あの星空の向こうにはわたしの宝物が眠っている・・・。
あの星空の向こうに行かせて・・・
ここは私立『プラント・アプリリウス学園高等部』
俗に言う上流階級の御用達学園でしかもなおかつ全寮制。
進学レベルはTOPクラスのうえにクラブ活動の水準はこれもまた立派な全国区。
自由な校風は生徒会活動を活発にし、しかもその権限は絶大と聞く。
さて・・・校舎を見下ろす小高い丘の上に少女がひとり佇んでいた。
プラント・アプリリウス学園高等部の制服を着ており、真紅のリボンは少女が2年生である事を示している。
少女はもう1時間近くここで空を見上げていた。
流れ行く雲を追い、時折舞い上がる木の葉に視界を遮られてもただずっと蒼穹を眺めていた。
───Ding Dong・・・♪
不意にチャイムが鳴った。
その音に、少女は弾かれるように慌てて校舎に向かって走り出すが・・・。
(あ・・・ちょっとやだ・・・!)
少女はうっかりここが丘の斜面であることを失念していた。
(だめ・・・!落ちちゃう・・・!)そう思ったとき。
「おっと・・・!」
誰かが背後から腕を伸ばして彼女を抱き止めた。
「あ・・・」
視線を下にずらすと筋肉質の浅黒い腕が見えた。
「あっぶねえなあ!斜面を駆け下りるなんてオマエ何考えてんだ?」
少女の耳元を掠めるのは艶のあるテノールボイス。しっとりとした綺麗な声だ。
声の主はこのままではまだ体勢が不安定だと思ったのか、少女の身体をさらに強く引き寄せて抱きすくめる。
(・・・!)
その力の強さに少女はとっさに身構えた。
「あ・・・ありがとうございました・・・!もう大丈夫ですから放してください・・・!」
そう言って声の主から身体を外そうとするのだが、声の主はクククと笑って少女の首筋に舌を這わせてくるではないか。
「どうして放さなきゃいけないの?こ〜んなオイシイシチュエーションたまんないけれどね。オレ」
必死に身をかわす少女なのだが、いかんせん相手の力が強すぎた。もがき暴れるうちに両方の手首を掴まれて正面から声の主と対峙する形になってしまった。
そして・・・少女が見たのは・・・。
(な・・・なにこのひと・・・)
浅黒い肌に豪奢な金髪。スッと通った鼻筋に凛とした口元。それに宝玉のような紫の瞳・・・ひと言でいい表すなら『端整な美丈夫』ではないだろうか。
着くずした制服のタイは緑でこれは3年生だとわかる。いかにも『ワル』の風体なのだが、どこか気品があるのはこの男の育ちの良さを表していた。
「どうしたの?ああもしかしてオレに見惚れちまった?」
狡猾そうな笑いを口元に寄せて男は少女を眼下にに見下ろすと少女の手首をギリギリと強くねじ上げた。
「どうやらオマエはオレのことを知らないみたいだな。もしかして転校生か?」
「・・・・・・」
男の問いに少女は無言で答えると、男から視線を逸らせる。
(ふ・・・ん・・・。ずい分気の強そうな女だな)
嘗め回すような視線で少女を値踏みすると、男はさもおかしそうに話しだした。
「じゃあひとついいことを教えておいてやるよ。この学園で平穏に過ごしたかったらオレの言う事には逆らわないほうがいいぜ」
そう言いながら少女の手首をなおも強く握り締めた。
「だから・・・」
その声と同時にいきなり少女の手首を放す。
力が入っていた少女の身体は途端にバランスを失って大きく揺れた。
その間に男の顔が至近に迫る。そしてバランスを失った身体に手を廻し、男は表面から少女を抱くと強引にその唇を奪った。
(・・・・・・!)
少女の声にならない声が喉の奥でくぐもっている。
男の舌が少女の口内を蹂躙する。ほどなく少女の舌を捕らえた。
(・・・息・・・できな・・・い)
息ができない苦しさから酸素を取り込もうとするのだが、男の唇はそれを許してはくれない。
少女がもがけばもがくほど男は抱く力を強めていく。
混濁してゆく意識の中で少女は緑の瞳が自分を見つめているような気がした。
(トール・・・あたしも・・・)
急に身体が弛緩して、そのまま少女は男の腕の中で意識を失ってしまった。
**********
───ミリアリア・ハウさんね。今日付けでこの学園の2−Aに編入する予定だった子だわ・・・。
保健医のラミアス女医が溜息雑じりに呟いた。
ブルネットの美人で、その巨乳とあわせ、男子生徒から絶大な人気がある。
「ふうん・・・この女ミリアリアっていうんだ。転校生で『A』とは相当頭がいいと云えるな」
なるほど、『A』クラスは成績が優秀な者だけで構成された特待生のクラスである。
『ミリアリア・ハウ』と呼ばれた少女は保健室のベッドで眠っていた。体温を計ると38度5分もあって安静が必要。
「で・・・?どうしてあなたがこの子を保健室に連れてきたのかしら?しかも手首は真っ赤になってるし・・・」
何があったのか・・・実はラミアス女医にも概ね見当がついている。
なにしろ眼の前の男は女出入りが絶えない上に派手なウワサにも事欠かない人物だから。
『端整な美丈夫』
とても17、8の男が持つ色気ではない。22、3といっても通用しそうなほど大人びている彼。
「聞いてるの?」
ラミアス女医の声が強くなった。
「ああ・・・ごめんセンセ!実はこいつディセンベルの丘でずっと空を眺めていたのさ。1時間以上そうしてたかな?そのうち予鈴が鳴ったんでさ・・・なにを思ったんだかあの斜面を走り出して落ちるトコだったってわけ。で、そこをオレが助けたの。そしたら気を失っちゃってね?抱き上げてみれば身体は熱いし・・・」
「それで?」
「ほら。オレって紳士じゃない?こんなかわいい女の子が具合が悪くて倒れちゃったのよ?そういうときは保健室に運んでやるのが思いやりってもんでしょ?」
「なるほど?」
「聞けば転校生だっていうからさあ、よ〜く教えてあげたのよ?この学園の仕組みとオレの事もさ」
「他には何も教えなかったの?」
「いえいえ・・・ちゃんと手取り足取り教えてあげましたとも。男と女のタノシイ秘め事も」
「はいはい・・・よ〜く解ったわ!本当にあなたは女となったら見境なしね」
「お褒めに預かり光栄の至り・・・」
「・・・誰も褒めていないわよ」
「それは残念・・・」
これが校医と生徒の会話とは世も末だと言いたいところだが・・・どうやら日常茶飯事であるらしかった。
「ん・・・」
その声にふたりは振り向いた。
どうやらベッドで眠っていた少女が眼を覚ましたようだ。
最初は天井を見上げていた眼がゆっくり周囲へと動き始める。
「あたし・・・どうして・・・?ここは・・・?」
「あなたは気を失ってここに運ばれてきたのよ。体調が悪かったのね。熱が38度5分もあるわ・・・」
「38度・・・?」
「初めまして、アプリリウス・プラント学園にようこそ。私は校医のマリュー・ラミアス。あなたは今日2−Aに編入する予定だったミリアリア・ハウさんね・・・」
「あ・・・はい。初めましてミリアリア・ハウです。転校初日にとんだご迷惑をおかけしました」
「大丈夫よ、もう少し寝てるといいわ・・・あとで女子寮にご案内するから」
「ありがとうございます。あ、ところで私を運んでくれたのはどなたなんですか?お礼を言いたいのですが」
ミリアリアはとても律儀な性格らしい。そんなミリアリアの横でラミアス女医とはまったく別人の声がする。
「オレが運んでやったんだぜ?お礼にキスのひとつでもしてもらいたいね」
そう言ってミリアリアの前に姿を見せたのは浅黒い肌に豪奢な金髪の美丈夫だった。
「ふうん・・・どうやら何も憶えてないみたいじゃない?ミリアリアっていったっけ?どう?オレのこと憶えてる?」
そう言う男の口元がクククと笑いを含む。
(この笑い方・・・)
ミリアリアには憶えがあった。
ゆっくりと記憶が戻ってくる。この男は確か・・・。
(この男はあのとき私に・・・キス・・・した・・・・キス!?)
「あ・・・あんた・・・」
ミリアリアの記憶が唐突に戻った。
「初めまして・・・って違うよな?今朝丘の上で会ったよなあ〜?とても楽しかったよオレ。ようこそプラント・アプリリウス学園へ!オレは3−Aのディアッカ・エルスマンね。ついでに生徒会副会長なの。よろしくねミリアリアちゃん」
ディアッカとミリアリア・・・。
ふたりの出逢いはこんな感じ・・・。
(2005.9.2) 空
※ nikoさま!たいへんお待たせ致しました。
『学園もの。お金持ち学校に一般家庭の娘のミリィが入学。オレ様的で黒いディアッカを希望』をお届けします。
ちょっと長くなりますので、ここで切らせていただきました。続編を2話予定していますので、もう少々お待ちください。
ここから『D』の奴はどんどん黒くなっていきますからね・・・(うきうき)
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