DATE OF BIRTH
───ではエルスマン・・・付き添いを頼むな。いつ目覚めてもおかしくはないんでな・・・」
軍医の言葉にディアッカは頷いた。
「大丈夫!何か変わった事があったら知らせるからセンセーも休んできて」
「キミがいてくれると本当に助かるよ。済まないなぁ・・・」謝辞を残して軍医は医務室を後にした。
ミリアリアがAAのタラップから落ちた。
本来だったら無重力で浮くはずなのに落ちた場所が低すぎたのが災いした。
頭と身体を強く打ち付けて昏倒したまま丸1日目覚めない・・・。
検査の結果は何も異常がないというのに・・・一体どうしたというのだろう。
用心の為、医務室には軍医と医療知識のあるディアッカが交代で付き添っているのだが・・・。
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「ディアッカ・・・ミリィどう?まだ目覚めないの・・・?」
業務交代の時間が過ぎてキラとサイ、それにフラガが様子を伺いに医務室に入ってきた。
「ああ・・・どうしたんだかピクリともしねえよ」
豪胆なディアッカもさすがに不安の色を隠せない。4人はそれぞれに溜息を吐いた。
・・・とその時である・・・。
「ん・・・・・・」
身体がピクリと動いてそれからゆっくりと・・・ミリアリアは眼を開けた。
「あ・・・あたし・・・」自分に何が起こったのか解らないながらもあたりを見回す。
「キラ・・・サイ・・・フラガさん・・・」見慣れた顔と名前を照らし合わせる。
そして最後に金髪で褐色の肌の男に目線を止めた。
「このひと・・・誰・・・?」
「え・・・・・・?」周りに緊張が走った。
なんとミリアリアの記憶から『ディアッカ』の事だけがキレイさっぱり抜け落ちてしまっていた。
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「ああ・・・何?おまえ、オレのコト忘れたの?それってちょっとヒドイんじゃない?」
ディアッカは口元を歪めてクククと笑うとミリアリアの顔を真剣に見つめた。
「オレはおまえのカレシ・・・まあ恋人なんだけれどね?名前は『ディアッカ』っての。OK?」
「ディアッカ・・・?」ミリアリアが復唱する。
「そうそう♪ディアッカだよ」そう言って彼はミリアリアの頬にキスをした。
「ここ・・・医務室よね?あたしどうしてこんな所にいるの?」
「タラップから落ちて頭を強く打ったんだよ。まあ軽い脳震盪を起こしたのさ」
「そう・・・だから記憶が曖昧なのかしら・・・。あなたのことを忘れるなんてごめんなさいディアッカ・・・」
ミリアリアはディアッカに向き直ると、心底済まなそうな顔をした。
「ねえディアッカ・・・あたし何だかここには居たくないの。もう部屋に戻ってもいいかしら・・・?」
「ああ・・・大丈夫だろ。でもまだ動くんじゃないぜ?オレが連れてってやるから」
ディアッカはそう言うとミリアリアを抱き上げた。
「ディアッカ・・・!おまえ一体どういうつもりなんだ!」
フラガが堪りかねてディアッカに掴みかかる。
(悪い・・・オレの部屋に運ぶからセンセー呼んで来てくれない?)
小声でフラガにそう告げるとディアッカはミリアリアを抱いて医務室から出て行った。
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「先生と・・・何の話をしていたの?ディアッカ・・・」
ミリアリアが心配そうにディアッカに尋ねた。
「うん・・・おまえの体調が良くないんで、あと2〜3日はここで安静にしてろってさ」
いつもとはうって変わって穏やかな口調でディアッカはミリアリアに諭した。
「ここから出てはいけないの・・・?」
「ダメだ!外に出るのは絶対ダメだからな・・・!」
ディアッカの口調がいきなり厳しいものになってミリアリアは怯えた。
「あ・・・ごめん!脅かしちゃった?心配はいらないって!オレが付いてるんだからさ」
「それよりお腹空いたんじゃない?食堂に行って取ってくるからちょっと待ってて?」
ディアッカがそう言って立ち上がると・・・なんとミリアリアが途端に泣き出したではないか。
「待ってディアッカ!お願い!どこにも行かないで・・・!」
「ミリアリア?」
「ひとりは嫌なのっ!残されるのはもう嫌なの!」ミリアリアはディアッカにしがみ付いた。
「バカだなぁ・・・オレがおまえをひとりにするわけないだろう?いい子だから、ね?」
ディアッカは、今度はミリアリアの額にキスをすると手を振って微笑んだ。
「ね・・・すぐ戻るから心配しないで」
「本当・・・?」
「ああ・・すぐ戻るから!ね?」
ディアッカはまるで小さな子供をあやすようかにミリアリアを宥めて部屋の外へ出た。
「おい・・・ディアッカおまえ何を考えてるんだ?お嬢ちゃんの恋人はケーニヒだろうがっ!
一体何を企んでいるんだよっ・・・おまえが恋人だなんてよくもそんなウソを吐けるなっ!」
通路にはフラガの他にキラとサイが立っていた。キラはともかくフラガとサイの眼はディアッカへの非難に満ち溢れている。
「あ〜ごめんアンタ達の事忘れてたわ。ミリアリアに会うのは大丈夫だよ!ただし!
トールの事は禁句だからな!絶対だぞっ!」
「ねえ・・・ディアッカ。君がミリィの恋人の振りをするのって理由があるの・・・?」
ひとり控えめに佇んでいたキラが口を開いた。
「ん〜・・・そうねえとりあえず明日まで待ってみてくれない?」お気軽な口調でディアッカは答えた。
「とにかくさあ・・・食事持って来るからそれまであいつの傍に居てやっててよ」
「・・・分かったよ!」フラガはキラ達を促してディアッカの部屋へと入って行った。
**********
「ああ・・・キラ!ディアッカはどこに行ったの?どうして戻って来ないの・・・?」
「ミリィ・・・?」サイが呆然としながらも声を掛ける。
「ディアッカ・・・だってずっとあたしの傍に居てくれるって言ったのよ・・・!」
ミリアリアの様子はまともじゃない。一体彼女に何があったというのだろうか?
「大丈夫だよミリィ・・・ディアッカは食事のトレイを取りに行っただけだからすぐ戻るよ・・・」
落ち着きを保った声でキラは返事を返した。
「ミリアリア・・・ごめん遅くなっちゃって・・・!ほら!夕飯ちゃんと食べないとダメだからな」
ディアッカが慌てて戻って来た。
「ディアッカ・・・!ひどいじゃない!どうしてあたしをひとりにするの?傍に居てくれるって言ったじゃない・・・」
そう言うミリアリアの瞳から大粒の涙が幾筋も流れ落ちて更に皆を驚かせた。
「はいはい・・・もう大丈夫でしょう?いい子だから泣くんじゃないよ?ほら・・・キラ達が心配するから」
ディアッカは泣きじゃくるミリアリアを抱きしめると頬と額にひとつずつキスを落とす。
「ディアッカ・・・?ミリィはどうしたんだ・・・・・・?」
「何言ってんのさ!いつもと変わらないでしょ?」
フラガ達は互いに顔を見合わせた。おかしい。ミリアリアは絶対まともじゃない。
ただ・・・確かにそれを指摘する事は今は避けた方がいいと思えた。
───ディアッカ・・・・・・・・。
キラは唯ひとりミリアリアを抱いている彼の顔が険しくなったのを感じていた・・・・・・。
(2005.7.14) 空
※ 長らくお待たせいたしました。リクエストの『ミリ→ディア』をお届けします。
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