───まずはご結婚おめでとうございます・・・!

「花嫁のミリアリア・ハウさんとはもう8年越しの間柄だという事ですが・・・いかがですか?こうして挙式なされた実感は?」
「奥様はナチュラルですが、立場的な事も含めまして今後の生活の工夫などはどの様にお考えですか?」
「花婿のディアッカ・エルスマン氏といえば華やかな噂が絶えなかった方ですが・・・奥様の胸中はどうでしたか?」

ああもう・・・いつの時代も「障害を乗り越えた結婚話」はマスコミの格好の話題。




黒い陰謀は蜜の味  ──ディアッカとミリアリアのハネムーンエピソード─





8年越しの恋愛成就・・・まあ聞こえは良いが要は結婚に到るまでにはそれ位時間が必要だったという事である。
ディアッカとミリアリア。
コーディネイターの男とナチュラルの女。
戦場に咲いた恋の花などと連日マスコミが騒ぎ立てる渦中のふたり。

でも、確かにそうなのだ。
マスコミが騒ぎたてる通り、ディアッカとミリアリアの結婚はようやく世間に認められた婚姻なのだ。
なにしろ、コーディネイターとナチュラルの婚姻なんて表向きはもう絶えて久しい。
このふたりとて、何度も周囲に引き裂かれそうになっては必死に想いを育んで来たのだから結婚となればもちろん嬉しい。

だが・・・どうだ!この騒ぎは!

結婚式のスピーチはコーディネイターを代表して現評議会議長のラクス・クライン。
地球側・・・ナチュラル代表のスピーチをしたのはオーブ連邦首長国代表カガリ・ユラ・アスハ。
友人代表は先に評議会議員に選出されたイザーク・ジュールなどなど、今をときめく政界のお歴々がこぞって挙式に参列しているとあらばこの騒ぎだって無理もないのだが・・・それにしても賑やかである。




───あ〜あ・・・これからもずっとこんな調子なのかしらね。

挙式の後、溜息混じりにミリアリアが呟くと、ディアッカが笑う。

「ま、だんだん収まっていくとは思うけれど、当面は仕方ないだろうね」

「せっかくのハネムーンだっていうのにこれじゃ外に出られないわよ!ねえディアッカ?ずっと私にも教えてくれないけれど・・・新婚旅行の行き先ってどこなの・・・?」

「そう思ってね・・・新婚旅行はねえ、それはもう良い所にご案内しましょ?」

「・・・良いところ?」

「そう。もう最高!な所。きっとおまえはオレに惚れ直すよ?」

「・・・あんた、その自惚れ癖は直した方がいいわ・・・」

眼の前の男はいつもそうだ。自信満々で物事を推し進める行動力過剰な男。
ミリアリアを悩ませる諸悪の根源的存在。なのに離れられないのは過剰な行動力になおあまりある魅力。
ディアッカ・エルスマンは人を引き付ける魅力に満ちた美丈夫であるのも確かな一面。本当に罪なお騒がせ男である。




**********




新婚旅行の行き先はディアッカが決めた。

どこに行ってもマスコミが煩いので、こういった事は彼に任せた方がいいとミリアリアも納得したのだが、まさか今日・・・挙式当日まで秘密にされるとはミリアリアも思わなかった。
エルスマン家の専用ヘリで式場から15分程の私有地だと教えられたのだが、はたしていったいどんな所なのかは到着してからのお楽しみだと笑うばかりなのがちょっと・・・実はかなり気になるミリアリアである。

それにしても驚いた。ディアッカがヘリの操縦まで出来るとは!



「ああ・・・間もなく到着するよ」



「え・・・?でも・・・ここって・・・」



ミリアリアが驚くのも無理はなかった。

ディアッカの声にヘリの窓から目にしたのは・・・一面人工の湖がただただ広がるばかり・・・。

「ちょっと・・・!ディアッカここはいったいどこなのよっ」

「ほら、良く見ろよ。小島があるだろう?樹木に覆われたあそこだよ」

「小島・・・」

新婚旅行の行き先が小島だとはどういう事なのか?ミリアリアは更に不安を募らせる。

「そう。その小島の周囲1キロはエルスマンの私有地だからマスコミだって入れない。ここなら静かだぜ?」

クククと笑って着陸の準備を始めるディアッカの仕草も何故か気になってしまう。
ヘリに積んで来たのは大きなスーツケースが7つと更に大きな箱が5つ。

「何ポーッとしてるのさ?降りるからちゃんと座っていろよ」

ディアッカの声と共にヘリは降下を始めた。



本当に小さな島である。
周囲1キロくらいの小島だ。



「気を付けて。砂利が多いから足元に注意しろ」

ヘリから見下ろした時も建物らしき物は何も見えなかったのだが、こうして降り立って辺りを見渡しても目に映るのは樹木ばかりだ。

「こんなところで1ヶ月も過ごすなんて・・・」

せっかくの新婚旅行だというのにこんな何も無い所でいったいどうやって過ごすというのか。

「まあまあ!住めば都って言うだろ?」

そう言ってクククと笑うディアッカは何かを探していたのだが、その目が1点に集中すると、おもむろに近寄ってスイッチらしき物に触れた。




───ブウウウン・・・!




地響きにも似たモーター音とともに地表がふたつに割れて開いた。
姿を現したのは地下からせり上がってきた鉄の板。

「ミリアリア。そこに荷物載せて」

ディアッカに言われるままにふたりで一緒にスーツケースや箱を載せていく。
ローラーが付いているそれらはたいして重くは無い。

ほんの4〜5分で荷物を全部載せ終えるとディアッカはミリアリアの手を取って自らも鉄の板の上に乗った。


───ゴウウウン・・・!


鉄の板はふたり+荷物を載せてどんどん地下へと降りていく。

プシュ!

たどり着いた先は・・・。




ディアッカが岩壁の照明のスイッチを押すとポポポポッとオレンジのライトが点いた。

いきなり広がる視界の先にあったものはこれまた大きな鉄の扉。

「荷物はそっちに移動しておけばいいよ。あとでオレが片付けるから」

やはりこれも4〜5分で移動させるとディアッカは鉄の扉を開けてミリアリアを中へ入れた。

載せていた物が無くなって、鉄の板は再びせり上がって行くと再び元の位置に戻る。
やがて鈍い機械音がして頭上は真っ暗になった。


「どうしたんだよ?早く中に入れよ」

ディアッカはミリアリアを中に促すものの、彼女はそこに立ち止まったまま動かない。

「怖いの?」

「・・・だって・・・せっかくのハネムーンよ?なんでこんな所で過ごさないといけないのよ・・・」

いちいちもっともなミリアリアの言葉だが、それには笑って応えるだけのディアッカである。

「ほら、こっち来いよ!」

コツンコツンと岩肌に響く靴音に薄暗い照明。
ほんの少し歩くのにも時間がかかる。

「は〜い!着きましたっ」

目の前にある扉をガチャリと開ける。

オートセンサーが付いているそこはいきなり目映い光に包まれた後にその全貌を明らかにした。

「ディアッカ・・・ここは?」

ミリアリアの驚愕にも動じずにディアッカは言葉を返した。

「ここはオヤジの隠れ家なんだ。凄いだろ?ホテルのスイートも真っ青な設備が整っているんだよ。医療設備から娯楽施設までね」

更に部屋の奥へと案内すると、そこは豪華なベッドルームがあった。

ディアッカはベッドの前に立つとミリアリアの腕を引く。

「ハネムーンだよ。 蜜の月。これからひと月・・・おまえはオレとふたりきりでここで過ごすのさ・・・呼んでも誰も来ない無人島で昼も夜もずっとね」

クククと口元を歪めて笑うディアッカ独特の仕草にミリアリアの顔色が変わった。

「誰も来ないっていう事はさ?オレがおまえになにをしたっていいって事だろ?もう入籍した夫婦だからエルスマン所有のここにいてもケガとか、無理強いさえさせなければ監禁罪にはまず問われないしね・・・」

「・・・ディアッカ・・・」

「という訳だからね・・・ひと月ずっと解放なんかしてやらない。だから覚悟を決めてこっちに来いよ・・・!」

ディアッカの言葉の裏を覚ってミリアリアの頬は真っ赤になった。

艶然と笑うこの男はまるで悪魔のようだ。

「マスコミ煽って情報リークしてさ?大騒ぎにするのって結構大変だったんだぜ。オヤジにここを使う承諾を得るのってさ・・・」

「静かな所でハネムーンを過ごしたいって頼み込んでさ」

「誰にも邪魔なんかさせない。おまえと一緒にいるのはオレだけでいいんだよ・・・」





「ねえ?だからこっちに来いよ・・・」




艶やかな声に・・・さらに欲情した色が加わる。





(・・・・怖い・・・)





ディアッカの言う通り誰も助けになど来ないのだ。

この地下でふたりきりで過ごす新婚旅行・・・。

ミリアリアにとってそれは幸せなのかどうかは・・・まだ解らない。




でも・・・なんて甘美なハネムーン・・・。




ディアッカに求められて過ごす毎日だなんて。










───それはまさに『蜜』の味。









     (2006.1.7) 空

  ※  お待たせして申し訳ございませんでした。
     『ディアミリでハネームーンエピソード(黒ディアッカで)』をお届けします。
     パラノイア・ディアッカの本性見たり!という展開で書きました。
     怖いなあ・・・と書いている自分も背筋がゾクリ(笑)
     リクエストありがとうございました・・・!

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