私が何よりも欲しいものは・・・あの遥か彼方にある手の届かない星に似ている・・・。





あの星空の向こうに行かせて・・・(3)





ここはプラント・アプリリウス学園の生徒会室。
放課後になると生徒会役員のサロンと化して、女子生徒が遠巻きに集まり出す。
お目当ては『フォア・カード』と呼ばれる生徒会役員の4名。その煌びやかさは言葉に尽せない程見事なものだ。
「ディアッカ先輩。依頼されていた調書が届きましたよ?」
「ああサンキュ!ニコル」
「それにしても・・・珍しい事もあるものですね?あなたが女生徒の調書なんか欲しがるなんて」
「ん・・・ちょっと気になるんだよな・・・。こんな時期はずれの転校生なんてそうそういるもんじゃないでしょ?」
「ええ、それなんですが、実はこんな新聞記事を見つけました」
ニコルと呼ばれた少年はまだ1年生ながら生徒会役員の書記をしている。言わずと知れた『フォア・カード』の一員で几帳面な性格から調査や内偵などを得意としている。柔らかな巻き毛の美少年で、年長の女生徒からの人気が高い。
「ほら、ここの所を読んでください。ヘリオポリス学園の悲劇・・・って所ですよ」
ディアッカはニコルに言われるがままに新聞記事に眼を通した。
『ヘリオポリス学園の悲劇!修学旅行が一転悲しき死出の旅路に・・・!』
「ああ・・・あれだろ?飛行機が墜落して修学旅行の2年生が全員事故死したっていう・・・」
それは半年前に起きた飛行機事故で、当時TVや新聞で大々的に報道されたものだ。
ヘリオポリス学園の修学旅行中の学生およそ300名を乗せたまま海に墜落したという痛ましい事故。
学園では2年生全員が死亡して、もう今は1年生と3年生だけが在籍するのみだ。
「それが・・・ひとりだけ生き残っている2年生がいました」
「え?それってどういうことなんだ?」
「旅行の前日に熱を出して、飛行機に乗らなかった生徒がいたんですよ」
ニコルはディアッカにそう言ったあと、調書を手渡し、赤でチェックの入った項目に注意を促した。
「ミリアリア・ハウ 16歳 55/2.17生まれ ヘリオポリス学園2年1組より編入・・・・!ニコル!これって!」
「そうなんです。あなたが僕に調査を依頼した女生徒の経歴ですね。彼女はただひとり生き残った2年生でした」
(そうか・・・)
ディアッカはようやく全てを理解した。
ミリアリアがディセンベルの丘からいつも空を見ていた理由。
空の彼方に消えた友達。
(じゃあ・・・この写真も)
昨日の夜ディセンベルの丘でミリアリアが落としていった銀のプレートの蓋を開いてディアッカは考え込む。
この写真を見て彼女は泣いていた。ミリアリアの横で微笑む少年も彼女と同じブレザーを着ているから同じ学園の生徒だと思ってまず間違いないだろう。 空に散った友人。もしかするとその中には恋人だっていたのかの知れない。
それにしても、どうしたものかとディアッカは考えていた。
このプレートの持ち主はミリアリアだと判っているのに、ディアッカは今だ彼女に返せないでいたのだ。
きっと困って探していることだろう。なにしろ寮の部屋の鍵らしきものまで付いているのだから。
「ディアッカ先輩・・・とても言いにくいのですが、その・・・彼女に深入りするのは止めたほうがいいと僕は思います。遊びでちょっかい出すには事情が有り過ぎますよ・・・」
「そんなんじゃね〜っつ〜の!」
「じゃあ・・・どういうことなんだ?」
ディアッカの後でトーンの高い声が響く。
その声に振り向きディアッカは「げ・・・イザーク・・・!アスランもいつからそこにいたんだよ」と溜息混じりに呟いた。
ディアッカがイザークと呼んだ少年はディアッカと同じ3年A組で、しかも生徒会長。
絹糸のように細くサラサラの銀髪。色白に加え深い青の瞳の彼は黙っていればまさに『王子様』といった風情で熱心な取り巻きも多いのだが、如何せん気が短く、怒り出すと手の付けようが無い。ディアッカとは無二の親友で、幼少の頃からの古馴染みだ。
アスランは2年生で、落ち着いた物腰で次期生徒会長との呼び声も高い。今は会計を担当している。
この3名とディアッカの計4名で『フォア・カード』は構成されていた。
「まったく・・・貴様は女と見るやすぐにこれだからなっ!」
「あら?イザーク。それはヤキモチ?」
「バカか貴様はっ!少しは自重しろと言ってるんだっ!見ろっ!部屋の外はお前目当ての女ばかりだろうがっ!」
「ホントだよな〜!深層のお嬢サマって奴はちょっかい出すとすぐこれだかんな〜・・・いい加減オレも飽きたわ」
それを聞いてニコルは「ディアッカ先輩・・・そういう問題じゃありませんよ」と、大きく長く息をはいた。
ニコルの言葉のあとを引き取ってアスランもディアッカに声を掛ける。
「そうですよ。先輩婚約するんでしょう?なのにこんなに浮名ばかり流してちゃ実際マズいんじゃないんですか?」
「うるさいねお前は!実家の病院はラミアス姉貴が婿さん貰うからいいんだよっ!フラガ財団の御曹司ムウ・ラ・フラガとね!」
「その件だが・・・。学園中の男どもがガックリきてるらしいな」とイザークの声。
「まあねえ。姉貴も早く結婚してここの校医から足を洗ってもらわないと困るんだよなあ・・・。オレのやることにいちいちウルサくて文句ばっかなんだからさあ・・・」
校医のラミアス女医は実はディアッカの姉である。
腹違いなので似ても似つかないが彼女が嫡出でディアッカは妾腹なのだ。
「だいたいアズラエル兄貴がポックリ逝っちまったからって・・・それまで目もくれなかった愛人の息子に鞍替えは親父もひどいことすると思うぜ?勝手に決めた女なんかと婚約なんてオレはもう冗談じゃないね!」
ディアッカは心底そう思った。
ディアッカの実家は本国でも指折りの大病院だ。兄弟は3人で、上からアズラエル、マリュー・ラミアス、ディアッカと続く。
上の2人は本妻の子供だが、ディアッカは愛人の子供で、ほんの2年前までは誰からも忘れられた存在だった。
マリューはディアッカを小さい頃から不憫がって大切にしてくれたものだが、アズラエルは汚いものでも見るかのようにディアッカを嘲け笑っていた。30代半ばでアズラエルが事故で死んだ時は涙の一粒も出なかったのもいた仕方あるまい。
だが、アズラエルが死んだ事によって、ディアッカの周囲は俄然騒がしくなった。
日陰者だった身が表舞台に立ってからは、それまで見向きもしなかった連中が手のひらを反したようにディアッカの周りを取り巻き始めたのだ。
中には自分の娘と婚約させようと躍起になる者も少なからずいて、それはディアッカを著しく不快にさせた。
そんな経緯があるためディアッカは周囲を信じていない。
信頼がおけるのは幼い頃からずっと態度を変えないイザークやニコルそしてアスランに姉のマリューくらいなものだ。
さて、先程アスランが話していたとおり、実は今、ディアッカは大変な事態に直面していた。
来週、親の進めで強行にお見合いをさせられるのだ。相手はカガリ・ユラ・アスハといって実はこの学園の2年生。
たいそう美貌なのだが、お転婆でとてもお嬢サマとは呼べない。
気のいい彼女もディアッカの古馴染みである。あまりにも近くにいて、女とは意識できないのだ。それはカガリも同じらしく、お互い友人としてなら別に構わないのだが婚約となると話は別もので、なんとか回避したいと思っているのはお互い様だ。
(手っ取り早く見合いをブチ壊す手は無いものか・・・)
そう思いながらディアッカはふと手の中ににある銀のプレートを見つめた。
(そうだ・・・・・・!)
ディアッカの口元がクククと歪む・・・・・・。


**********


絶対ここにあると思ったのに・・・。
ミリアリアはディセンベルの丘に来ていた。目的は当然落とした銀のプレートを探すことだ。
あちこち探したのだが見つからず、後はもうここしか考えられなかった。
(あれしかないのに・・・)
ミリアリアは必死で探すものの、見つからない。
(それに早く見つけないと・・・・またあいつが来るかもしれない・・・)
そう思うと自然動悸が激しくなった。

───何してるのさ・・・。

その独特な艶のある声にミリアリアは身体を硬くした。
「あんた・・・」
思っていた矢先のディアッカの登場である。
「なんだよ、どうしたんだよ!」
木陰から姿を現したディアッカ。そしてその額には大きく包帯が巻かれているのが眼に映った。
「なあ・・・ミリアリアちゃん?もしかして何か探してる?」
意地悪気にクククと笑ってディアッカは右手を高く差し出した。
右手の先にあるもの・・・それは・・・。
「あ・・・!私のプレート・・・!」
ミリアリアは思わずディアッカに駆け寄った。
「お願い返して!」
必死に懇願するもディアッカはただ笑うだけだ。
「ふうん・・・これってそんなに大切なものなんだ・・・」
必死のミリアリアの形相を見てディアッカはますます笑いが止まらない。
「どうしよっか・な〜?。オレさあ昨日おまえに引っかかれた傷が思いのほか深くてさあ・・・縫ったんだぜ?4針もさ(大嘘)。そのオトシマエもつけたいんだよなあ・・・」
皮肉気に呟くとディアッカはミリアリアの肩を掴んだ。そしてその耳元でそっと囁いた・・・。
「オレの言う通りにすれば返してやってもいいぜ・・・」
「・・・・言う通りって・・・?」
クククと口元だけで笑うとディアッカはミリアリアに告げた。
「簡単さ・・・おまえオレの恋人になれよ・・・」
(・・・・・・なに・・・それ・・・!)
ディアッカの言葉の言葉を受けてミリアリアは呆然と立ち尽くす・・・。




                 いいから・・・オレの恋人になって・・・・・・。








      (2005.9.15) 空
     
※ しまった!やっぱり3話じゃ無理だった・・・。 という訳で申し訳ございません。もう1話続きます。
         そこで一応の完結にします。・・・・一応?
         キリバンリクエストへ  (4)へ   妄想駄文へ