これからお話することは捕虜から開放され、めでたくAAのクルーとなった、とある少年(?)の日常を決死の覚悟で捉えた珠玉の物語である。
AAにおけるディアッカ君のぶっ飛んだ日常♪
マーシャル諸島での戦いに破れ、AAの投降捕虜となったディアッカ・エルスマン(17歳おひつじ座生まれ・AB型)は先日、
2ヶ月近くに及ぶ拘禁生活に別れを告げ、今度は逆にAAでは貴重なMSパイロットとして有意義な日々を送っている。
持って生まれた天性のものか、はたまた育ちがそうさせたのか、彼の持つ環境への適応力はたいしたもので、コーディネイターとはいいながらも他のクルーとは何年も一緒にいるような錯覚を起こさせるほど親密な、それでいてサラッとした付き合いをしている。
コーディネイターの中でも大変優秀な能力の持ち主だというのにやっている事はというとそこらの悪ガキのノリで、目下ムウ・ラ・フラガとはいいコンビだと評判だ。
AAの艦内はまだ不慣れなため、ディアッカは事あるごとにひとりの少女の姿を探す。
少女の名前はミリアリア・ハウ。
ディアッカが捕虜として拘禁されていた間、何かと(文句を言いながらも)彼の日常の世話をしてくれたいわば『恩人』。
茶色のはね毛に少しくすんだ蒼い瞳の可愛い少女なのだが、ディアッカがAAに連行される直前の戦いで最愛の恋人を亡くし目下傷心の日々を過ごしている。
元気な振りをしてはいるが、その心情を思いやるとディアッカは心の痛みを強く覚える。
何も知らなかったとはいえ心無い事を彼女に言った。
ディアッカが彼女の感情を激発させ、刃物で刺されかけたのはまだ記憶に新しい。
なんとか元気になって欲しいと思うのだが、女性の扱いには長けたディアッカでもむやみに手が出せないので、そこは一計を案じて実に古典的な方法で彼女に接近を試みる。
「あ・・・ミリアリア!」
呼ばれた少女はその声に一瞬ビクつくと振り向きざまに走り去ってしまう。
ミリアリアにとってディアッカは天敵ともいえる存在だ。なにしろ彼が傍に来ると本当にロクな事がない。
ディアッカは逃げるミリアリアの腕を捕らえて強引に引き寄せると、口元だけでニヤリと笑って言葉をかける。
「そんなに慌てて逃げなくたっていいだろ?」
「放してよ!用が無ければ呼ばないでくれる!」
「え〜?用事があるから呼んだんじゃない」
「・・・何の用・・・?」
訝しげにミリアリアが尋ねると、ディアッカは待ってましたとばかりにポケットに手を入れ素早く何かを取り出した。
そしてそれをミリアリアに向かって放り投げる・・・。
「きぃゃああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
ディアッカが自分に向かって投げつけたものを見てをミリアリアは悲鳴をあげ、それはAA中に響き渡った。
ディアッカが投げたものは『ゴムで出来たゴキブリのおもちゃ』それも本物そっくりの精巧なもの。
ミリアリアはディアッカに背を向け壁にしがみついて最早パニック状態。クククと笑って更にディアッカは追い討ちをかける。
「ごめんごめん!脅かしちゃった?でもほら・・・蜘蛛もあるんだよ〜♪」と、眼の前で蜘蛛のおもちゃをプラプラさせる。
「いぃやああああああああああああああああああああああああ〜〜〜〜〜〜っ!」
今度はディアッカの方に向き直り、ミリアリアは彼に抱きつく格好となる。
ディアッカの胸にしがみ付いて大粒の涙を浮かべる風情は女と遊び慣れた彼をもドキリとさせてしまう。
(うわ・・・かわいい!たまんないね〜っ!)
その様子を通路の反対側から眺めていたサイとノイマンは(毎度毎度よくやるよ・・・)と呆れ顔で笑った。
***********
ディアッカは昼食を取らない。というよりいつも取るのを忘れてしまう。
彼の主な作業場である格納庫は大概整備班のクルーが右往左往している場所だ。
AAでただひとりのコーディネイターであるディアッカは整備班のあちこちから呼ばれ、MSの微調整に余念が無い。
自分のバスターだけではなく、フラガのストライクの微調整も担当しているため作業に集中する余り時間が過ぎてしまうのだ。
休憩時間を過ぎてマードック達が格納庫に戻って来ると、いつもの様にディアッカが昼食抜きでパソコンのキーを叩いていた。
最初の頃は休憩を取らないディアッカを厳しく叱りつけたマードックだが、最近はその必要もない。
理由は簡単。誰かがディアッカの分の昼食を格納庫の隅に置きに来るのだ。
ある日、誰がこっそり置いていくのかとマードックが見張っていると・・・。
ピンクの軍服を着た女の子がそっとトレーを置きに来た。聞くまでも無くピンクの軍服を着ているのはAAでもただひとり。
その様子にマードックは笑みを誘われる。
(まったく幸せ者だよこいつは。羨ましいこって・・・)
マードックはこの事を誰にも口外していないから、その事実は当のディアッカさえも知らない。
皆とは少しズレた昼食を済ませるとディアッカは更にブリッジからも呼び出される。
精密機械に覆われたブリッジは些細なトラブルでも重大事故になりかねない。そのメンテナンス作業も彼の仕事だ。
「遅くなってすみませ〜ん!ディアッカ・エルスマン入りま〜す!」
悪びれた様子もなくブリッジに入ると、ラミアス艦長、チャンドラ、トノムラ、ロメロが計器と戦っていた。
「ああ・・・エルスマン!忙しいところすまないな。バリアントの照準器が0.5度狂っているんだ」
「それと通信傍受システムにノイズが入るんでこっちも頼めるか?」
トノムラとロメロが矢継ぎ早に彼に調整を依頼する。
「OK・・・!」
素早くノートPCを調整専用のコンソールに接続して、凄い速さでキーボードを叩き始めると高度な数式がDPの中を動き回る。
赤と青の線が重なるまで緻密な計算を繰り返すのだが、ディアッカにっとてはたいした事ではなさそうだ。
1時間余りの後、全ての作業が完了した。
「いつ見ても凄い腕前だよな。キラの奴も驚いてたもんなあ・・・」
トノムラの感想にロメロも大きく頷いた。
「いつもありがとう!ディアッカ君。あなたのお蔭でAAのトラブルは最小限に抑えられているのよ・・・」
ラミアス艦長は心底ディアッカに感謝の気持ちを表した。
「どういたしましてラミアス艦長。でもさ・・・オレ、感謝の言葉よりこっちの方がいいんだけど?」
そう言ってディアッカはラミアス艦長を抱き寄せると、首筋にキスをして、ふくよかな胸に頬擦りを始める。
「ディ・・・ディアッカ君!ちょっとやめなさい!」
真っ赤な顔をしてディアッカを引き剥がそうとするラミアス艦長だが、そこは百戦錬磨の女好きのディアッカ。
そう簡単には離れない。
(うわ・・・こんなところフラガ少佐に見られたら・・・)チャンドラはハアハア・・・いやハラハラと成り行きを見守る。
「この・・・エロガキ〜〜〜〜〜〜っ!俺のマリューに何をしているんだああああああああああっ!」
フラガの登場である。
よく見るとフラガの後ろにはキラ、ラクス、アスランにバルトフェルドのエターナルクルーに加え、カガリ、キサカの姿も見える。今日の定例会議はAAで行うようだ。
「よくやるねディアッカ。ムウさんのことからかっちゃダメだよ・・・」苦笑するキラにアスランが溜息を吐く。
「おまえは本当にこの手の遊びが好きだよな!カガリ、ラクスもあいつには近寄るなよ・・・」
本気とも冗談とも取れるアスランの言葉にラクスが笑って返事をする。
「大丈夫ですわアスラン。ディアッカの本命はあの方でしょう?そうですわよね?」
「誰の事言ってんのラクス。オレ女の子ってみんな好きよ?オーブの姫さん・・・アンタはとても綺麗だし?」
「私はおまえみたいなタラシは大嫌いだ!」
頬を赤らめてカガリが叫ぶと、ディアッカはさも可笑しそうに、
「解ってるよ!姫さんはアスランみたいな真面目な奴がいいんだよね〜?」
とからかう有様。
「会議始まるの?それじゃオレは行くからどうぞごゆっくり!」
「あれ?ディアッカは出ないの?」
キラの質問に「まだ作業がいっぱい残ってるのさ。今度は厨房ね」と答えてディアッカはブリッジを後にした。
**********
時刻は午前2時を廻っている。
シフト交代の時間も過ぎて、通路を歩く者の姿は皆無である。
ディアッカはひとり展望室の扉を開けた。
すぐ上には展望デッキがあり、見晴らしもいいのだが、彼の足は展望室の1番奥の柱へと向かう。
通路からは死角になって見えないその柱の影でお目当ての人物は声を殺して泣いていた。
「ミリアリア・・・」
声をかけると、一瞬身体を震わせた少女が返事をする。
「あんたにはどうして私の居所が解るのかしらね・・・」
「さあね・・・オレの耳がいいんだろきっと。なあ・・・いつも言ってるだろう?ひとりで泣くなって。少しはオレを頼る気ないの?」
「あんただって業務があるでしょう?それに私より今はあんたの方が辛い筈よ・・・」
「何で?」
「あんたは絶対人前で弱音を吐かないわ。もうプラントにも戻れないのに平然とした振りをしてる・・・」
「振りじゃなくて『平気』なんだよ。自分で選んだ道だしね」
ミリアリアの頬に触れると涙が伝って濡れていた。
その頬と額にひとつづつキスを落とす。
声を殺して誰もいない場所でこっそりと泣くミリアリアに気付いているのは多分ディアッカひとりだけの筈だ。
コーディネイターの彼の聴力だからこそ拾える微かな泣き声に気付いた時には・・・胸が痛んだ。
ディアッカは腕を伸ばすと小さなミリアリアの身体をそっと包み込む・・・。
その腕に力を込めると初めは抵抗するミリアリアだが、そのうち身体の震えと声を殺した嗚咽がディアッカにも伝わってくる。
そして暫くすると・・・その嗚咽は規則正しい寝息へと変わる。
ひとりではもう眠ることの出来なくなったぼろぼろのミリアリアがに、せめてこうしている間だけでも眠れるようにと催眠暗示をかけた彼。
(大丈夫・・もうひとりにはしないから・・・)
眠りについたミリアリアの耳元にそっと呟いたその言葉。
それはどこまでも広がる闇にも似た心の陰に差す光。
───ずっとそばにいるよミリアリア・・・。
大丈夫。オレがおまえをひとりにはさせないから・・・。
そして・・・このまま朝が来るまでひとときの夢を・・・。
AAにおけるディアッカの1日はミリアリアで始まりミリアリアで終わる・・・。
(2005.8.1) 空
※ こだぬきさま!たいへんお待たせいたしました。
リクエストの『種キャラオール出演でディアミリ主役のAAの日常(ほのぼのでありながらもギャグ)・・・ディアッカの1日』を
お送りいたします。全体の3分の2をギャグで。ラストはシリアスタッチにしてみました。
ここのサイトの『D』はオバカなことをやっている時とシリアスな時の差が激しいのでこんな風になってしまいました。
ミリィで始まり、ミリィで終わるのがディア君のお約束だと思っている私はアホだと思います・・・。
リクエストありがとうございました!
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