タンゴ!チーク!ワルツ!
「何よこれ・・・ダンスミュージック大全集・・・?」
AAの倉庫を片付けていたミリアリアの眼にしたもの・・・
それは1枚のディスク───。
なんでこんな物が宇宙戦艦の中にあるのかナゾだが、見ればちょっとおもしろそうだ。
「何があったって?」
ミリアリアの声にディアッカがどうしたのかと声を掛けた。
「へえ・・・また妙なもの見つけたもんだな」
傍らで探し物をしていたディアッカが呆れ返ってミリアリアの手からディスクを取った。
「いろいろ収録されてるみたいよ・・・タンゴ、ディスコダンス、チーク、ワルツ・・・こんなの踊れたらカッコイイわよね!一度ナマで踊ってるの見てみたいな〜」
ディアッカの瞳がキラッと輝く。
「オレ踊り全般オールOKだけど・・・」
「ウソつくんじゃないわよ!あんた踊り・・・っていうよりケンカの方が性に合っていそうじゃない?」
「え〜!ホントだってばぁ〜これでも日本舞踊の師範代だしぃ〜オレ何でもイケるんだぜ?」
「信用できません!」
なぁんて冷たい彼女のひと言に・・・
「よ〜し!踊れたらオレとデートしろよ!」
と、傍らの男は突拍子のないことを言い出した。
「いいわよ?踊れたらの話だけれど!」
(ぬけぬけと何をほざいてるのよっこのオトコは!)
ミリアリアは、ディアッカの言葉などもう、はなから信用なんかしていない。
「じゃ、決まりだね!ディアッカに踊って見せて貰おうよ!」
ここでキラの登場。
いつからいたのか、まったく気配を感じさせないキラに驚きながらも「そ〜そ〜!見せてあげるからぁ〜!オレの華麗なステップを!」などと周囲を煽るディアッカは本当に強引。
「あはは・・・」
腕を掴まれズルズルと連れて行かれるミリアリアの後ろでキラが笑った。
───ホールでエルスマンがダンス踊るってよ・・・
なに!アイツそんなことも出来るのかよ〜!
タンゴもディスコもイケるらしいぜ?
うわ〜ありえねえよなぁ〜
・・・で、全部踊れたら、ハウがデートしてくれるって約束だとさ。
そりゃ〜燃えるわアイツ。 ───本当に噂は勝手なものだ。
ホールはシフトのない連中で賑わっていた。
クサナギやエターナルからもギャラリーが集まっていて、
ラクスが「衣装が必要ですわね・・・」と、それは見事なタキシードを持って来たらしい。
カガリはアスランと一緒に「ディアッカってマジで踊れるのか」と興味津々。
マリューとムウも「笑ってやろうぜ〜!」と待ち構えている。
サイはキラと、隣にいるミリアリアに
「ねえ、ミリィ本当にディアッカとデートの約束なんてしたの?」と心配顔だ。
「踊れたらの話よ!どうせ無理に決まってるじゃない・・・!」
最初からムリだと決めつけているミリアリアだが(でも万が一・・・)ねえ・・・。
レディース&ジェントルメン!!
本日はお忙しい中ご来場頂きまして誠にありがとうございます!
本日のメインイベント!ディアッカ=エルスマンのダンスショーの始まりだ〜!
なお、本日の司会はわたくし、ダリダ・ローラハ=チャンドラ2世がお届けします〜ヨロシクゥ!
Come On!Let's GO! Elthman〜!!
───最初に流れてきたのはディスコナンバー。耳をつんざく様な大音響だ。
そして、続いて登場した男のタキシード姿に一同みな唖然としてしまった。
金のくせ毛を見事に撫で付け、シルバーグレーのタキシードを実に良く着こなしている。
滲みだす男の色気に、シャラシャラと鳴るブレスレット・・・軽い!軽過ぎる!
「ひとつ間違えれば・・・ホストだコイツ・・・!」
まさしく、紙一重のところで品位を保っている。多分これはわざとで、
本当は、気品溢れる振舞なんて朝飯前の男だろう。やってくれる。
ディアッカはバック転を3回華麗に決めたあと、ミリアリアのところにやって来て
「ハイ!ミリアリア!約束は憶えているよな〜!良く見てろよ!」
・・・と、実に見事にステップを踏み出した。
何気ない動きにも眼が吸い寄せられる。
端麗な容姿とあいまって要所要所がキチンと決まる。
(本当に・・・これがあのディアッカ?)
彼女じゃなくてもそう思うだろう。
いつもの軽薄で浮ついた感のある態度は微塵もなく、ここにいるのは芸能人もビックリの彼。
次々と曲がかかっていく。ブレイクダンスまで踊れてしまうのにはもう驚きのひと言である。
かなりハードな筈なのに息ひとつ乱れていないのはさすがで、誰もが溜息を付く有様。
───次の曲は・・・タンゴ・アルゼンチーノ・・・タンゴの王道である。
「誰か・・・相手してくれない?」 ひとりでタンゴはムリというもの。
「それじゃぁ私が」と、マリューの声がホールに響いた。
「それはどうも♪ラミアス艦長、ではこちらへ」
そういうディアッカのエスコートは実にスマートで、上流階級の出身だと納得できるものがある。
「貴方にいい顔ばかりさせられないから・・・覚悟はいいかしら 」
「お望みのままに・・・レイディ」
紫の瞳が妖しく光る。
曲が始まった。難しいステップだが、難なく2人はこなしてゆく。
「やるわねディアッカ君。見事なものだわ」
「お褒めに預かり光栄の至り・・・でも、まだまだですケド?」
いきなりディアッカはステップを変化させた。
「なっ・・・・なに・・・?」
マリューの足の間にディアッカは自分の足を滑り込ませる。官能のステップ。
身体を密着させてなおも足をからめだす。マリューはついて行くのがやっとだ。
ギャラリーは息を呑んで2人を見つめている。これは・・・エロい!エロ過ぎる!
マリューの顔はこころなしか赤く、瞳が潤んでいるのが遠目でもわかる。
タンゴのあとにすかさずチークダンスになった。
「艦長ゴメンね。もう少しオレに付き合ってくれる?」
更に身体を密着させて、耳元にキスをした。そして艶のある声で・・・
「今度オレと踊る時は胸のウンと開いたドレスでお願い・・・」そう言ってクククと笑った。
マリューは何も答えられない。眼つきがもうイってしまっている。エロい!エロ過ぎる!
そんなディアッカを見て(アイツ相当場数踏んでいるぜ・・・)
などと、ヒソヒソと話し声が漏れる。
ようやく曲が終った。
だが・・・マリューは腰までイってしまって立ち上がれない。
しょうがないね・・・とディアッカが抱き上げ、マリューの頬にフレンチ・キスをする。
それを見てムウ逆上。怒髪点をつくほどのブっちギレ。
「この・・・・!エロガキ!オレのマリューに何をするんだあああああああっ!」
「な〜にいってんの?おっさんひとつ貸しね。今晩はお楽しみだと思うケド?」
ニヤリと笑ってウインクを決めるなんて黒い!黒過ぎる!ディアッカ!
やがてそっとディアッカはラクスにサインを送る。
ラクスは頷くとカガリと2人で動きだした。
ミリアリアは呆然とディアッカを見つめていた。
(なんなの・・・コイツ本当に何でもありなワケ?)
・・・悔しいけれどディアッカは華麗だった。
しかし・・・・あのイヤラシイ態度はどうだろう。
横ではロメロが鼻血を出している。男ばかりのAAには刺激が強すぎるというものだ。
「ミリアリアさん、ちょっとこちらにいらして頂けませんか?」
いつの間にかラクスがミリアリアの傍にすうっと寄って来ていた。
隣にはカガリの姿もある。笑っている。それも悪戯っぽく。
「は・・・あ」
訝しげにふたりを見返すミリアリアの手を引くと、ラクスとカガリは強引にミリアリアを連れ出した。
それを合図にチャンドラは周囲からの注意を自分に向ける。
「ちょっとアクシデントが発生したので、15分休憩だよ!15分後に再開するからそれまで飲み物でも飲んでくつろいでくれたまえ!OK?」
ノリノリのダリダ・ローラハ・チャンドラ2世・・・24歳彼女なし。
───ちょっと待って下さい!ラクスさん!
よろしいではないですか・・・
そうだよミリアリア!アイツもきっと喜ぶって!保障するよ。
とにかく時間がありませんから・・・急ぎましょう。
15分の後、ラクスとカガリは息をきらせて再び会場へと現れた。
「お待たせ致しましたわ皆様、ようやく仕度が整いましたの」
「ディアッカ!ほら!見てみろよ!」
(どれどれ・・・?)
微笑むディアッカの眼の前にいるのは・・・。
淡いオレンジ色のシフォンのドレスに身を包んだミリアリアの姿。
(へえ・・・カワイイじゃん!)
これはディアッカだけではなく、周囲の人間が皆一様に思ったことだ。
チャンドラは再びマイクを握ると、甲高い声でアナウンス。
「さて・・・本日のラストダンスはエルスマン!お相手は君におまかせだぜ!」
その言葉を受けてディアッカが近づいてくる。
「ミリアリア、どうぞお手を私に」
これは正式な申し込みである。
「あっ・・・あの・・・私は・・・」
「いいから。ラストダンスは本命と踊るものだって」
躊躇するミリアリアを他所に音楽が始まった。これは・・・白鳥の湖のワルツである。
「リードするからオレについて来いよ」
どうしたことか、いつにも増してディアッカの瞳が優しいのにミリアリアは戸惑う。
あまり上手く踊れないミリアリアだが、ディアッカは巧みにそれをリードする。
───どう?オレちゃんと踊れたでしょ?少しは見直してくれた?
わかったわよ・・・約束は守るから心配しなくてもいいわよ。
今日は素直じゃん?いつもこれ位素直だとオレとしては嬉しいんだけどね・・・。
今日だけよっ!
はいはい・・・気の強いお姫様だねぇほんと。
これは小さい頃読んだ童話の世界そのもの。
世にも美しい王子様と2人、踊り続ける物語。
今、眼の前にいるのは王子様の様な美貌のコーディネイター。
ミリアリアは知っている。この男がとても綺麗で人を惹きつける魅力に溢れているという事を。
やっと曲が終った。周囲から冷やかしの声が上がる。
途端、ミリアリアはディアッカからスッと離れる。
「ごめんね・・・ちょっと疲れたみたいだからデートはあとでもいい?」
「残念だけどまあ、いいよ」
「ありがと・・・それじゃ私行くから・・・」
「部屋まで送るよ」というディアッカの申し出を丁重に断り、ミリアリアはホールを足早に後にした。
周囲にすっかりなじんだ彼がいる。まるで昔からAAに居るかのように。
この端正な男にいつも付き纏われている自分がとても悲しくて。
からかわれているのがあまりにも惨めでミリアリアは眼を閉じた。
噂が流れている。ディアッカがAAに戻ってきた理由。
ナチュラル女のハウが物珍しくて酷いことを言ってカラかって、オマケに興味をもってしまい戻ってきたのだと。
そんな冗談は止めて欲しい。ありえないから。
彼には故郷がある。愛する人もいるだろう遠いプラント。
もし生き残れたらその人のところに彼を帰してあげたい。
ミリアリアは、ふと立ち止まって自分の姿をガラスに映す。
(・・・こんなドレス全然似合ってないじゃない・・・)
ラクスやカガリが着たならばどんなに綺麗で華やかだろう。
美しいコーディネイターのディアッカに、あの2人なら見劣りなどしない。
気が付けば涙が頬を伝う。
シンデレラの魔法など初めからないのだ。
あのワルツは虚構の世界。
美しいコーディネイターのアイツと同じ。
───どうしてこんなに涙が溢れてくるのかミリアリアにはわからなかった。
(2004.9・10) (2005・4・26 改稿) 空
※ 本当はこれはバカ話だったのですが、ワルツのあとから書き直しました。
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