プラントと地球間で休戦協定が結ばれ、オレは温情で再びZAFTに軍籍を置く身となった。
ただし、エリートの証である『赤服』は返上のうえ、イザーク直属の部下となり一般兵の緑を纏う。
本来、敵艦である『AA』と行動を共にした事で、背信行為とみなされ射殺されてもおかしくなかったのだからこの処遇は破格のものだ。
停戦後、オレとミリアリアはいつとはなしに『恋人同士』と周囲に認知される仲になった。
互いの立場を考えれば『順風満帆』とは決して言えない交際ではあったが、それでもオレはミリアリアを深く想っていたし、また彼女もオレの事を大切にしてくれていると信じていた。

だから。

「私、報道カメラマンになりたいの!」

と、頬を紅潮させてミリアリアがオレに告げたときは『冗談じゃない!』と即答で反対した。
第一危険過ぎる。いくらAAで最前線の戦いを経験した身の上でも艦の中と自分の身ひとつとではまったく違うのだという事をこの女は知らないのだ。銃は扱えるのか?護身術はちゃんと学んでいるのか?些細な不安でもオレにとっては重大な問題だというのに、どうしてこの女はそんなオレの気持ちを解かってはくれないのだろう。




I am The Editor




車はオノゴロの闇をひた走る。助手席ではミリアリアが黙って窓から星空を眺めていた。

車中でもオレは、ミリアリアにカメラマンなど止めろ!と、何度も説得したのだが、彼女は再三かぶりを振った。
それどころか、『そんなに文句ばかり言うなら・・・アンタとの付き合いもここまでにして!』とまで言い出した。

「・・・オレと別れてまでカメラマンになりたいのかよ・・・」

「そうよっ!どうしても真実の社会を伝える仕事がしたいのよ!アンタだってまたZAFTに戻ったんだから、私の事にいちいち口出しなんて出来る身じゃないでしょう?」

それは・・・その通りなのだが、オレはもうミリアリアには争いとは無縁の世界にいてほしかった。
最愛の(とオレが言うのも癪に障るが)恋人を戦いで亡くした彼女をもう、あんな血生臭い所に置きたくはない。

「オレは元から軍人で、復帰しただけだっつ〜の!俄か軍人のおまえと一緒にはしないでもらいたいね」

「誰もアンタの事なんか聞いてないわよ!とにかく面接もパスしたんだから私は早くその仕事に就きたいのよ!」

ミリアリアは頑なにオレの言葉を拒む。

「もう、早く家まで送ってくれない?これ以上アンタと口論したって結論は決まっているんだから」

プイッとそっぽを向くミリアリアの態度に流石のオレもブチギレした。
思わず車のアクセルをガウン!と噴かす。急加速した車は軋むようなホイールロックの音をたて、周りの景色をただの斜線の塊に変えた。

どうしてこのまま素直にこいつを帰すことが出来る?

ミリアリアはもうオレの姿など瞳に映していないのに、オレはまだ諦める事が出来ない。

行き場の無い苛立ちはスピードになって更に車を加速させる。

「ちょ・・・ちょっと!ディアッカ!冗談じゃないわ!こんなスピードで走ったら事故を起こすじゃないのっ」

「・・・るせぇよ・・・」

「・・・え?」

「うるせえって言ってんだよっ!おまえもいちいちオレのやる事に口出しなんかするんじゃねえよ・・・!」

オレは更にアクセルを噴かして車を加速させた。


だが、次の瞬間、急発進に耐えられなくなった車がスピンを始め、黒いタイヤ痕がうねうねと蛇行してゆく様をオレはまるでスローモーションのVTRを見ているような、そんな感じで眼の端に捉えていた。


ガウ・・・ン・・・!

バックミラーは後部マフラー付近から火花がスパークしているのを映し出す。

プス・・・ン。とガスが抜ける様な音がしてようやく車は歩道に乗り上げたところで停まった。



(チ・・・ッ)

軽く舌打ちをしてオレは車から降りると、ボンネットを上げた。
シュウウ・・・という音と白煙。これは完全にオーバーヒートの状態だ。


「・・・車、動かないの・・・?」

不安な色を顔に浮かべ、そう言ってミリアリアも車から降りてきた。

「ああ。完全にエンジンがイッちゃってるから専門家を呼ばないとダメだな」

スカした顔でオレが言うと、ミリアリアはひとつ溜息をつき、闇に溶けるアスファルトに眼を落とす。

「明日の朝、1番で修理を頼むから、悪いけど今夜はここで野宿するしかないね」

「・・・・・・」

オレの言葉にミリアリアからの返事は無かった。

南国のオーブといえど、夜風は身体に毒だ。
オレはトランクからブランケットを取り出して大きく広げると、そのまま自分の身体に羽織る。
道路から少し奥まった樹の陰に腰を下ろして両腕をミリアリアに差し出した。



「・・・来いよ」



(・・・!)



ミリアリアは一瞬躊躇したものの、黙ってオレの前に跪いた。
オレは両腕で彼女を抱き、ブランケットの中にすっぽりとその身を包んだ。
聴こえてくるのはミリアリアの心音と密やかな息遣い。

このまま『終わり』にするなんて・・・オレには出来ない。
だってオレは今もこんなに彼女に恋焦がれている。

この恋物語にピリオドを打つなんて・・・オレには出来ない。



このまま夜が明けなければいい。

あの『AA』で過ごした日々のように、いつまでも暗闇のままでいい。





時間よ止まれ。





ラストシーンが永久に訪れないように・・・。









      (2006.6.16) 空

   ※   こちらはサイト立ち上げ一周年記念に出したのオフ本の伏線です。
        『オフ』はこれから二年後・・・。二次大戦(種D)後の設定です。
        ディアッカは勝手に物語を紡ぎだす『編集者』の役割で登場!黒く復活する彼にエールを送る私です。

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