素敵な聖なる夜だからこそ・・・









2度目の大戦も終結して、私はディアッカとの再会を果たした。
しかし暫く逢わないうちに・・・こいつはなんて大人っぽくなったのだろう。
だいたい何よ!この身長!
私の目線の位置がこいつの胸だなんて!
180センチオーバーだなんて・・・ますます会話しづらいじゃないの。

「どう?イイ男になっただろ?」

カフェテラスでテーブルを囲みながらいけしゃあしゃあとこいつは言う。

「勝手に思い込んでなさい・・・」

毎度逢うたび繰り返されるお決まりのセリフ。

「いいかげんこのあたりで妥協してさ?もう1度オレとお付き合いしない?」

「速攻却下。あんたに妥協してどうするのよ」

「そんな意地張っているとさぁ・・・せっかくのチャンスも逃しちまうぜ?だからほら!『Yes!Dearka』って言ってみろよ・・・」

「ごめん。もう私あんたのことなんて振っちゃったのよ?今更ウソはつけないわ」

「そう?本当にウソついてないの?」

「ついてません!だいたい・・・なんで私があんたにウソつかなきゃいけないのよっ・・・あんたなんか大嫌いなのっ」



「・・・・・・」



(あ・・・)




いきなり黙りこくってしまったディアッカの顔を凝視する。ちょっと言い過ぎたかな・・・。


「あ・・・ディアッカ・・・その・・・『大嫌い』は言い過ぎだったわ・・・ごめんなさい・・・」

「・・・傷ついたな」

「・・・え?」

「傷ついたって言ってるのさ。あ〜あ!どうしてオレはこんな冷たいオンナのことが忘れられないんだろうねえ・・・」

「・・・・・・」

「ま、いいや。オレ帰るからさ?またそのうち気が向いたら連絡するわ」

「・・・・・・」

ディアッカは席を立つと会計を済ませ、店の外へと消えて行った。






(うそつき・・・)






だって知っているのよ。

今だ絶えることの無い見合い話だって。
綺麗なコーディネイターのモデルとの浮いたウワサだって。
本気で私のことなんか・・・好きでもないのにそんなウソはやめてほしい。
お願いだから。気まぐれで私を思い出すのはもうこれきりにして。

冷めたコーヒーを飲み干してテラスを出ればもう外は冷たい冬の星空。
コツコツと石畳の上を歩いてゆくと・・・流れる曲はグローリア。

(・・・今日はクリスマス・イブだったのよね・・・)

本当は聖なる夜にディアッカと再会できて嬉しかった。
もっといろいろな話をふたりでしたかった。
だから・・・連絡をもらったときは心が弾んだ。

でもね・・・ディアッカ。あんたは解っているのかしらね・・・。
妥協してオレと付き合えって・・・妥協するのはディアッカの方でしょう?

行き止まりにぶつかった。

そうよ。あんたはどんどん綺麗になっていくの。
好きと云われても振り向けないの。
こんな素敵な聖なる夜に『Yes』なんて云えないわ・・・。
あんたがいなくなって・・・誰も見ていない行き止まりの路地に立ってはじめてこうして私は泣ける。







───だから・・・おまえは意地っ張りの嘘つきだっていうんだよ。






不意に背後から声が聞こえた。

「どこから湧いて出たのよあんた・・・」

「ひっで〜の!こんな浮ついた危ない巷に恋人を置き去りには出来ないでしょう?」

「用がないなら帰ってくれない?私だってヒマじゃないわ!」

「用があるならいいんだろ?」

「・・・じゃ、とっとと済ませて帰りなさいよっ!」

「うん。そのつもり。だからおまえコッチ向いてくれないか?」

「嫌よ!あんたの顔なんて見たくもないし」

「ふうん〜。でもさオレはおまえの顔が見たいんだよね」

(・・・・・・!)



言い終わる前に・・・背中から伝わる温もりと吐息。そして回された腕。

「ほら・・・帰ろう。せっかくコネ使いまくってイブにホテルの予約取ったんだぜ?」

力づくで強引に前を向かせるとディアッカは私を強く抱いた。





だいたい何よ!この身長!
私の目線の位置がこいつの胸だなんて!
180センチオーバーだなんて・・・ますます会話しづらいじゃないの。




だから・・・振り向けないのよ。
もう振り向いてもあんたの顔が見えないから。
捕まったら最後・・・その胸に抱きこまれたら今度こそ『YES』と云ってしまいそうだったから。










耳元でカギがチャラチャラ鳴った。










オレがおまえのことをどんなに恋焦がれていたのか解らせるまで放さない・・・。











 (2005.12.23) 空

 ※ せっかくのクリスマスなので即興で甘いお話を書いてみました(笑)

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