───ラクス!キラ!ああみんなよく来てくれたな!
オーブ宇宙空港内のVIPルームでは表敬の為に既にカガリ・ユラ・アスハ代表首長を始め、今やカガリの凄腕の側近として傍に仕えるアスラン・ザラ、特に訪問日程中は専属のカメラマンとして同行を許可されたミリアリア・ハウなどが訪れていた。
ディアッカは(ミリアリアに向かってウインクを投げ・・・これは公然と無視されたが)敬礼をもって返礼をし、後ろに控えている二名のSPもそれに習った。
秘書官姿のキラはペコリとお辞儀をする。
カガリもディアッカとシホはすぐに解かった。後方に控えている秘書官らしき男もよく見ればキラだとこれも判別できた。
だが、当然来ている筈のラクスとイザークの姿が見えないのは一体・・・。と、そこまで考えを巡らせたカガリは真正面からエザリア・ジュールの姿を捉え、暫しの沈黙の後にようやく事の真相に気がついたのだ。
世ハ情!嗚呼涙ノ要人慰安旅行 (後編)
───・・・エザリア・ジュール元プラント評議会議員でいらっしゃいますか・・・?
恐る恐るカガリは訊ねた。
土壇場になって訪問者がラクス・クラインからエザリア・ジュールに代わったとは聞いてはいたが、どういった理由でそうなったのか?その経緯をカガリは知らない。というよりそんなことはオーブ側もプラント側も実は直前まで聞かされてはいなかったのだ。
だが、それでもラクス・クラインは来ると言った。だから彼女達は間違いなくこの場にいる筈。
その言葉に、エザリアの傍らに付き従っていたSPの女性が自らの制帽を取った。
「カガリさん・・・お久しぶりです。ラクス・クラインですわ」
ラクスはニコニコと笑うと、その頭を深々と下げた。
「ってことはやっぱりこのエザリア女史は・・・」
カガリはそっと窺うと・・・とうとう堪えきれずに大声で笑い出した。
「イザーク!やっぱイザーク・ジュールなのか!女装しているとはビックリだな!よもやこんな形で再会できるとは私も思わなかったぞ!」
「元気だったかイザーク。お前の辣腕ぶりはオーブまで届いているが・・・本当に出世したんだな」
「はい!そこでストップね?」
イザークに駆け寄りその『艶姿』をもっとよく見ようとするカガリやアスランの前にすかさずディアッカが立ち塞がる。
「アスハ代表首長。テロリストの目を欺く為とは言え、このような変装姿で・・・我が警備隊の長を御前に出すのは失礼かと存じます。しかし、ラクス・クラインの専属警護隊としてはあらゆる手段を用いて危険を排除せねばなりません。不快を承知で申し上げますが、オーブ滞在中は我が隊長を『エザリア女史』として遇して下さいますようお願い申し上げます・・・!」
必要以上に真面目くさったディアッカの言葉遣い。その演技過剰なディアッカの態度に憮然としながらもイザークは見事なまでの優雅さでカガリに向かって礼をとり、それでいてアスランのことは公然と無視し、更に傍らのディアッカの足をピンヒールの踵でグリグリと踏みつけた。
「何するんだよイザークッ!」
あまりの痛さに思わずイザークを睨みつけたディアッカをよそに、自分の母親に扮した男は洗練された仕草で言葉を付け加えた。
「アスハ代表首長。オーブ滞在中私は母、エザリアとして過ごす義務をディアッカに課せられた。見苦しく不愉快とは思うがどうか宜しく対処を願う。私が母に扮している為、警護の全てはディアッカに一任してあるので奴を思う存分にこき使って貰いたい」
もとより麗人として評判が高いイザークが女装しているのだ。その姿はまことに美しく、ファーストレディと呼ぶのに充分相応しいものがある。
その彼がニターリと唇に笑みを浮かべディアッカを見つめる。
「貴様は滞在中俺の小間使いとして働いてもらおう。ここにいるのがエザリアでなく俺だと知れたらオーブに対する侮辱罪とも受け取られかねないんだからな・・・。いいかディアッカ!オーブ滞在中の間・・・貴様は休む暇なぞ無いと今から覚悟しておくんだな・・・」
妖怪が人間を嘲笑うかの如くイザークはディアッカに言葉を投げた。
それに対しディアッカはイザークに踏みつけられた足の甲の痛みに耐えながら素っ頓狂な声を上げた。
「え・・・!じゃ俺とミリアリアの感動の再会計画(ただしあくまでもディアッカ個人の希望)はどうなっちまうんだよ!」
オーブでのバカンスはミリアリアと過ごすことだけを考えて、あれこれ計画していたというのにバカンスの期間中は終始イザークの小間使いもどきをしなけりゃいけない!それじゃあまりにも横暴だとディアッカは激しく抗議したものの、イザークはツンッと澄ました顔であっさりそれを却下した。
「そんなものはクソ喰らえだなっ!目的は政治的見解に基づく外交会談だろうがっ!」
「だってこれはバカンスだろう?なぁ姫さんはそのつもりで俺たちを呼び寄せたんだろう?」
必死になってカガリに助けを求めるも、カガリはどうしたものかと口を噤んでいる。
話の流れから想像するとイザークに女装をさせたのはディアッカで、それもイザーク当人には訪問の直前まで女装させる件を黙っていたに違いない。だとしたらイザークの機嫌は・・・言うまでもない。
「ディアッカ、気持ちは解かるが私もラクスやキラとは単にバカンスだけが目的ではないのだ。来る三ヶ月後の正式な国際会談に向けて調整やら、忌憚の無い意見を交わしておく必要があったからこそこうして来てもらったんだ。すまないがバカンスの件はあまり期待しないでくれ・・・」
無論大嘘である。
だが、こうでも言っておかなければイザークの機嫌は更に悪くなるだろう。それでは困る。大勢の幸せの為にはこの際犠牲も必要であって、それがディアッカひとりで済むというのならばそれが一番平和で穏便な方法だろうとカガリは咄嗟に計算したのだ。うんうん、当然だと誰もがそれを肯定する。
「アスハ代表もそう言っておられる。ありがたく拝聴して任務を全うするんだなディアッカ」
はっはっは・・・!っと高笑いをした後イザークはスーツの裾をサラリと翻し再びカガリに向き直った。
「だが・・・人目を惹き付ける役目も楽ではない。申し訳ないが早々に宿舎まで案内してはもらえないか・・・」
そんなイザークの言葉にラクスとキラも口添えをする。
「私たちからもお願いしますわ・・・カガリさん。イザークのお蔭で私たちは人目につかずにオーブへ入国出来たのですから彼には本当に感謝しておりますのよ」
そこですかさずディアッカが抗議の声を上げた。
「え、それはちょっと待ってくれよ!オレはまだミリアリアと何の話もしていないんだぜ?」
事の急な展開にディアッカは不満たらたらである。だがミリアリアの方はイザークにかなり同情的だ。
「イザークさん。こんなバカのことはどうでもいいですから・・・早く休まれたほうがいいと私も思いますよ」
それを聞いてディアッカの表情が曇る。
「ってミリアリアっ!バカンス中はオレと一緒にいてくれるんだろ!?」
ディアッカの必死の懇願(というよりも哀願)をよそにミリアリアは訝しげに言葉を続ける。
「・・・イザークさんの話ちゃんと聞いてた?ラクスさんたちの滞在中、あんたはイザークさんの小間使いとして休み無しだって言われたでしょう?いいこと?ZAFTのディアッカ・エルスマンさん?しっかり働かないとあんたお給料貰えないわよ?」
「イザークの小間使いはシホがやってくれるから心配ないって!なあ?シホ」
「え・・・あ、その・・・」
いきなり話を振られたシホは真っ赤になって俯いたものの、イザークからの針のような視線に気付き慌てて態度を硬化させた。
「いえ、ディアッカ。ジュール隊長の警護・・・もとい小間使いはあなたに与えられた任務です!隊長の仰るとおりきちんと全うして下さい!」
「そんなぁ!」
喉からくっくっくっと噛み締めるような笑いを口の端に残し、イザークは勝ち誇った声を上げる。
「ふん!これで貴様に同情してくれる奴はひとりもいなくなったな!俺に母上の真似をさせるからこういうことになったんだ。まあ自業自得だと思っていいかげん諦めるんだな」
「イザーク!」
「何とでも言え!貴様は今日、それもたった今から俺の小間使いとして存分に働いてもらおう。ところでアスハ代表。我々の部屋割りはどうなっているんだ?」
「そ・・・それはだな・・・」
出し抜けに名前を呼ばれたカガリはしどろもどろで要点を得ない。
なにしろ当初はバカンスが目的だっただけあって本当は男女のカップリングで部屋を振ってあったのだ。だがこの状況ではさすがにそれも言い難い。見かねたアスランが助け舟を出した。
「ラクスとカガリがスイートに泊まる。俺とキラはその隣だ。で、ディアッカとイザークが向かい側で同室。シホとミリアリアがその隣で同室。今から案内するよ」
慎重すぎるきらいがあるアスランだが、こういうときの機転は実に見事である。
カガリを始め、ラクス一行は黙々とアスランにつき従う。若干一名ほどの顔が不満タラタラ(笑)だが、一行はそれに気付かぬ振りをして逃げた・・・。
*********
───ほう・・・。議会場の地下がこのようなつくりになっているとはな・・・。
議会場の地下がアスハ個人の別邸になっていると知ってイザークは思わず目を見張った。地下とはいえ、かなりの広さがある。防災シェルターも兼ねているというだけあって作りもしっかりしており、数人でこもるには格好の場所だ。プールや温泉、ゲーム場などの娯楽施設や医療施設も完備してあると聞いてラクス一行は更に驚く。
「イザークにはすまないのだが・・・今夜八時より内輪で歓迎パーティを予定しているんだ。お忍びとはいえプラントやオーブ本国でも『エザリア・ジュール女史のオーブ訪問』は報道されているから・・・これは受けてもらいたい」
申し訳なさそうなカガリの態度にイザークもフッっと溜息を吐く。
「仕方あるまい。正式な訪問ではなくてもこれは公務にだからな・・・。大丈夫だ。心得ている」
「それまでは自由に部屋でくつろいで休んでくれ。ラクスにはキラやアスラン、・・・それに私もついているから安心してくれ」
「宜しく頼む」
「あ?じゃーオレはミリアリアと一緒に居てもいい?シホはイザークについてればいいだろ?」
先ほどまで不満タラタラだったディアッカの顔色がパッと輝く。
「バカ者っ!貴様は俺の小間使いだと言っただろうっ!勝手な行動は慎め!」
「それじゃミリアリアが可哀そうじゃないかっ!遠距離恋愛中の恋人とせっかく再会したっつーのにさぁ!」
ディアッカは激しく抗議したが、
「あら?それって一体誰のことかしら?私のことなら心配ご無用。シホさんと一緒に行動するから大丈夫〜!」
「・・・・・・」
こんなミリアリアからの冷たい仕打ちにさすがのお祭男も頼りなくシュン・・・と頭をたれた。
**********
───しばしの休息の後には歓迎のパーティが厳かに始まる。
主賓は勿論エザリア・ジュールである。当然彼女(実はイザーク)はドレスアップした姿での登場となった。
男の変装とバレないよう、ドレスは身体の線を強調しないゆったりとしたものを選び、細部は長めのレースで覆い隠すようにした。流石はイザークである。元々が線の細い体型に加え、その秀麗な顔立ちに女装は本当によく合っている。そんな彼の手をひいてエスコートするのは無論ディアッカ・エルスマン。
エザリアのSPが女性(シホとラクス)であったし、秘書官(キラ)ではバランスが悪い。
比べディアッカはラクスを直接警護するジュール隊の副隊長。ZAFTに階級はないとはいえそれなりの権限をもつ『黒服』で、しかもイザーク・ジュール隊長の名代としてエザリアに付き従っているのだからこの場合当然と言えた。しかし・・・当のディアッカの顔からは表情というものがまるでない。
(男が男のエスコートして・・・何が楽しいんだっつーのっ!)
予定ではディアッカはここでミリアリアのエスコートをするはずだった(いや、絶対にしたいと思っていた)のだ。
なのにそのミリアリアはSP姿のシホやラクスと楽しそうに話をしている。時々ディアッカの方を向くが、それはカメラのシャッターを切るときか、インタビュアーとして(ざまぁみろ!と、言わんばかりに)必要な言葉をかけるだけだ。
「何よそ見なんかしているんだ?みっともないっ!貴様は俺の小間使いだろう!もっと威厳を持たないかっ!」
小声でディアッカを叱責しつつ、ニッコリと笑うイザークの額にはまたもや筋が浮かんでいる。
(ちぇ・・・こんなことになるならイザークに女装なんてさせるんじゃなかったぜ・・・)
後悔したところで後の祭り。しかもイザークはパーティに乗じてあれこれディアッカをこき使っている。
ディアッカはソフトドリンクのグラスを片手に大きな溜息を吐きながら、先ほどまでの休息時のことを思い出していた。
───さてディアッカ。早速仕事に取り掛かってもらおう。まず
『最初にこのスーツケースを・・・〜であってPI−だから○だぞいいかディアッカ聞いてるかこのたわけ者が!>>>>そして〜〜〜〜〜〜〜だからになったら×××にしろよ!こら余所見するんじゃないっ!△△△だからな!なんだと?貴様上官の向かって口答えするのかこの痴れ者がっ!(あーもうめんどくさいので早送りににしてしまえー)PI−−−−−−−>>>>解かったのかこの大馬鹿者が!(この間たっぷり五分は経過)』
っとこんな調子であったから、パーティ後はまたあれこれこき使われるに違いない。
ディアッカは再びソフトドリンクを口にして再び大きく溜息をついた。
空になったグラスの代わりに美味しそうなタルトレットに手を伸ばす。要人の警護中なので酒は飲めないため、せめて食べるものくらいはリッチに(どこがリッチなのかは解からないが)いきたいものだ。だがあと少しというところでタルトレットは他のご婦人に取られてしまった。
(あーあ・・・)
ディアッカは少しガッカリしたが、すぐ気を取り直して横のパウンドケーキを取ろうとした。
スイーツのラウンジは前が鏡になっている。何気なく鏡に目を移して・・・
「伏せろつ!!」
咄嗟に銃を取り出し、ディアッカが振り向きざまに発砲すると、物陰に隠れていた男が呻き声を上げてその場に倒れた。
「きゃあああっ」
女性客達の劈く悲鳴を背に数人の武装した人間が照明を撃ち抜き、辺りはいきなり真っ暗になった。
「警備兵!テロリストがいる!周囲の客を警護しろっ」
ディアッカの叫び声が終わらぬうちに、今度は反対側から数条の火線が束となってディアッカの右肩を貫いた。
「ぐ・・・」
焼けるような痛みにポロリと銃を落とし、肩を押さえながらもディアッカはすぐ傍らに居たイザークとカガリの上に覆いかぶさった。
「ミリアリアっ・・・!シホ!ミリアリアを頼む!キラっそっちは大丈夫だなっ!アスランっ!背後から援護してくれっ」
銃弾が飛び交う中、ディアッカは再びホルスターに手をかけると左腕に銃を持ち替えた。
運動神経が抜群によいカガリも銃を構えようよしたが、こちらはイザークに止められた。
「バカ者!一国の主が危険な真似をするんじゃないっ!その銃はこっちによこせっ!」
カガリから強引に銃を奪うとイザークはドレスの裾を引き破ってディアッカの前に出ようとした。
「バカっ!イザークおまえも伏せてろ!ラクスの名代なんだぞおまえは!」
「ええいうるさい!この状況でイザークだのエザリアだの関係ないわっ!貴様こそ・・・その腕で銃が撃てるのかっ」
「ああ?忘れたのかよ・・・」
ディアッカは暗視の中で敵の利き腕を正確に撃ち貫きながら大声で叫んだ。
「オレは両利きだっつーの!」
**********
補助電源が回復して、再び会場が明るくなると、ようやくオーブの警備隊がテロリストの殲滅に動き始めた。
「お前らっ行動が遅すぎるぞ!客人にケガを負わせて何がオーブの警備隊だっ!」
カガリが周囲を叱咤する中、キラとラクスはどうやら上手く逃れたなとディアッカは笑う。ミリアリアの傍にはシホがいてこちらもケガは無いようだ。
カガリの横にはアスランがしっかりついているから問題はない。そしてイザークも腕や足に掠り傷こそあるものの、大きなケガはしていない。
(ああ・・・みんな大丈夫だな・・・)
ディアッカはひと通り目を配ると出血のために薄れてゆく意識を何とか繋ぎ留めようとした。
(あいつの前で気ィ失ったらみっともねーよなぁ・・・)
目を閉じてクスリと笑う。至近から声が聞こえた。
「こんなときにカッコつけてどうすんのよディアッカ!このバカっ」
薄く目を明けるとミリアリアが心配そうにディアッカの顔を覗き込んでいるのがぼんやりと映った。
「そんな辛気くせー顔しなくていいぜー。どの道たいしたケガじゃないってーの!」
ディアッカはミリアリアの頬にそっと触れる。
(ははは・・・また泣かせちまったか・・・)
ミリアリアの頬に涙の筋を認めると、ディアッカは小さな声で囁いた。
「・・・ごめんな、いつも心配ばかりさせて・・・」
柔らかく微笑むとディアッカの意識はそのまま遠く霞んでいった・・・。
**********
───一週間後。
「ディアッカの容態はどうなんだ・・・?」
病院では絶対警護の中、カガリがエザリア(イザーク)に問い質す。
「ああ。出血こそ酷かったが・・・奴は元々身体機能を特化されたコーディネイターだし、自ら医学の心得もある。筋や神経を痛めているわけじゃないから半月もすれば退院出来るということだ」
エザリア(イザーク)の言葉にカガリは安堵し、改めてエザリア(イザーク)に握手を求めた。
「おまえ達が周囲の目を引き付けてくれている間にラクスやキラとは思う存分話が出来た。三ヵ月後の公式訪問には十分な回答が出せるだろう。こんな格好までさせたが・・・協力してくれて・・・本当にありがとうイザー・・・いや、エザリア」
誰が聞き耳を立てているか解からない。イザークは帰国までこのままエザリアとして過ごすことになってしまった。
「俺・・・いや、私達も明日、予定通り帰国の途に着くが、ディアッカの奴はまだ動かせない。すまんがこのまま完治するまで奴をを頼む・・・」
深々と頭を下げて礼をつくすエザリア(イザーク)の姿にカガリは慌てて言葉をかけた。
「勿論だ!それに頼むから頭を上げてくれ・・・!助けられたのは私達の方じゃないか・・・!」
「おまえは一国の主だ。ナチュラルとコーディネイターの大事な架け橋なのだから守るのは当然のことだ」
「・・・それだけか・・・?」
暫しの沈黙の後にエザリア(イザーク)は言った。
「・・・それに・・・大切な仲間だしな・・・」
真っ赤になって俯いてしまったエザリア(イザーク)に向かってカガリはカラカラと朗らかに笑った。
「何にしてもディアッカの傍には最高の看護士をつけてある。文句を言ったら速攻でプラントに送り返してやるよ」
「・・・あれからずっと・・・ハウは奴の傍にいるのか・・・」
「ディアッカが何度も追い返してはいるが・・・あの勝気で意地っ張りのミリアリアだ。奴の言うことなど聞くわけが無いさ」
「・・・だな」
二人は顔を見合わせて微笑むと、ディアッカの病室の扉を眺めやった。
**********
「オレはもう大丈夫だからいいかげんに家に帰れ!ミリアリアっ!」
「ってどこが大丈夫なのよっ!右肩撃ち抜かれて出血多量になるくらい重症だったのよあんたはっ!」
「だからもう大丈夫だって言ってんだよっ!」
まったく・・・相変わらず男心が解からない女だとディアッカは思う。
看護してくれるのは嬉しいがそれは病気の時だけだ。好きな女の前で・・・それも彼女を庇ってケガをしたのならいいが、庇った相手はカガリとエザリア(イザーク)なのだ。ミリアリアを庇うことも出来ずに被弾するなんて恋人(自称)としてサイテーじゃんよ?っと己を責める男の気持ちがミリアリアには解からないのかとディアッカは思う。
無様な姿なんて好きな女に見せたくないのに・・・。
そしてミリアリアはミリアリアでこのバカ男はどうして女心が解からないのかと首を傾げる。
ディアッカは職業軍人なのだ。それも今回は要人の警護隊長として正式な任務に就いている以上要人を庇うのは当然のことだ。それにミリアリアはちゃんと解かっていた。
あの時・・・。
『ミリアリアっ・・・!シホっ!ミリアリアを頼む!』
ディアッカは他の誰よりも先にミリアリアの名前を呼んだ。
無意識だったに違いないが、あれこそが彼の本音だったとミリアリアは思う。
いつもそうだ。目の前の男はどこまでも素直じゃない。
「はいはい・・・これであんたも機嫌直してちょうだいね」
ミリアリアは低く屈むとディアッカの唇にCHU♪と可愛いキスをした。
(・・・・・・?)
一瞬のことで何があったのか理解出来なかった(訳などないが)ディアッカは丸く目を見開いた。
(へ・・・ミリアリアのほうから・・・これってやっぱり・・・キス・・・だよな・・・?)
俄かに嬉しさがこみ上げてきたディアッカは平然と、そして当然のように言葉を紡ぐ。
「今何したのおまえ。よく解からなかったから・・・もう一度やって」
ミリアリアは頬を染めてディアッカに言う。
「嘘つくんじゃないわよあんた!ちゃんと解かって言ってるんでしょう!」
「えー・・・あんなのキスって言わないぜ?キスってのはもっとこう・・・」
いきなグイッっとミリアリアを引き寄せたかと思うと大怪我をしているはずの男は自らの唇を彼女に重ねた。
今度は長く・・・そしてもっと甘く・・・。
所詮ふたりの仲は「雨振って地固まる」もとい「瓢箪から駒」
バカンスはこれから。濡れ場もここから・・・。
**********
───追記。
この事件はオーブ、プラントの両国で大きく取り上げられた。
記事と一所に掲載された一枚の写真。
それはディアッカが、エザリア(イザーク)とカガリを、そしてエザリア(イザーク)もまたカガリを庇って銃を構える姿であった。ドレスの裾を引き破り、太腿まで露わにしてまでカガリを守るエザリア(イザーク)の姿は各方面から賞賛され、プラント、オーブの両国間で『絵座利亜倶楽部』なるファンクラブが正式に発足して大変な騒ぎとなっている。
そして、このスクープ写真を撮影した人物は『ミリアリア・ハウ』という報道カメラマンであったこともここに特に明記しておく。
流石は報道カメラマン!
あの修羅場でもしっかり写真を撮っておいたあたり、彼女こそ「プロ」の鏡だろう。
(と言うよりちゃっかりしてんだよあいつは・・・!)
と、後日、ディアッカが周囲にそう洩らしたというが、真偽のほどは定かではない。
(2007.4.16) 空
※ ようやく後編をお届けします。やっぱ@管理人は危ない頭の主です(笑
素敵なギャグのキリリクを書いてくださったトモさま!この話は貴女様に捧げます(でも即返品だー!)
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