雨に紛れて・・・ special! 『 M 』の主張
激しい雨はまだ降り続いている。
雨にうたれた事に加えて、結局朝までディアッカに抱かれていた身体は無理が祟ったらしく熱を出してしまった。
もうやめて・・・と何度も懇願したのにディアッカは抱くのをやめてくれなかった。
コーディネイターの男は皆、あんな風に女を抱くのかと本気で考えてしまった自分が少し恥ずかしいけれど。
それ程ディアッカの求め方は激しかった。何度も気を失いかけてはその都度彼に呼び起こされた。ひどい男。
私はただ肌を合わせて抱き合っているだけでも幸せな気持ちになれるのに・・・これが男と女の違いなの?
『待っていてくれる』と言った言葉が『もう待てない』にすり替えられてしまったようで・・・私は怖くなった。
耳元で何度も何度も囁かれた『オレを忘れないで・・・』という甘い声はもう、当分私から消す事ができない・・・。
夢と現実の境目がなくなってしまっている。それ程までに私の意識は混乱していて彼の姿を追い求めている。
こんな気持ちのまま離れてしまうのがたまらなく不安なのにディアッカはもういつもの彼に戻っている・・・。
ホテルの毛布に包まれてエレカに乗せられると「帰るよ・・・」と耳元で告げられた。
AAに戻るとディアッカは私を彼の部屋へと運び込んだ。
高度な医療資格を持つ彼はここでは私の主治医みたいなもので、これまで私は数々の診察を受けている。
今までそれが当たり前のように思ってきたのに、もうすぐそんなことも無くなってしまうのかと思うと寂しくなった。
先程、ザフトからイザークさんが来たというので、ディアッカは私の処置を済ませた後キラに任せて部屋を出た。
「・・・・・・・・」キラは無言のまま私を見て笑った。
何がそんなにおかしいのかと尋ねると、キラは黙って鏡を私に手渡した。
鏡に映る私の首筋には驚くばかりのキスマークがついていて、改めてディアッカという男の真意が解らなくなる。
キラと暫く語り合った後、「キラ!サンキューな!」の言葉とともにディアッカが戻って来た。
キラが苦笑しつつ部屋から出て行くと、私は堰を切ったようにディアッカに問いただしたのだ。
何故こんな派手なキスマークをつけたのかと。それに対して返ってきた彼の答えはというと・・・。
『だって見えるようにつけたんだもん♪おまえがオレのものだと解るようにさあ〜!』だった。
更に、服のボタンを外してみろと促されて覗き込んで見ると・・・身体中に残るキスマークの紅い跡・・・。
私は羞恥心で一気に血が上った。ディアッカはクククと楽しそうに笑っている。本当に呆れた男だと思った・・・。
───PON・・・♪
ドアホンが鳴った。
多分イザークさんが来たのだろうと思った。
ディアッカが入室を促すと、はたして入ってきたのはやはりイザークさんだった。
慌ててキスマークの痕を隠す。
「熱があるところすまないな・・・おまえに話があるのだが・・・大丈夫か?」
イザークさんらしいぶっきらぼうな言い方だけれど、不思議と誠実さを感じさせる。
「こんにちはイザークさん。お待たせしました。大丈夫ですよ」
私はそう返事をしてベッドの傍にあったイスに座るように促した。
イザークさんは、座る前に傍らのディアッカの存在に眼を止めると・・・。
「ディアッカ!貴様に聞かせるような話じゃないっ!外に出ていろ!」と厳しい口調で言い放った。
「なんでだよ!オレが居ちゃマズイ話なのかよっ!」ディアッカも食い下がる。
「当然だ!貴様なんかに居られたら思い切り話をややこしくしそうだろうが!ほらっ早くしろっ」
「ああもう!解ったよ!・・・で?イザーク!ミリアリア泣かせるなよ!」
「貴様と一緒にするなっ!バカがっ!」
(ホントよね・・・)密かに私もイザークさんに同意した。
両手を挙げて肩透かしのポーズをしてディアッカは外へと出で行った。
「さて・・・ディアッカのバカもいなくなったところで・・・話を始めるが・・・辛くなったら言ってくれ」
「・・・はい・・・」一体話って何なのかしら・・・。
「まず・・・ハウ。おまえに礼を言わねばな・・・」
「え・・・?」
「あのバカとこうして生きて再会できたのはおまえのお蔭だからな・・・」
「それは・・・あいつの生命力がゴキブリ並に強かっただけで・・・私の力なんかじゃないんです」
「そうか?でもおまえがAAにいなければあのバカはあそこまで生きる事に執着はしなかっただろう?
あれはおまえを護る為だけにAAに戻って来たと聞いているが?」
「大げさですよ・・・」私は苦笑いをする。
「・・・・・・まあそれはそれでいいが・・・ここからが本題だな」
そう言ってイザークさんは俯いた。
「おまえには済まない事をしたな。ディアッカをプラントに呼び戻すなんて辛い思いをさせる・・・」
「イザークさん・・・」
「向こうではどうしても奴の力が必要なんだ。あれでもディアッカは優秀な能力を持っているトップエリートだ」
「私もそう聞いています・・・。プラントに戻ったほうがきっとあいつにとってもいいんじゃないかって・・・そう思います」
また涙が出そうになった。どこまでも付き纏う彼と私の立場の違い。埋めようの無い深い溝。
「いや・・・違うな。ディアッカの幸せはどんな場所でもおまえと共にあることだ・・・」
「あいつもそれをちゃんと解っているのだが、このままおまえと居ることにも耐えられなかったらしい」
「・・・?イザークさん?」
「あのバカは・・・いつまでも優しいおまえの隣人でいることに疲れてしまったんだ・・・相当悩んでいたようだ。
告白までした女は・・・いつまでもオレを『男』として・・・『恋人』として見てはくれないとな・・・」
「それって・・・・」私の事なの?
「どうしようもなく軽薄でいいかげんだったディアッカが本気で惚れたのがミリアリア・ハウという女なんだ。
プラントに戻れば女なんて思いのままのくせにあいつの眼にはおまえしか映らないみたいでな」
そう言ってイザークさんは繊細で端整な顔を私に向けた。
「おまえに約束する。出来るだけ奴と逢える機会を作る。通信手段も講じよう。アスハの姫とも話しをつけてある
アスランやラクス・クライン、バルトフェルド・・・それからキラとアーガイルも力になってくれる筈だ。だから今は
奴をプラントに送り出して欲しい・・・」
「イザークさん・・・」
「そして・・・今度ディアッカに再会したら・・・その時こそ奴の想いに応えてやってほしい・・・あんなバカだが
オレの大事な親友だ。宜しく頼む。ミリアリア・ハウ・・・」
誰よりも誇り高いと聞いているイザークさんが席を立つと私に深く頭を下げた・・・。
───イザーク!まだなのかよ!
インターホン越しにディアッカの大きな声がした。
「やかましいわ!バカ野郎!今終わったからもう入って来い!」
更にイザークさんは私に『今の話は奴には黙ってろ!増長させるとろくな事がないからな・・・』
と言ってビックリするような笑顔を私に返してくれた。
「一体なんの話をしてたんだよ・・・てっ!ミリアリア泣いてるじゃないかよっ!イザーク!」
「ふん!おまえが慰めてやればよかろう?」
そんな捨てゼリフを残してイザークさんは去っていった。
「なあ・・・おまえイザークとどんな話していたんだよ!いじめられたのか?」
ディアッカはおろおろしている。
「ヒ・ミ・ツ・・・!」
私はそう言ってディアッカに思い切り『あっかんべ〜』をしてやった。
「おい・・・気になるじゃんかよ!ミリアリア!答えろってば!」
「なあ・・・おい!ああもう!イザークのバカ野郎!何話したんだホントに!」
狭い部屋中にディアッカの雄たけびがこだました・・・・・。
───ミリアリアは雨に紛れて自分の涙をディアッカの唇に流し込んだ。
その僅かに流した涙はディアッカの自制心を打ち砕き、彼の素顔を曝け出させるに十分だった。
どんなに言葉を尽しても伝えられない想いは存在する。このふたりのように。
遠く距離を隔てても、いつかふたりはどこかで再会するだろう。
その日が来るまで・・・きっと互いを思い出し、心は想いを紡ぐのだろう・・・。
AAの中で出会い、AAの中でしばしの別れを告げるとも、それは再会の為の準備だと思う事ができる筈だ。
それでも雨の降る夜は抱き合った互いの温もりを求めて涙する事もあるかもしれない。
その時こそミリアリアの想いはディアッカへの愛へと姿を変える・・・。
それはきっとそんな遠くはない未来・・・。
雨に紛れたふたりの想いを忘れないでいたら・・・きっとすぐにでも訪れる未来・・・。
(おしまい)
(2005.7.13) 空
※ みなさんもどうか素敵な恋をしてください。
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