ねえ・・・オレの隣ってそんなに寝心地がいいの?
白昼夢
ディアッカはとりあえず今日も元気だ。
捕虜あがりのコーディネイターでありながら、緊張感も無くどこまでもマイペースである。
感受性の強い繊細なキラとは違ってクルーに馴染むのも早かった。何を言われても3倍返しで応酬できるし恵まれた家の御曹司の割には食べ物の好き嫌いも無く、格納庫にダンボールを敷いて熟睡できる図太さも持ち合わせている点が親しみ易さに繋がっているのだろう。
ディアッカは朝からずっとOSと格闘していた。MSの微調整はキラがエターナルに移ってからは総て彼の仕事になった為
業務時間の殆どを格納庫で過ごしている。マードックとフラガ少佐の他に、整備班の姿は既にない。
「少佐!休憩にしましょうや!ボーズも!」
マードックの声が格納庫に響き渡る。
人生経験も豊富であろうマードックと女性経験の華やかさでは一目置かれるフラガ少佐、数だけだったら多分トップのディアッカ。
この3人が揃うと大変賑やかな女性談議(?)になる。
「なあボーズ・・・あのお嬢ちゃんとはキスぐらい済ませたのか?」
「んなワケね〜だろ!あいつはオレの顔を見るとすぐどっか逃げちまうんだぜ?」
「逃げられるようなコトしたんじゃねえのかい?寝込みを襲ったとかよお・・・」
「おっさんじゃないんだから・・・ソンナコト(したいけど)しないって!」
「お嬢ちゃん可愛いから競争率高いぞ〜!頑張れよ!」
「いや・・・そういうのとは違うから・・・」
「おっと・・・もうそろそろ来るんじゃないですかい?」
───少佐!マードックさん!おやつですよ〜!
噂をすれば何とやらで、ミリアリアがやって来た。
「お疲れ様です!艦長から差し入れですよ」
見ればオニギリの山とお茶で、ほんのり湯気がたっているのがとても美味しそうだ。
「はい!どうぞ少佐!」
「ありがとう!」
「はい!マードックさん!」
「おう!」
「・・・・・・・・・・はい」
「オレ?」
「あんたの他に誰がいるのよ!」
「・・・そいつはどうも・・・」
こんな光景も日常茶飯事になりつつある。
夕刻になるとミリアリアは格納庫にやってくる。
席を離れられないラミアス艦長の代わりに差し入れをしてくれるのだ。
3人して整備に夢中になって食事を抜かすことが多いせいだが、最近はわざとここに居るようになった。
好きに寝転んで仮眠も取れるし、食事もこうして運んできてくれる。面倒がなくて本当に気楽なのだ。
傍らでは可愛いミリアリアが話し相手になってくれているしで、至れり尽くせりとは正にこの事である。
ディアッカが1人でいる時は業務以外では決して近寄らないミリアリアも、3人でいれば普通に接してくれるからこの状況を1番
喜んでいるのはもちろんディアッカであっただろう。
ミリアリアに好意を持っていると自覚したディアッカではあるが、それを伝えることはまだ時期尚早だったし、
彼氏を亡くしたばかりの彼女は体調を崩していて医療の知識があるディアッカとしては、目下その体調管理の方が気になっていた。
こうしていればミリアリアに何かあってもすぐに判る。
今日もあまり顔色がよくない。ディアッカがそんな事ばかり考えてしまっているのをフラガ少佐もマードックもよく解っている。
また、ミリアリアが本当はディアッカの事を心配してここに来ているのにもちゃんと気がついている。
2人して意地っ張りなところがあるから気がつかないフリを心がけているが、最近見ていると、この2人がちょっと妙なのだ。
ほら・・・どうやら今日も起こるらしい・・・。
2人で並んで座っている。何かを話すわけでもない。黙々とオニギリを食べてお茶を飲んでいる。
やがて暫くすると・・・ミリアリアがウトウトし始める。その間ディアッカはひと言も話さない。
そして・・・その後ミリアリアは本当に唐突にパタンとディアッカの肩に倒れ込むのである。
そのまま深く眠ってしまうともう夜中まで目覚めない。そうするとディアッカはミリアリアの肩を抱き寄せて・・・大きく溜息を吐く。
そして・・・自分自身も深く眠ってしまうのである。
最近頻繁に起こる出来事なのだが、理由はまったく解らない。
ただ・・・ドクターの話だと、『この2人は深層心理の深いところでお互い信頼し合っているのではないか』
ということなのだが・・・。
残された年長者達はそっと格納庫を後にする。
2人の眠りを妨げぬように照明を落とすと他には誰もいなくなった。
ディアッカとミリアリア・・・2人で寄り添い見る夢は他の誰にも解らない。
もしかすると・・・この光景も夢なのかもしれない。
目覚めた時・・・互いの姿に何を思うのだろう。
これは夢?それとも夢の中の夢───?