だって好きだと告げられても、応えるなんて今は無理よ・・・。

FLY HIGH           『 M 』

「ハウ・・・今から食事?」

ミリアリアに声をかけてきたのはアーノルド・ノイマン。
「そうなんです。ノイマンさんもですか?」
「ああ・・・ちょっと遅くなってしまってね・・・良かったら一緒にどうだい?士官食堂は静かだよ」
確かに士官食堂はゆったりとしていて落ち着くのにはいい場所だ。
「・・・ありがとうございます。ぜひご一緒させて下さい」
こうして2人は士官食堂へと入っていった。








───しかし・・・君も大変だね。

そんなノイマンの問いかけにミリアリアは大きく溜息を吐いた。

「あの独房でのことですか?あれはディアッカが大バカなだけですよ!」

その時の事を思い出すだけで、ミリアリアは顔が赤くなってしまう。
数日前、たちの悪い男に暴行されそうになって、ディアッカが助けに来てくれた・・・ここまではいいのだが
そこから後の一部始終をAA中になんと生中継されてしまったのだ。しかも音声つきで!
ディアッカはミリアリアが好きだと告白した挙句に、濃厚なラヴシーンまで展開させるサービスの良さで
目下、艦内はその噂でもちきりだ。
しかも、その直後にミリアリアは意識を失ってから3日間ずっとディアッカの部屋で寝込んでいたのだから
噂はどんどん広まって、もう歯止めが利かない。
あんな恥ずかしい思いはたくさんだ。

しかしノイマンは真っ赤になって怒っているミリアリアを見て穏やかに話を始めた。

「でもな・・・ハウはエルスマンに感謝しないといけないよ?」
ミリアリアだってそれは解っている。ディアッカが来てくれなければ大変な事になっていたのだ。
「それはそうですけれど・・・だけどアレはやり過ぎだと思いませんか?」
そんなミリアリアの返事にノイマンは更に諭すように話を続ける。
「ああ・・・俺が言いたいのはちょっと違うんだよ・・・」
「え・・・?」
どういうことなのだろうか。

「エルスマンは・・・事件の焦点を君から自分へと巧にすり替えたんだよ・・・解るかい?」

───つまりね・・・こういうことだよ。

最初はハウが乱暴されかけた・・・って話だっただろう?
これだとね・・・いずれは『乱暴されかけた』が『乱暴された』に話が変わってしまうんだよ。
人から人へ伝わる話なんてそんなものさ。だが、あいつはカメラと音声を使う事でダイレクトに直に事件を伝えただろう?
それも『自分の愛の告白』のところからね。自分の目で見た出来事ぐらい正確な情報は無い訳だから
ここで見事に『ハウの乱暴事件』から『ディアッカの愛の告白大事件』に話がすり替わってしまったんだよ。
その結果どうだい?冷やかされたり、噂になっているのは大半がエルスマンだと俺は思うよ。

それに、君と彼の間はなんの進展も無いってことくらいちゃんとクルーは解っているしね。
なにしろそんな暇エルスマンには無かったよ。
日中は格納庫でバスターとストライクの整備に使われっぱなしだし、夜はDrと2人で君の治療方針について
遅くまで話し合っていたらしいし・・・彼は医療に携われるうえに、薬品扱いはプロだからさ?大変だよ。
アーガイルやキラの話だと君の看病であまり眠っていなかった様子だしな・・・。

ノイマンの話は説得力があった。

ミリアリアは考える。

確かにあれ以来変な噂は皆無だ。
せいぜい『エルスマンにもっと優しくしてやれよ〜』くらいなものだ。
それは噂には程遠い一種のからかいでしかない。
以前の噂に比べたら可愛いものではないか。

それにミリアリアが寝込んでいる時のディアッカの態度は紳士だった。
1日目こそ添い寝状態だったが、後は隣のベッドで1人で寝ていたし、せいぜい額と頬にキスをされたくらいだ。
なにしろ自分は殆ど眠りっぱなしでろくに会話もしていないのだ。

「ありがとうございます・・・ノイマンさんが言いたい事はよく解りました・・・」




たくさんのひとに護られている自分がここにいる。
今日はディアッカにキチンとお礼を言おう・・・当然の事だ。




ノイマンはそんなミリアリアに好意の眼をむけるものの・・・

(でも・・・彼を甘く見ると痛い目に遭うよ・・・まだまだ彼の本性はベールの中さ・・・)

とまでは教えなかった・・・。







───それにしても噂の当人達の静かなこと・・・。
     舞い上がっているのは野次馬ばかりで賑やかなことだとノイマンはコーヒーをひとくち口に運ぶ。














 (2005.6・20) 空

※ ディアミリというよりノイミリですね(笑)

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