アンタもういいって。まあ釈放・・・?




監獄ノスタルジア (10)      『M』 Again




ミリアリアが倒れてから1週間が過ぎた。
ようやく彼女が戻って来たのでオレは以前のようにまた一緒に過ごせるとものだと思っていた。
なのに何だか彼女の様子がいつもと違う。
(どうしたんだ?)
PIPOPAPO・・・・PPP
彼女はロックを開放して独房の扉をそっと開いた。
(何だ?今頃)
まさかとは思うが・・・。
「尋問?・・・移送?」
今更ありがたいものではない。なぜならオレはここが結構気に入っている。
だが、彼女から返ってきた答えは意外を通り越してそれはもう驚きのものだった。
「この艦、また戦闘に出るの。オーブに地球軍が攻めてくるから・・・」
地球軍が地球軍を攻めるってなんだそりゃ?
「だから・・・アンタもういいって。まあ釈放・・・?」
オレの頭は飽和寸前。まったく訳わかんねえ。
そんなオレを見て、ミリアリアが告げる。
「時間が無いの。こっちに来て・・・!」






AAがアラスカで味方に置き去りにされた話しは聞いていた。
その結果、AAがここオーブに隠れるように滞在していることも知らされた。
オレが捕虜となっている間に戦局は悪化し、マスドライバー争奪戦がずっと続いていたのだという。
パナマが陥落し、地球軍が使えるマスドライバーは皆無で中立国のオーブの施設に眼を付けたということらしい。
味方に裏切られたAAは当然のようにオーブ攻防戦に出撃することを決めたのだろう。
ミリアリアは「オーブは私の国なんだから・・・」と、清清しくオレに語った。
「これに着替えて。必要な物は揃えておいたから・・・」
ミリアリアが差し出したのは私服の一揃えとバッグ。
中には、着替えに食料、携帯用医療品など、ともあれ、ある物は何でも詰め込んだ感がある。
とにかくミリアリアから見えない所で私服に着替えた後、オレはもう一度中身を確認した。
「アンタのザフトのIDカードはバッグの底に防磁チップと一緒に隠してあるからまず見つからないわ。
向こうに戻るまではこっちのIDカードを使ってちょうだい!オーブ政府発行の本物のIDだから・・・」
そう言ってミリアリアはオレにIDカードを手渡した。よくこんなもの発行出来たと感心する。
「それと・・・お金よ。必ず必要になるから大切に使って。たいした金額じゃないけれど」
「ミリアリア・・・」
「こんなことになっちゃって・・・本当にごめんね。アンタにはいっぱい迷惑をかけたわ・・・。
愚痴も聞いてくれて。泣くといつも慰めてくれたわよね・・・」
いつもと違うミリアリアの優しい声はオレの耳に柔らかく響く。
「アンタ凄く優秀だから絶対カーペンタリアまで辿り着けるわ・・・そうしたら必ず大切なひとに連絡しなきゃダメよ。MIAのままなんだから・・・」
「ああそうするよ・・・」
オレの声も弱々しい。
「こんな形で会わなければアンタとも仲良くなれたかな・・・キラの様に」
ミリアリアの瞳には涙が浮かんでいた。
そんな彼女を見たオレは本当に無意識のうちに彼女の背に手を回していた。
「ミリアリア・・・おまえも無理するんじゃないぜ。ホント無謀だからな。こんなに痩せちまって・・・ちゃんと食事しろよ!」

───サイレンが鳴り響く。

「行かなきゃ・・・」
ミリアリアはそう言ってオレの腕から身体をはずした。
「もう会うこともないと思うけれど元気でね。ほら、早く逃げるのよ」
「それと・・・ありがとう。アンタに会えてよかったわ」
そういい残し、踵を返してミリアリアはAAへと戻って行った───。





───戦闘が始まった。


地球軍は新型のMSを導入したようだ。
オーブは軍事技術の高い国家だが、押し寄せる地球軍の物量の前では勝敗は眼に見えている。
善戦するも、ジリジリと後退を始めていた。
遠くにAAとフリーダムの姿が見える。
(あの艦にオレは捕虜として拘束されていたのか・・・)
いつでも逃げ出す事など可能だった。なにしろロックは自由に解除できたのだから。
AAは不思議な艦だった。
技術士官の艦長に、軍のエースだというエロいおっさん。
現地調達の学生志願兵に、仲間だというコーディネイターのパイロット。
捕虜の扱われ方など本来悲惨なものだが、オレの受けた扱いは極上のものだった。
2ヶ月近く拘束されていたなんてホント信じられない。
激情のままにオレを殺そうとしたオンナは、最後までオレの心配をしてくれた。
彼女はどんな思いでオレの世話をしたのだろう。オレは恋人の仇だというのに。
紙くずの様に落ちてゆくMS。AAもあんな風に燃え尽きるのだろうか。知り合った顔が次々と浮かぶ。
ふと・・・思い出すのはミリアリアの蒼い瞳。
柔らかなオーブの海の色。
彼女がいつも独房の片隅でこっそりと泣いていたのはオレだけが知っていたことだ。
せっかく可愛いのに泣いてばかりで・・・いつか笑い顔を見たいと思っていたのに。

───自由の身になったのに・・・思い出すのは何故か彼女の泣き顔ばかり。

     さしずめ監獄ノスタルジア。懐かしさがオレを包む・・・。


     もう一度見たい海の蒼を思い浮かべてオレは走り出していた───。





  (2004.9.3) 空
※  このシリーズで、一番最初に出来たのは実はこの話でした。
    後の話はこれを元に付け足したものです。白状すると、まだ未完なので妄想&捏造の余地がありますー。

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