『クサナギの格納庫にて 』って違うじゃん!オレはとっくにAAに戻ってきたんだからさ?そこはOK?
バスターのコクピットにて
※クサナギの格納庫にて・・・の続編
「なあミリアリア。おまえこれからエターナルに行くんだろ?オレもあっちに用事があるからさぁ・・・一緒に行かない?」
「大丈夫よ。フラガ少佐に送ってもらう約束になっているからあんたの出番なんてないの!」
「え?だっておっさんならさっき艦長連れてクサナギに行ったぜ?」
「そんな訳ないわ!ちゃんと時間の約束だってしてあるんだから・・・」
「でもマジでいないぜ?」
「ちょっとあんた・・・何企んでいるのよ」
「・・・はい?」
「何企んでるのって言ってるのよっ!少佐が心配していたの!
『お嬢ちゃん、ディアッカのバカがまた何か企んでいるから気をつけろ!』って」
「うわ・・・おっさんヒデェ!いくら何でもバスターに乗っている最中だぜ?手なんか空かないっつ〜の!少しは常識ってモンをわきまえて欲しいね!いいオトナなんだからさ?」
「あんたから常識なんて言葉・・・そんなの有り得ないわよっ!」
「おまえも随分なこと言ってくれるじゃん。ま、本当におっさんいないんだぜ?ウソだと思うならノイマンさんにでも聞いてみれば?」
「そうね。そうさせてもらうわよ!」
*********
「はい、ブリッジ、ノイマン。・・・ああハウか。え?艦長?・・・艦長ならフラガ少佐と一緒にクサナギに出向いているよ。何か用でもあったのかい?」
「な?いないだろ?」
「どうして・・・」
「どうしてって・・・そりゃ惚れた女の頼みだもん。そっちが優先に決まってるじゃない」
「ひどい・・・少佐!」
「ほ〜んとひどい男だよな!約束破るなんてさあ。だからさ?こうなったら仕方ないから・・・ね?オレと一緒でもいいでしょ?」
「何もしないって約束出来る・・・あんた」
「あったりまえだろっ!バスター操縦するだけで手いっぱいだぜ?ああもう!約束するからさっさと支度しろってば!」
「約束よ・・・!」
「はいはい・・・。オレってホント信用ないのね!」
「当然だわっ・・・!」
───エターナルにジャンク屋が来ていると聞いて、ミリアリアの気持ちは弾んでいた。
欲しいものがあったのだ。
もしかするとジャンク屋から入手出来るかも知れないとフラガに聞かされ、エターナルまで彼に連れて行ってもらう手筈になっていたのにディアッカの話によれば、どうやらそれは土壇場で艦長とのデートに取って代わられてしまったらしい。
フラガの代わりにエターナルまで連れて行ってくれそうなクルーを思い浮かべたが、ここは慢性人手不足のAA。
さすがにちょっと頼み辛い。
眼の前の軽薄そうな色黒男がヒマなのは解っている。
だが・・・正直こいつは信用出来ないとミリアリアは踏んでいる。
クククとほくそ笑む狡猾そうな表情は油断も隙もあったものじゃない。とにかく悪賢いのだ。
先日ディアッカとフラガはクサナギにメカニックの応援として出向いていたのだが、そこで何やら問題発言があったらしく、帰艦早々フラガから『お嬢ちゃん・・・!いいかい?ディアッカのバカがバスターに乗せてやるって言ったら絶対に断るんだよ!』と釘をさされた。
なものだから・・・本来なら当然断るのだが、ヒマを持て余しているのがディアッカしかいないのなら・・これもまた仕方がない。
とにかくジャンク屋まで行くのが先決問題なので、この際多少危険でもこいつに頼るしかなさそうだ。
パイロットスーツに着替え、約束の時間にミリアリアが格納庫に降りて行くと、ディアッカは既にバスターのコクピットで待機していた。
「遅かったんじゃないの?もしかして護身具でも仕込んできたってか!」
人の悪い笑顔をミリアリアに向けるとディアッカはクククと片頬でで笑った。
「そんなんじゃないわよ・・・」
護身具と聞いてミリアリアの顔がほんの一瞬曇ったのをディアッカは見逃がさなかった。
「・・・そうだな」
ミリアリアは今もディアッカの額につけた傷を気にしている。護身具なんて彼女が仕込むはずもない。
静かに眼を伏せるディアッカの表情は穏やかなものになり、今度は逆にミリアリアを安心させる。
「ま、いいから早く乗れよ。着くまで20分くらいかかるから、そこのベルトで身体をしっかり固定しろよ」
ディアッカはそう言うとミリアリアの手を取ってコクピットに招き入れる。
コクピットの中は狭い。ふたり乗るには身体を密着させないと無理なようだ。
「もう一度言っとくけれど・・・変なことしないでよね・・・!」
「しつこいぜおまえ!オレは操縦で手一杯だって言ってるだろ!ほら、早くベルトをしろって」
ディアッカに促され、ミリアリアはベルトを装着しようとしたが・・・ふと思い当たってその手を止めた。
「どうしたんだ?ベルトしないのか?ミリアリア」
「・・・危ない」
「・・・は?」
「ベルトなんかしちゃったらかえって危ないじゃないの!だって動けなくなっちゃうのよ?こんな狭い所で動けなかったら・・・それこそもっと危険だわっ」
「・・・あのなあ。オレも装着するのよベルト。オレの身体も固定されるのにどうしておまえが危険なのさ?」
「とにかくベルトはパスでいいわ。別に戦闘になるわけでもないし」
「まあ・・・いいよ。じゃ、しっかり掴まっていろよっ」
言うより早くディアッカはバスターの発進準備に取り掛かる。
いつもならミリアリアの管制指導で移動するのだが、今日は代わりにサイがその任に就いている。
『ディアッカ。バスターの発進準備はOKだよ。そのままカタパルトに移動して』
『りょ〜かい!しかし・・・男の管制官って味気ないねえ!』
ディアッカが溜息混じりに呟くと、モニターの中でサイが笑った。
『いいだろ?今日はミリィが一緒なんだからさ。でもディアッカ、ミリィに変な事するんじゃないよ?』
『何だよそれ!おまえまでそんなこと言うのかよ!大丈夫。手ェなんて出しませんって!』
『だってさ?ミリィ。信用するの?』
『・・・一応ね』
『あ〜あ!信用無いってツライのねっ!オレってかわいそうだよなぁ〜』
『仕方ないさ。日頃の行ないだもんな・・・ねえ?ディアッカ』
『うるせ〜よ!ほら、早くハッチ開けてくれよ!出られね〜じゃん!』
『・・・おっと!ごめん。・・・バスター発進どうぞ!』
『了解!バスター発進するっ!』
そうしてふたりはエターナルに向けて出発した。
**********
───PPPPPP
「あれ?何か近づいて来るな」
レーダーに物体の信号を捉えたディアッカはおもむろにモニターのスイッチを入れた。
「げ・・・マジ?隕石群じゃんっ!」
モニターに映し出された映像にディアッカは舌打ちをする。
「ミリアリア!こいつはとんでもないモノに遭遇しちまったみたいだぜ・・・」
「隕石群って・・・回避出来ないの?ディアッカ」
「回避したいのはやまやまだけれど帯状に広がっているから多少の接触は避けられないな・・・
ガンランチャーぶっ放して強行突破するから振動が来るぞ!いいかっ!掴まっていろよミリアリアっ」
「ってちょっとディアッカっ!」
DOWNNN!
コクピット内が急激な振動で揺れた・・・!
「いやあああっ!」
「だからベルトしとけって言ったんだよっ!もう遅いからどこでもいいっ!しっかり掴まっていろっ!」
「だってそんな・・・!」
「ほらっ!もう一発ぶっ放すからっ!・・・ああもう!いいからこっちに来いっ!」
ディアッカが差し延べた腕に掴まりミリアリアは彼の膝に乗るような形になった。
「ミリアリアっ!前が見えないから頭は下げてっ!オレの背中で手ェ組んでろっ」
ミリアリアは言われるままにディアッカの胸にしがみ付くと、その手を彼の背中へと回した。
「カケラが飛んでくるから急発進させるっ!そのままでいろっ」
ディアッカは更に速度を上げてバスターを急発進させる。・・・と思えば今度は急停止。
ZUUUUUNNN!
「いやあっ!お願いディアッカ止めてっ!」
「・・・んなこと言われたってムリっ!」
急発進と急停止を繰り返されたミリアリアの身体はもうガクガクで、ディアッカにしがみ付いていないと気を失いそうだ。
ヘルメットの中は涙でぐちゃぐちゃになり、泣きたい恐怖も度を越えて逆に声も出せない状態が続く。
「・・・ミリアリアもういいぜ?終わったから手も放せるよ・・・」
ディアッカは大きく息をついてミリアリアを促したが・・・。
「どうした?ミリアリア・・・」
「・・・・・・」
ミリアリアからの返事はない。
本当はマズイのだが、ディアッカは自分のヘルメットを外し、ミリアリアのヘルメットをも脱着させる。
栗色のハネ毛が俯いている。
ディアッカはその頭をそっと上に向けた。
現れた顔は・・・恐怖で蒼白になり、声も出せないほど打ち震えている・・・そんな涙で濡れた可憐な泣き顔。
「ああ・・・もう・・・そんなに泣かなくていいだろ・・・?」
ディアッカはミリアリアの額と頬にひとつずつキスを落とすと自分の胸に深く強く抱きこんだ。
「どうする・・・?これじゃエターナルに行けないな。とりあえずAAに一旦戻るか・・・」
その声にミリアリアは黙ってこくこくとただ頷くばかり・・・。
**********
───AAに帰艦したディアッカはバスターのハッチを開けた。
左腕にミリアリアを抱きかかえ、右手でアンカーケーブルを下げると、下ではマードックと他の整備兵が心配そうに見守っていた。
「お嬢ちゃん大丈夫なのかい?」
「ああ・・・ちょっとショックが大きかったんだよ。このまま部屋まで連れて行くからおっさん悪いけれどあとの整備頼めるか・・・?」
「早く介抱してやんな・・・」
「サンキュ・・・!」
ディアッカは両腕でミリアリアを抱きかえるとそのまま士官居住区へと姿を消した。
「マードック曹長・・・!バスターのコクピット・・・なんかおかしな装置がついてますぜ?」
「・・・シートにも・・・これってボディソニックシステム(振動をダイレクトに身体に伝える音響装置の一種)か・・・?」
試しにスイッチを入れると・・・凄まじい振動と連動してスクリーンいっぱいに隕石が映し出された。
「なんなんだぁ?」
投影装置に特大の音響装置だなんて・・・と、マードックたちは皆首を傾げた・・・。
士官居住区のディアッカの部屋ではミリアリアが声を上げて泣いていた。
パイロットスーツは既に脱がされており、キュートなミニスカートから伸びる足がとても眩しい。
こちらもスーツを脱いだディアッカがラフなオーブのジャケット姿でミリアリアを抱いていた。
通常なら有り得ない格好だが、恐怖からくる異常な精神状態の今、ミリアリアの頭の中はそんなことをいちいち気になど留めていない。
まだ身体は震えている。こうしてディアッカに支えてもらわないとミリアリアは崩れ落ちてしまいそうだ。
「ほら・・・落ち着くまでこうしているからもっと身体を預けていいよ」
深く抱き込むディアッカの胸の中でミリアリアは彼の心臓の音を聞いていた・・・。
こうしてディアッカにもたれ掛かるのはなんて良い気持ちなのだろう・・・とミリアリアは全身の力を抜いて感じていた。
そしてディアッカはというと・・・。
彼はミリアリアを抱き込むその頭上でこっそりとほくそ笑んでいる。
おっさん。オレは別に手ェなんて出してないぜ?
ミリアリアから抱きついてきたんだからさあ・・・役得ってもんさ?
そりゃぁちょっと小細工したけれど、オレから手は出してないもんね。
あの隕石群は実は真っ赤な大嘘だった。
全てはディアッカが仕組んだ大掛かりな装置が生み出した虚構である。
手を出すなとは言われたが・・・彼女のほうから抱きついてくるのはまた違う。
強引に抱くのと違って抱きつかれるのは男心を強くくすぐる。
湧き上がる庇護欲は・・・これこそ男として生まれたものの証。
(・・・ククク)
ミリアリアはクククと口の端を上げて笑うディアッカの表情など知る由もなく・・・。
(2005.12.20) 空
※ ディアッカさんはこうでなくっちゃ!(もう趣味丸出し!)
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