なく。家同士の約束だよ。それにMIAじゃ、もう解消されてっから。第一、もう何年も会ってないんだわ、オレ」 
婚約者って名前も覚えてないんだし。     

「酒・・・もっと飲むか?」
「サンキュ・・・」
「で、オマエさんこれからどうするんだ?」
ニヤニヤしながら、おっさんはオレの腕を突付く。

「どうせウワサにされんならさ?とびっきりのウワサにしてやろうじゃん?」

「とびっきりってどんなだよ?」
更にオレの腕を突付く。ちょっと痛いんだけど。





「ご期待にお答えして、超スペクタクルなグランドロマンにしてやるよ!」





通路にも聞こえそうな程のデカい声でオレは叫んだ。




「は〜〜〜〜〜〜〜〜」




それを聞いたおっさんは両手で頭を抱え、呆れた顔でオレを眺めていた───。















 (2004.12.18) 空

 ※スペクタクル・・・壮大で豪華という意味ですね。

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