ここは南海の至宝・オーブ連合共和国。
プラントとの戦いも最早過去のものとなり、それなりに日々平和でございます。
しかし・・・戦争というものが存在しなくなると、縮小を余儀なくされるものが軍隊でして、それはオーブとて同じこと。
ええ、勿論戦争なんて無いほうが良いに決まっています。
ですが国家の一大事に備え、軍隊そのものを無くすわけにはいきません。
かといって、ただ存続させておくのは宝の持ち腐れにも等しい行為。
現国家首席代表首長であるカガリ・ユラ・アスハ様は日夜、軍隊の在り方を模索しておりましたが、そんな折り、かのプラント最高評議会議長のラクス・クライン嬢より耳寄りなお話が飛び込んできたのでございます。

「この度、ZAFTでは、アスランやイザーク、そしてニコルが中心となりまして元の赤服のメンバーで構成されたザフトレンジャーと申します組織が発足いたしましたの。そして日夜プラントの国民の皆様の為に尽力しておりますのよ」

艶然とした笑みを浮かべるラクス嬢の裏に黒い陽炎のようなものが立ち込めており、カガリ様は何とかしないとラクス嬢に負ける!などと頭から思い込んでしまいます。そこでトダカ氏亡き後、今ではオーブ軍の至宝と称えられるキサカ(一佐?あれ三佐だっけ?)にプラントでは「ZAFTレンジャー」というボランティア団体(ってちょっと待て!いつからそうなったんだ?)が発足したということを話し、オーブ軍にも出来ないものかと相談したのでございます。

そりゃぁもうキサカ氏は苦言を呈します。

「カガリ様、左様な組織はプラントには必要かも知れませんが・・・我がオーブ軍には不用のものかと存じます」

キサカ氏はごくごく一般的(というより当然)な意見を述べて遠まわしに話題を逸らそうとしまではよかったのですが、運の悪いことにその場の映像パネルはプラントのZAFTレンジャーについて大々的に宣伝をしているばかりでなく、オーブに残留してカガリ様と恋仲である筈のアスランの姿までも映し出してしまいました。
オーブの代表首長となって多忙を極めるカガリ様ですから・・・アスランがプラントに帰国していたということは本当に「寝耳に水」だったのでございます。
当然カガリ様は『どうしてこんな奴がここにいるんだ!(ってこれはミリアリアのセリフじゃん!)』っと叫びまくってキサカ氏をすっかり困惑させてしまいました。

「畜生!我がオーブ軍も絶対オーブレンジャーを作るんだいっ!作るんだったら作るんだいっ!」

茹で蛸のように顔を紅くしてカガリ様は叫び続けます。
こうなったカガリ様がもう手がつけられないことはキサカ氏にもよ〜く分かっておりました。
しかしキサカ氏は自他共に認めるオーブ軍の重鎮、ここでカガリ様の我が儘に振り回されるわけにはいかないのです。

「カガリ様!そんなことよりも来期の国会に向けて今から準備を・・・」

と、キサカ氏が言いかけたそこに、運悪くひとりの青年がドアを荒々しく開けて颯爽と入って来たではありませんか!

「やぁ!久しぶりだねカガリ、元気だった?」

と、爽やかな笑顔の裏にも不穏な空気を纏わりつけた青年はなんとラクス嬢を追ってプラントに渡った筈のキラ・ヤマトそのひとだったのでございます。

「キラ!いつプラントから帰国したんだ!私に便りのひとことも無く・・・心配していたんだぞ!」

などと恨みがましくキラを詰るカガリ様でしたが、「肉親よりも恋人が優先」とは今も昔も変わりません。
キラとラクス・クライン嬢との仲は傍で見ている方がもう恥ずかしくなるほどの熱愛ぶりに加え、自分だってアスラン♪とラブラブだったのでございますから・・・要するにお互い「便りが無いのは元気な証拠」という言葉を実践していただけに過ぎません。

「うん。ラクスが『たまにはカガリさんにも元気な姿をお見せになられたよろしいですわ♪』と言ってシャトルを用意してくれたんだ。それよりもオーブレンジャーの件だけれど・・・とても良い案じゃない?ZAFTでは赤服を着用していた者達で構成されているんだから・・・オーブだってそれに倣うべきだと僕もそう思うよ」

「ですがキラ様!」

キサカ氏はキラに抗議したものの、相手は最高最強のコーディネイターであるばかりでなく、プラント最高評議会議長の彼氏でございますればどうして太刀打ちなぞできるでしょう。

「ラクスからもたらされた情報によると、ZAFTレンジャーは赤、青、緑、ピンク、黄色のコスチュームを着用する5名から成り立っているそうだよ。これはAD世紀に東アジア共和国の日本で大流行したヒーロードラマをモチーフにしたんだっていう話だからオーブもそれに倣うといいよ」

ZAFTレンジャーの内情に妙に詳しいキラをキサカは胡散臭く睨みすえました。まったくとんでもないお話でございます。

「ですがキラ様!そう申されましても簡単に発足できるような団体ではございません。ここは幕僚会議を開きまして慎重に討議するのがよろしいかと私は存じますが」

もっともなキサカ氏の進言です。
しかしキラもそう簡単には引き下がりません。

「うん、実は僕もそう思ったんだよ。だからキサカさんには悪いけれど、オーブレンジャーの選定はもうこちらで済ませてあるんだ」

しれっとした顔で微笑むキラの瞳はキラキラと輝いています(うわぁ・・めっさ寒いシャレだと思ったそこの貴女様、人生には不本意なことも多数存在するものだとご容赦下さい)
そんなキラの言葉を受けてカガリ様は狂気乱舞いたします。

「本当かキラ!でそのメンバーには一体誰を当てるんだ?」

「もうちゃんと呼んであるよカガリ。

ニコニコと人好きのする笑顔を周囲に向けながらキラは傍らのドアを開けました。

「入ってきてくれる?」

そうキラに案内されて数名が不安そうな顔色を隠そうともせずに姿を現しました。

「ああっ!おまえらかぁ!」

「カガリさまの喜びようは言うまでもございません。
なにしろキラに案内された面々は皆、元はオーブの、いや人類存亡の為に命を懸けて戦った者なのでございます。
ああ、もうまわりくどい説明ははここらでやめておきましょう。
カガリ様の前に姿を現したのは「ミリアリア・ハウ」そして「サイ・アーガイル」だったのでございますから───。








負けるな!オーブレンジャー!(約1名不在出張中)







───キラ、一体これはどういうことなんだ?

今、目の前で繰り広げられている事態がよく理解出来ていないサイがそう訪ねました。

「そうよ!私たちはいきなり行政府の車に乗せられたんだから!」

横にいるミリアリアも困った顔をしています。
そうなんですよ奥さん!実はこの二人、何の説明も無いままに突然現れたキラに拉致されるが如くオーブの行政府まで連れてこられたのでございます。

「サイもミリィもプラントにザフトレンジャーが発足されたという話は隣の部屋で聞いていたでしょう?それに対抗する訳じゃぁないんだけれど、今度オーブでも同様のボランティア団体を発足させることになったんだよ。で、そのメンバーに君たち二人を加えたいと思ってこうして来てもらったんだ」

またもニコニコと微笑ながらキラは話を続けます。

「ふたりともオーブ国籍の人間なんだし、サイは軍属としてオーブ軍に所属していたこともあるでしょう(ってあれは地球軍だったような気がするんだけれど?まあいいや細かいことは置いといて〜)ミリィは今、オーブ軍に所軍している正式な軍人なんだもの、喜んでこの計画に参加してくれるよね?」

一応問いかけの形はとってあるものの、キラの言葉には有無を言わせぬだけの強い決意が込められておりまして、ふたりは更に困惑します。

「ちょっと待ってよキラ!私は確かに軍人だったけれどそれはもう過去の話でしょう?それにカメラマンの仕事があるんだからオーブレンジャーになんてとてもじゃないけど参加なんて出来ないわ!」

そうです。冗談じゃございません。これでも自分はもう独立して仕事を持つ身の上だとミリアリアは激しく抗議します。

「あれ?ミリィ知らないの?君の身分はまだオーブ軍の軍属なんだよ。だって除隊願受理されていないんだもの」

このときのキラの微笑みはまるで天使の姿を借りた悪魔そのものでございました。

「だからっていきなりこんな話持ち出されても困るわよ!」

流石は気の強いミリアリアでございます。この気の強さに現在プラント在住の某コーディネイターの色黒少年などは散々手をやいたことはまだ記憶にございましょう。しかし、そこは完全無欠のコーディネイター、キラ・ヤマト。

「ザフトレンジャーでは5色のコスチュームがあるんだって。まず赤、これは隊長色なんだって。でもって青、そして黄色、緑、ピンク。ピンクは女の子が着ることになっているそうだからこれはもうミリィでいいよね」

「だからキラ!その話はちょっと待ってって言ってるじゃない」

キラとミリアリアの一挙に険悪になりかけたその時、歴史は・・・いやカガリ様は厳かに動きました。

「オーブ代表首長、そして全軍の総帥(え?そうなの?)としてカガリ・ユラ・アスハの名においてミリアリア・ハウ及びサイ・アーガイルの両名に命じる。これはオーブの国民としての崇高な使命である。よってミリアリア・ハウはオーブピンクとなって国家の安定の為に働くように」

「そんなぁ!」

「反論は許さない!そしてサイ・アーガイル、お前は・・・そうだな、オーブイエローとして縁の下の力持ちに徹して欲しい。私もヒーロードラマを検証してみたのだが(って何時そんな時間あったんだ?)、黄色というポジションは気は優しくて力持ちというのが定説だからきっとお前には相応しいに違いない」

カガリ様はすかさずサイにも通告します。
しかし、いかに国家代表首長の話と言えど、「はい、そうですか」などと簡単に返事も出来ません。無論サイも反論します。

「アスハ代表、俺・・・いや私は軍人ではありませんよ。オーブレンジャーとやらに参加する資格など私は持ち合わせていないと思うのですが」

ほほう!成る程そうきたか!確かにサイは彼が主張するとおりもう軍属ではございません。しかし、そんなことはもうあのキラ・ヤマトなればもうとっくに予測済みの範疇です。

「ねぇサイ。向こうのザフトレンジャーは『元』赤服のメンバーで構成されているんだよ?だったら『元』軍属の君にだって資格は充分あるじゃない?」

人知れず「種割れ」でもしてるんじゃないかと思うくらい、キラの顔は紅潮しています。
すかさずカガリも口添えします。

「先程通達したようにこれは代表首長、そして全軍の総帥たる私からの命令だ!反論は許さん!」

流石は宇宙最強の双子の姉弟。知力と権力(うわぁ・・・)をもってミリアリアとサイの言葉を封じ込めてしまいました。

「向こうではアスランとイザークが赤のポジションを争っているらしいけれど・・・現在のところはアスランが赤を着ているんだって、そういう訳でイザークは青を着てるそうだよ。だもの赤はカガリでいいよ。僕は青の方で構わないよ」

「本当かキラ!私が赤を着てもいいのか!」

「カガリは僕の姉さんなんだから当然でしょう?」

サイやミリアリアやキサカ氏の存在も他所に話はどんどん進んでいきます。

(あれ・・・?)

ここで聡明なサイは妙なことに気付きました。

赤がカガリ様、青はキラ、自分が黄色でミリアリアがピンクだとすると・・・あれ?メンバーがひとり足りません。
そうです。赤がカガリ様、青がキラ、黄色がサイでピンクがミリアリアだというのなら残る緑はいったい誰が着るというのでしょう。

「ねぇ・・・ところで緑って誰が着るの?」

キラはサイの質問に待ってましたとばかりに、ニタ〜リと笑いました。

「緑はねぇ・・・僕の予測だとミリィがいればきっと向こうから来てくれるよ。実際この間まで緑の軍服を着ていた彼だし・・・」

そう呟くキラの後ろに何やら黒い陽炎のようなものが立ち込めております。ええ、それはもう先程のラクス・クライン嬢の比なんかではございません。その様子にミリアリアの顔色がみるみる青ざめていきました。

「・・・まさかと思うけれど・・・まさかあいつじゃぁないわよね・・・」

何故ならキラの言う「向こうから来てくれる」そして「ついこの間まで緑の軍服を着ていた」という人物にミリアリアはひとりだけ心当たりがあったからです。

「冗談じゃないわよっ!あいつはザフトのメンバーなんでしょっ!オーブなんかとは無関係・・・」

と、そこまで言いかけてミリアリアは口を閉ざしてしまいました。
そう、そうだったのです!確か彼は一時期オーブのジャケットを着用してAAに乗艦しオーブ艦艇と共に戦っていた経験がございました。サイ・アーガイルが黄色のコスチュームを着用する資格があると申すならば・・・当然彼も緑を着てオーブレンジャーに参加する資格があるというものです。
その事実にミリアリアは愕然としてしまいました。

「ぜっ・・・絶対イヤぁ〜っ!!」

ミリアリアの悲鳴が辺りに木霊します。しかもリフレイン付きでございます。
なのにキラはそんなミリアリアの悲鳴を無視してカガリ様に向き直りました。

「これで全て決まったね。さぁカガリ!急いで準備を始めなくちゃ」

**********







いそいそと嬉しそうに準備を進めるキラやカガリの姿を無言で見つめていたサイ。彼はやはり聡明です。
これまでの一連の会話から、オーブレンジャー発足の裏には何かあったに違いないとその場の空気を鋭く読み取ってしまいました。

まず、ザフトレンジャーはザフトの元赤服で構成されているとキラは言っておりました。
そこでサイは気付きます。
・・・ということは『オーブ陣営に居たキラにはザフトレンジャーに参加する資格が無い』という事実。
キラにいたく同情したラクス嬢でもルールを無視してキラをザフトレンジャーに加入させることは出来ません。
評議会議長なる者が公私混同(って今更何言ってんだか〜)など行なう訳にはいかないのです。
更に実にピンポイントなタイミングでアスランがオーブから帰国してきました。
これはアスハ代表があまりにも多忙を極めており、最近ろくに会話する時間が取れなかったことにおそらくアスランが拗ねてしまったものとみられます。
そこでイザーク、もしくはニコルが言葉巧みにアスランを引きずり込んだのでございましょう。
アスランとしてもここでカガリ様に自分の存在をアピールしておかないと・・・という危機感に苛まれ、ザフトレンジャーに入隊したのだと思われます。
普段は温和なキラ・ヤマトでございますが実はこういう人物こそブチ切れした時が恐怖なのです。
そんな彼を恋人にして連れ添ってきたラクス嬢なれば、ここは何としてもキラの種割れ・・・もといブチ切れを回避しなくてはと苦渋の決断を下したのでございましょう。
それが『里帰りと称してキラをオーブに帰すこと』
更にはそこで『オーブレンジャーなる隊を発足させる』ように上手くキラを諭したのだと思われます。

つまりオーブ代表首長であるカガリ様はそうしたラクス嬢の魂胆にウマウマと乗せられたのでございます。
それを思ってサイはもうそれは大きな溜息をついて観念いたしました。
宇宙を手にお入れください・・・じゃなくてもう既に手が届いている御方がたに何を言っても無駄というもの。

しかし・・・まだ問題は残ります。

キラはどうして『自分は青で良い』と自ら宣言したのでございましょう。
隊のリーダー格は『赤』を着用するというのにもかかわらず・・・ですよ?

これは直接キラ・ヤマト本人の考えを参照するがよろしかろうと思います。

『アスランもイザークも読みが浅いんだよね・・・。
ほら昔から言うじゃない?高貴な血筋をブルー・ブラッドって。
ボクシングだってチャンピオンコーナーは青だもの。
それにお茶の間のご婦人方から人気があるのは何も赤とは限らないよ?
青いコスチュームを着けるのは大抵機動力ではNo.1の若手(それもイケメン)だってちょっと考えれば判りそうなものだと思うんだけどな・・・僕』


───名よりも実を取ったあたり、流石キラ・ヤマトはスーパーコーディネイターでございます。黒いわホント。


でも、これでオーブレンジャーは一応の体制を整えたことになりましょう。

さあ!皆さん!オーブレンジャーの活躍に期待しようではありませんか!
カガリ様が赤を着ればアスランとはペアルック!ジャスティスも赤だしストライクルージュ(って今もあるのか?)も赤い機体でございます。
それに・・・たとえ『緑』が不在でも、あいつはきっとやって来ます。
ミリアリアの噂(ピンクコスチューム着用)を聞けば彼は休暇と称してどんな手を使ってでも必ずオーブにやって来ます。
ザフトレンジャーとオーブレンジャーとの板挟みになったとしても彼なら間違いなく『彼女』を選ぶことでしょう。
その結果今度はザフトレンジャーに捕まってボコられても彼は意にも介さないに決まってます。

頑張れオーブレンジャー!
まだ何の活躍もしていないけれど・・・とにかく頑張れオーブレンジャー!
サイ・アーガイルやミリアリア・ハウにその気がなくとも地球はぐるぐる回っています。

いったいどうなるこの話!でもそんなの関係なぁ〜い!(繰り返し)


とにかく頑張れ我らがオーブレンジャー!

世界は君たちを待っているのだから(ってそんな訳ねぇっつ〜の!)





     (2007.11.24) 空

    やっちまっただよ奥さん・・・。


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